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第9話 あれ? 貴方、いましたか?

「おい!!!! 平民ども無礼だろ!!!!」

 エレノアは、お疲れとソフィアの方に向かおうとすると、その間にケニールス公爵子息が立ち上がり顔を真っ赤にしていた。

「無礼とは?」

 面倒だが、早く終わらせたくてエレノアは口を開いた。だが、私に向かってその態度は何だ!! とさらに唾を飛ばしてくる。短剣を握り直したくなるのをグッと我慢する。

「リーダーも無礼だが、何よりもこの女とこの男からの仕打ちは許せん!!」

 ソフィアとレングに対して交互に指を指す。ソフィアは真顔で、レングは眉間に皺が寄りケニールス公爵子息を睨んでいる。2人が本気でキレた時の態度だった。

 キレたくなるのもわかる。

 今までケニールス公爵子息は腰を抜かして、その場に座っていたただけだ。モンスターの退治が終わり危険が無くなったため、動けるようになったのだろう。

 その事実にエレノアは、思わず失笑してしまう。

「何を笑っているのだ!! リーダーが、この男と女の躾をせねばならないだろう!!」

「躾……。2人がどのような無礼なことをしてしまったのか今後の参考までに聞いても良いですか?」

 サングラスの下では、眉間に皺を寄せながらエレノアは問いただしたが、ケニールス公爵子息はエレノアの様子には気づかず得意げに頷く。

「この男は私を引きずり、この女は足蹴にした……。無礼だろ!!」

 レングはキャリオンクローラーから守るために体を引っ張り、ソフィアはアンデットたちに襲われないように守りながら戦ったため足が体に当たってしまっただけだろう。腰を抜かして動けずにいて邪魔だったが無下にしなかっただけ偉いと思う。

 ドヤッと得意げな顔にと短剣をやはり握り直そうとするが、すまない。とガインド公爵の小声に手を動かせなかった。

「ケニールス公爵子息、適切な対処をしていただいたレングさんとソフィアさんに失礼です」

 ガインド公爵は真剣な表情で伝えるが、ケニールス公爵子息はわざとらしいため息をついた。

「ガインド公爵はお優しいですね。この任務自体が平民と我々、貴族が同列に参加しているのも可笑しいですよ。まあ、この者たちと同じ平民の血が流れているガインド公爵には気持ちがわかるのかもしれませんね。その血のせいで、適切な判断も出来ていないのでしょうね」

 ニヤニヤとバカにしたような笑みを浮かべるケニールス公爵子息に対して、ガインド公爵は笑みを浮かべたままだった。

 エレノアは、怒りで体が熱くなっていくのを感じた。

 ガインド公爵は、自身の実力で王国騎士団の副団長まで登り詰めた。そのようになるには、想像を絶する努力をしたのだろう。

 王の血が流れていても、生粋の貴族は両方が貴族でなければ認めない。何よりもガインド国は実力のない貴族にその傾向が強い。王の血が流れているのだから、言い返しても問題はないのにガインド公爵はしない。ケニールス公爵子息と同じようにはなりたくないのだろう。今の地位がない時などもっと酷かっただろうなと想像がつく。

 何がガインド公爵を突き動かしたのだろう。

 エレノアは、ガインド公爵に敬意を示すためにやりたくなかった手段を取ることにした。

 サングラスを外し、後ろに結っていた髪は解き、笑みを浮かべる。

「ケニールス公爵子息、ご挨拶が遅れ、申し訳ございません。エレノア・メディエンと申します」

 ドレスではないため、ドレスの裾は掴めないが右足を斜め後ろの内側に引き、左足の膝を軽く曲げる背筋を伸ばしたまま礼をする。

 「メディエン家の……」

 顎が外れてしまうのでは? というほどケニールス公爵子息は口を開けて驚いているが、エレノアは気にせずに言葉を続ける。

「私の監督不届のせいで、ケニールス公爵子息を不快な気分にさせてしまい申し訳ございませんでした。しかし、レングが居なければ今頃はキャリオンクローラーの胃の中……。ソフィアが居なければアンデットたちに生きたまま食べられていたかもしれません。まあ、そのようになられても私が治すことは可能ですが、私の血の半分も平民ですので適切に治療ができない可能性はありますので、申し訳ございません」

 にっこりと笑みを浮かべると、ケニールス公爵子息は顔が真っ青になった。

 ガインド国の医療は、メディエン家が仕切っている。魔法も強化しようとしているが、魔法が使える者は多くなく、その中で高度の回復魔法が使えるものはさらに少ない。そのため、医師や医療従事者の育成や技術の発展にもメディエン家が関わっている。そのメディエン家から見放させるのは死を連想するだろう。

「まだ、洞窟内です。モンスターの出現はあると思いますので、私がリーダーをするより高貴の血のケニールス公爵子息が行う方がいいですわ。私たちは何もせずに見守らせていただきますね」

 いや……と首を横に振るケニールス公爵子息にエレノアは笑顔のみで返す。

「ならば、私もメディエン伯爵令嬢の意向に沿おう。私は騎士団副団長で立場というものがあるが、高貴なものに譲るとしよう」

 ガインド公爵が、エレノアに乗っかってくると思わなかった。

 ケニールス公爵子息は今、自身がどの立場でここにいるのか思い出したのかガタガタと震え出した。騎士団での居場所がなくなれば、どこにも居場所がなくなるのを思い出したようだ。

 公爵子息の従者が何か言ってくるかと身構えていたが、特に発言せずに主人の側にいるだけだった。主人より状況は把握できるが、主人の側にいることを重視するのみで意見することはないのだろう。

 ケニールス公爵子息は洞窟を抜けるまで静かになり、さっきまでの態度が嘘のようだった。

 キャリオンクローラーは後で騎士団が回収してくれるらしい。タイミングの良すぎるアンデットたちも、調査対象にするとのことだった。

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