1-11 理想の自分
俺には何ができるのか…
自分の母親の死も見ることしかできず、父親は自らの知らない場所で知らないうちに死んでしまった。
少し魔法を覚えたというだけで何かが出来ると勘違いして危機感も持たないであの場所に様子を見に行ってしまった。本当なら逃げる人々を見た瞬間にその場から離れるべきだったんだ。
あの灰色髪の男に気付かされた。
俺はこんなにも弱い…
気絶して寝ている間にも多くの命は失われていた。
今も本を渡したあの男の人のことも守れない。
俺を守ってくれたあの人みたいに誰かを守れる人になりたい。
目の前の誰かが消えないように。誰も傷つかないように。誰かを守れる強さが欲しい…
だけどそんな理想ももう叶わない。
目の前に振り下ろされるナイフを見てそう思いながらラウルーレンスは静かにその目を閉じた
「させるかよっ、!」
その雄叫びはルーブクのものだった。
ベリアンの動揺で身動きを取れるようになったベリアンは自身のナイフをベリアンの心臓に背後から真っ直ぐに突き刺していた。
「お前…ルー、ブク…」
「お前が珍しく動揺してくれて権能の効果が切れたおかげだよ。」
普段なら他人の前であんな焦っている姿を見たことはなかった。
それほどベリアンにとって、不信の権能は自信的なものだったのだろう。
しかしそれをまだまだ成長途中の子供に破られたのだからさぞかし頭は混乱していただろう。
子供相手に溢れんばかりの殺気を浴びせるほどに…
ベリアンは膝から崩れ落ちながら目から光が消え、ゆっくりとその目を閉じた。
体力も限界だったのだろう、底力を出すこともできずに彼は地面に倒れた…
「はぁはぁ…、!、っ、!」
息を切らしながら自らが手にかけたベリアンを見下ろしていると権能の効力が切れたのか、ラウルーレンスも自由に動けるようになりベリアンの前で立ち尽くすルーブクを見つめた
「大丈夫か、?」
ルーブクはラウルーレンスに見られていることに気がついて彼のことを気遣った
「おじさん…人のこと心配するまえに自分の身体見てみてよ…」
「え?」
改めて自らの容態を見てみると全身傷だらけでカトルに与えられた爆傷や斬撃が酷く身体に刻み付けられていた
「はは…ボロボロだな…」
ルーブクは小さく笑いながらベリアンに盗られた本を取り返して再び懐に仕舞った。
「悪いな坊主。お前に言った約束守れなかった。」
「俺もまだまだらしい…」
カトルを捕えることができずにこのような殺す結果になったことに悔やんでいると幾重にも重なる通路の奥から人の足音と話し声が聞こえてきた
「こっちか?最後に爆発があった場所は。」
「そのはずよ。潜伏しているのかもしれないから慎重にね。」
2人の男女の声が聞こえてルーブクは叫びを上げている身体を労る暇もなくその場から離れようとした
「誰か来る…場所を変えるぞ。」
彼の言うとおりに声がしてきた方向と反対方向に歩きだしてその場を離れたことでそこにはベリアン・シトラールとカトル・ニロべはそこを最後の場所としてその命に幕を下ろした
しばらくすると話し声の主と思しき2人の冒険者がそれらの前までやって来た
「ねぇ…これって…」
「片方の男は損傷が酷いが特徴的に件の男で間違いないだろう…」
「ここで何が…とりあえず衛兵をここに、俺はここで見張っておくから…」
「わかったわ。」
男なりの気遣いか見るに耐えないこの惨状の現場から彼女を離れさせて事件の処理をしてくれるように衛兵を呼びに行かせた
彼女がそこから離れると彼は近くの壁に立てかかって腕を組み、ため息を吐いた。
「はぁ…まったくなんだってんだ…今日はゆっくりと休むと決めていたのに…」
そう小さな愚痴を吐いているとフワッと風が通り過ぎたように1人の男の死体が目の前から消えた
「は?」
嘘のような出来事に思わず言葉を溢しているともう一方の損傷の酷い死体に目を向けた
しかしそっちの死体は残ったまま…
あまりの不気味さに男は剣を抜いて臨戦体制をとった。
いきなり目の前から動くはずのない死体が消えたのだからその精神状態は普通ではなかった
「な、なんだ、!」
男は冷や汗を垂らしながら周囲をくまなく見渡した。
それでも人一人の影も形も見当たらない…
だがそれでもまた通り風は吹いた。
しかしそれは鎌鼬のように彼の首を切り落としていた。
地面に自由落下していく僅かな視界で見えたのは1人の死体を担いだ白い髪をした人影だった…




