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ルーブクとラウルーレンスは件の場所から離れて避難所へ向かった。理由はルーブク自身の治療のためでもあった。
白いテントの中へ入っていくと中には苦しみに悶える人、建物の崩壊に巻き込まれ四肢を切断するに至った人、救命処置も虚しく亡くなってしまった者も居た。
そしてテントの中には怪我人を治療するために医師や回復魔法を扱う一般の冒険者が慌ただしく治療に従事していた。
1人の医者が次の患者への治療へと移る際にルーブクに呼び止められ、見るからに重傷の様子だったので「処置をするから横になれますか!?」と言ったが、「そんなことはしなくていい、自分で処置はするから縫合用の針と糸、包帯、消毒液が欲しい」と言われて怪訝に思いながらも口論をしている場合でもないのでそれらを早急に用意して彼に手渡した。
ルーブクは「助かる」と軽く礼を言うとラウルーレンスを連れて誰も居ない端の方へ移動し、座りながら自分で自分の処置をし始めた。
「ここなら周りに聞かれる心配もないな。」
「俺から話したいことがある。」
彼は自らの傷口を慣れた手つきで痛みに耐えながら縫合しつつ話を続けた。
「結論から言うとお前にはこれから俺と一緒に来てもらいたい。」
「理由は主に2つ…」
「1つ目はお前が未来の信徒の連中に狙われる可能性があるからだ。幹部ベリアン・シトラールが本の回収に失敗し、殺害されたとなればこの街に奴らは必ず調査しにやってくる。」
「つまりお前の家、お前の父親の関連がある場所や人のことも調査するだろう。実際に俺もそうだが、アイツらはこの街にお前たちの家があることは知っているらしい。」
「1つ目だけならどこか安全な場所へ移住させるだけでもいい…だが、問題は2つ目だ。」
彼は傷口の縫合を終え、包帯を丁寧に巻きながら神妙な面持ちでさらに続けた。
「お前がベリアンに拘束された時、お前は確かにアイツの権能を破り、その身体からは到底出せないような力でヤツを瀕死にまで追い詰めた。」
「最初に会った時、お前は正真正銘、ただの子供だった。だが、確かにあの時のお前はなんというか…歴戦の戦士のような勢いとそれに伴った力があった。」
「そして不信の権能を破ることもしてみせた…」
ルーブクはラウルーレンスの自分でもはっきりしないとでも言いたげな様子を見ると「やはりか…」と言葉を溢した。
「お前もその力が何なのか分からないんだろう?」
彼の問いにラウルーレンスはただコクリと頷いた。
「俺も全くわからん…。だが、その力は強力だが、理解せず強いが故に狙われる。」
「だが…その力を完全にモノにしたならば話は別だ。」
「その爆弾は大きな武器に変わる。そして度を超えた強さは他を寄せ付けなくなる…」
「そこでだ…俺がお前を鍛えてやる。お前が望むなら俺がお前を最強というやつにしてやる。」
ラウルーレンスの心は決まっていた。
自分は弱い。目の前にいる人も守れない。いつも助けてもらってばかりで、両親に何もしてあげることができなかった。こんなにも多くの人々が傷付いて死んでいっても、母親と一緒に暮らしたこの街が壊されていっても…何もできない…。
誰かを助けたい。守りたい。誰も死なないように…傷付かないように…。
全部は無理でも、何か1つでも守れるのなら…俺は強くなりたい…。
ラウルーレンスはルーブクの手を強く握って目を合わせた。
「どうした?鍛えるにしろ鍛えないにしろ俺がお前を連れていくのは変わらない。」
「自分の身を守れるようになって自由を得るか、我が身可愛さに俺に保護されるか。」
「それだけはお前に選ばせてやる。」
逃げたい…。傷付きたくない…。だけど…、何もしないで'後悔'だけはしたくない!
臆病な自分に勝てない奴が誰かを助け守れるわけがない!俺は自分自身の胸にそう刻みつけながら答えた。
「俺を強くして欲しい。自分のためじゃない。誰かを守れる強さが俺は欲しい!」
その目には覚悟、離別、決意が宿っていた。
その瞬間、彼はもうこれまでの彼ではないことをルーブクはその言葉、その目を見て感じた。
今、目の前の子どもは、自分自身を'超えた'のだ。
「良いだろう。お前には強い信念がある。ついて来い。俺がお前を、理想のお前にしてやる。」
そう言いながら立ち上がる彼を見てラウルーレンスは礼を言う。
「ありがとう!おじさん!」
「おじ…、いや、まだ名前を教えてなかったな…。俺のことはルーブクと呼べ。」
「お前の名は?」
2度目のおじさん呼びにまた動揺してしまったが、ルーブクは彼の名を問うた。
「ラウルーレンス・アスラン。これからよろしくおねがいします!」




