2-2 移り変わる世界
汽車が汽笛を甲高く上げてゆっくりと列車が動き始める。
こんな汽車。あの頃にはなかった。これはあの事件が起きてすぐのころに世界中に敷かれたレールと共に現れたものだ。
今ではもう世界に馴染んだものだが当時は世界が大きく変わるとルーブクも言っていた。
この技術数が世界に普及すれば、それは1つの歴史に残る大革命となっただろう。
だがこの技術が用いられているのはこの汽車だけ。
理由はただ1つ。
この技術はとある1人の人間にしか扱えないからだ。それが誰なのかはうわさ程度でしかわからない。
うわさでは1人の少女が汽車を作ったというだけのものだった。
レールは今の技術でも作れるだろう。実際にそうだったからだ。
しかし、その上を走る汽車だけは彼女にしか作れないのだ。
彼女が作ったのだから所有権は彼女にある。世界中の国が大金はたいてでも汽車を買おうとしたが彼女はその全てを断り、作り方や理論さえも誰にも明かさなかった。
なぜ彼女がそんなことをしたのかは俺にはわからない。
だがなんとくこれだけはわかる、彼女は意地悪をして売らないわけじゃない。
売らない理由があるのだと俺は思う。
車内販売の弁当を食べながら外の素速く移り変わる景色を眺めていると少し眠気が襲ってきた。
だがそんな眠気は次の瞬間にすぐにどこかへ消えてしまった。
「きゃーー!」
「オークだ!」
その叫び声を聞いて目が覚めたが人々がパニックになって逃げまわる足音は聞こえなかった。
どちらかというとそれは悲鳴というより、小さな子供が自分の目の前を横切った犬や猫を見た反応に近かった。
なぜならこの線路上には魔物を内に入れない強力な魔法陣が仕掛けられているからだ。
その魔法陣は今ではどんな街にもある。
そのことがもう魔物の時代は終わったということを告げていた。
魔物はもうこの列車の中からでは動物園にいる猛獣と変わらなくなってしまった。
列車の速度に追いつけないオークはすぐに遥か遠くへと見えなくなって行った。
………。
目を覚ますと車窓から覗く空は燃えているように赤かった。
夕焼けの日差しが俺の目を覚ましたのか、俺は固まった全身をほぐすように座ったまま背を伸ばして再び窓の外を眺め始めた。
【もうすぐでカラストか…】
到着予定時刻から鑑みるとあと数十分もすればカラスト街の駅に着く。
頭の中にはあの日の記憶が蘇る。
俺の始まりはあそこにある。
カラスト街での日常を思い出しているうちに汽車は速度を落として遂にカラスト街の駅に着いた。
カバンを肩に背負いながら俺は汽車を降りて駅を出た。
当たり前だがもう街は復興した後であり、昔の面影の残る建物や新しい建物も出来ていた。
それでも空気は変わらない。
俺は大きく深呼吸をして夕焼けの太陽に照らされた。
セントコアルへの汽車の出発時間まではあと2時間はある。
やることは汽車の中で考えていた、まずは懐かしの大通りの露店で食べ歩きをしたい。その後はあの家の様子を見に行って最後に母さんの墓参りをする。
数年ぶりに訪れた大通りはまだ活気に満ちていた。いろんな露店が立ち並び、家族連れの人たちも多く見かけた。
みんな成長しているからか、それとも長い年月離れすぎていたからか、見知った顔もあったが誰が誰なのかも少しわからなくなってしまった。
露店で幾つかの食料を買ってそのまま歩きながら食べた。その味も変わってしまったものもあったが変わらない味も確かにそこにあった。
全部食べ終わる頃にはかつて俺が生まれ育った家の前まで着いた。
そこは集合住宅。最近ではアパートなどとも呼ばれるようになった。
かつての俺たち家族の部屋はどうなっているだろう…。父親の預金通帳にはまだ手はつけていないので家賃も払っていない。それにルーブクからも念の為にあの家の家賃を払って部屋の権利を継続されることは避けたほうが良いとも言われていた。
もうあの部屋には他の人が住み着いているだろう…ただ…あそこには忘れられない大切な思い出が沢山あった。
しばらくアパートの前で立ち尽くしてそろそろ母さんの墓へ行こうとして足先を変えると目の前の少し歳を取った女性がこちらを見ていた。
その顔には見覚えがあった。
「ラウルーレンス…君…?」
その声で俺はあの日々の記憶が蘇った。それは母さんが亡くなってすぐ、彼女はかつて家にお手伝いさんとして家事をしに来てくれた人だ。
「ノルリさん…」
あれから何年も経ってもう40歳ほどになるのだろうか、ギリギリお姉さんだった彼女はもうおばさんの領域に足を突っ込んでいた。




