第7話 特殊能力!? それだけではないですよね
ガーストやグールなどエーデ洞窟で遭遇するモンスターのみで異変なく進むことができている。
エレノアやレングやソフィアが率先して対処していたが、ガインド公爵とフィリップも戦闘に加わるようになった。ガインド公爵やフィリップは鍛錬を積んでいるとわかる剣捌きだ。人型のガーストやグールを躊躇なく、切り刻むところを見ると戦場の経験も多そうだ。
ケニールス公爵子息は、やはり戦場なれしていないのかガーストやグールの首に悲鳴を何度もあげていた。フィリップはケニールス公爵とその従者にバレないようにわざと首をそちらをやっている様子を見ると、まあまあいい性格をしていそうだ。
「ガインド公爵、そろそろ私が変わります」
ずっと先頭で1人でモンスターの対処をガインド公爵が行なっている。体力を考えるとそろそろ先頭を交換した方がいい。エレノアが声をかけるとガインド公爵は笑顔で返答する。
「私は体力を気にされているなら大丈夫です。体力を強化しているので」
エレノアは意味がわからずに首を傾げていると、それに気がついたガインド公爵が慌てて言葉を続けた。
「説明不足で申し訳ない。私は能力で体を強化することが出来ます。今は、体力を強化しているのでエラさんが見積もっている体力の2倍は動けると思います」
「強化……。エーデ洞窟のような所では人数で戦闘は出来ないので、ありがたい能力ですね。強化と言われると、瞬発力や腕力とかを想像していましたが持久力も強化できるのですね」
「自身の体であれば、どこでも強化できます。まあ、知能は無理ですが……」
「首席で卒業している人が何を言っているのですか」
フィリップは呆れた表情だ。確か、ガインド公爵とフィリップは同級生で学園を同時期に卒業しているらしい。
「主席ですか!? 学園は貴族も平民もある一定の学力じゃないと入れないですよね? そこで首席とか、めっちゃ頭いいじゃないですか!?」
ガインド公爵やフィリップの立ち振る舞いを見ていたソフィアは素を出し始めていた。
「学園なんて俺は、何をしたって入れないっすよ」
レングもいつもの調子が出始めている。
「レングさんもソフィアさんも、そこまでの魔法の素質があれば入学できたと思いますよ? 私は魔法は全くできませんし、強化の能力も元が動けないと意味がないので鍛えるようにしただけですよ。学力も必死でした」
そのだけがみんなできない。とレングとソフィアは騒ぐ。
「レングさんやソフィアさんは高度な魔法操作してるのは、鍛錬の成果ですよね? レングさんは防御の魔法を攻撃として使用できるのは魔法操作が得意な証拠ですし、ソフィアさんの付与魔法の速さは難なくできることではないですよ。私は風魔法を少し使えますが、主の攻撃は剣術のみで緻密なことなどできないです」
フィリップもガインド公爵に賛同し始める。
貴族に褒められた。と小声で呟いたレングをソフィアはレングの防御の薄い足先を踏んで黙らせる。ソフィアは、ありがとうございます。とはにかんだ。
「風魔法が使えるのですね」
エレノアが、声をかけるとフィリップは悲しそうに首を振る。
「使えると言っても広範囲のところで使える程度です。洞窟のようなところで使っても風の軌道が変わり、安全を守りながら使えるとは思えません。本当はもっと上手く風魔法を扱えるのものが、チームに編成されていたのですけどね」
ケニールス公爵子息が参加することで、風魔法の使い手が参加できなくなったのだろう。笑顔だが棘のある言い方のフィリップに思わず苦笑いしてしまう。
「俺が防壁作れば、フィリップさんの風魔法がこの中でも使えると思いますよ」
足の痛みから回復したレングがフィリップに提案する。
「確かにできそうですね。ですが、チームにも風が当たりそうで不安ですね。この洞窟内で何人も負傷してモンスターが現れたら壊滅の危機にもなりそうです」
「そこは、大丈夫っすよ!! エラが得意の回復魔法でパパッと治してくれるっすよ」
「パパッと?」
眉間に皺を寄せたガインド公爵が呟く。明らかに先ほどと違う雰囲気だ。いつも会っていたガインド公爵みたいになり、エレノアを不機嫌な様子の瞳が捉える。
異変に気がついたソフィアが、再びレングの足を踏んで黙らせようとするがレングは上手く交わしてしまい口を開く。
「パパッとすよ!! 広範囲の回復魔法で、楽勝っすよ」
ドヤ顔なのが憎らしいが、レングがエレノアのことを誇らしく思ってくれているのはわかった。だが、鋭い視線を浴びると文句を言いたくなってしまう。
ガインド公爵は、エレノアの足先から頭を確認するように視線を向け、顔に穴が開くのでは? と言いたくなるほど顔をじっと睨みつけてくる。今までの朗らかな様子から殺気を纏っている。
「広範囲の回復魔法は、メディエン家の者しか使えないはずだ。限られた者だけだ」
今までとは違う様子にエレノアは、ため息をつきたくなってしまう。エラとして出会ったガインド公爵はエレノアが知っているガインド公爵とは違い、好感が持てていたのだ。そのように思っていたことにも、ため息をつきたくなってしまう。
「なぜエラさんが?」
確認しているが確信を持った声の強さにエレノアはガインド公爵から顔を逸らす。先ほどまでの穏やかな空気が一変し誰も言葉を発しない。
強い視線は続く。誤魔化すのは無理かと声を出そうとすると、ガインド公爵は突然にパーティーの後方に視線を向けた。
不思議に思い、声をかけようとすると違和感をエレノアも感じる。
ケニールス公爵子息以外の全員が、同じ方に視線を向けた。