1-10 権能超越
ラウルーレンスが目を覚ますと目の前には石畳みの地面。顔を上げるとそこにはルーブクの首に注射器を刺そうとしているベリアンの姿があった。
だが恐怖心が頭を襲うよりも前に自然と身体が動いた、立ち上がって手をかざして相手が気づいていない間に照準を合わせてベリアンの背中目掛けて炎の球を放った
"火球"
「ア゛ァァァァ!!!」
突然の不意打ちにベリアンは思わず注射器を手放してパリンと注射器が割れた。
そして身体に回る火に絶叫したがすぐに羽織っていた服を脱ぎ捨てた。
「ハァハァ…」
「お前か…このガキ!」
"不信の拘束"
ベリアンはこちらに手をかざしているラウルーレンスを視界に入れるとすぐに拘束した
「馬鹿野郎!逃げていればよかっただろう!」
口だけ動かせるルーブクが手遅れながらラウルーレンスに叱責した
でも今その言葉はこの時の俺には届かなかった。
時間が経っても恐怖心は襲ってこない。
意識はただ目の前のベリアンに集中していた。
「気絶したからと油断した俺のミスだな…」
上着を脱いで火から逃れたベリアンはカバンを再び手に取って中から少し長めのナイフを取り出した
「だからお前だけは楽に逝かせてやる。」
ナイフを抜いて目の前まで来ても怖いとは思わなかった。
意識はしっかりと彼だけを見つめ。
無意識はこの状況は打破できると感じていた。
この敵となれば無条件に動けなくなるという権能。普通ならこんな能力を持ってるやつに絡んだり近づこうなんて思わない。
逃げたい、近づきたくない。カトルの時のようにここから一刻も早く離れたいとこれまでなら感じていただろう。
でもこの瞬間は違った。
胸が高まり、いつもより少し速い心臓の鼓動が心地よく感じた。
俺なら超えられる。越えられるはずだと自信を持っていた。
あれは夢なのか現実なのかわからないが彼女は確かに頬に触れた瞬間に俺になにかをくれた。
そのなにかは異物感を感じさせず、自然に身体に馴染んで行った。
あたかも初めから自分のものであるかのように。
自らの手や足、指先を動かしたりするような当たり前のことのように。
"権能超越"
全身が一気に軽くなった。
嘘だろと言わんばかりに動揺で目を見開く相手が振り下ろすナイフよりも速く。ただ瞬く間の一瞬があれば十分だった。
「なっ、!」
気がついた頃にはベリアンは壁にめり込んでいた。
【何が、っ!】
【どうやって、リストレイントを…?】
彼の目に最後に映った光景はあの子供がありえない速度で自分の鳩尾を殴り、そのまま後方の建物の壁に叩きつけられたものだった。
【吹き飛ばされた…でもあんな小さなガキの拳一つで、?】
あまりの衝撃に全身が痙攣してまともに動けない身体をどうにか動かそうとしても地面に転がるだけに終わった
【まだだ、!】
【あんなの…ありえないだろ、!】
「俺は不信のベリアン・シトラールだぞ、っ!」
"不信の拘束"
「くっ、!」
一度は解かれた拘束を再びラウルーレンスに与えるとこれまでと同じように彼はその場で指先一つ動かせなくなった
「そうだよな…これが普通なんだよ。」
「お前みたいなガキに俺の権利が解けるはずがないんだ…」
そう自分に言い聞かせるように必死に身体を起こして身動きの取れないラウルーレンスに地面を這いずりながら近づいていく
しかしラウルーレンスは拘束を解かない。いや、解けなくなっていた。
【あれ?どうして!?】
【なんで、!?一度は解けたのに!?】
内心ラウルーレンスはとても焦っていた。
身体中を巡っていたアドレナリンは抜け切ってしまった。
あの無敵感を得るために何度も同じようにあの力を使おうとしたが何も応えてはくれなかった。
「待っていろ…お前は、必ず俺が殺してやる。」
「俺に、俺をこんな無様な格好にさせたお前は、俺に…殺されるべきなんだっ、!!」
膝を震わせながらゆっくりと立ち上がってナイフをも震わせてラウルーレンスの首を逆の手で鷲掴みにした
「俺の前から消えろ!」
そう叫びながら振り下ろすナイフ今度こそは死ぬと肌で感じさせた
誰にも助けは求められない。
自分にはあの力を引き出すこともできない。
俺は一体なにができるんだろう。




