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第6話 手柄? どうぞお好きにしてください

「ガインド公爵と一緒に仕事でき、ありがたく思います。話には聞いてましたが、想像以上の眉目秀麗ですね。私の妹のフレシティは容姿端麗なのでガインド公爵にお似合いですよ」

 何回目になるかわからない。同じことをケニールス公爵子爵は、ガインド公爵に話している。

 最初は、合いの手を入れていたガインド公爵も今では笑顔を貼り付けただけで対応している。

 唯一、頷きながら、そうです。その通りです。といい続けているのはケニールス公爵子息の従者だけだ。ガインド公爵の従者のフィリップは、顔に不満という表情を遠慮せずに出している。

 公爵家と言っても王弟のガインド公爵の方が現在は位は上だ。

 黙らせようとすれば、できるのにそれをしないところを見るとガインド公爵の人柄がわかる。

 騎士団のメンバーとは洞窟の麓の町で集合した。

 いつものドレスと違い、身軽さを重視した服装で母に言われたように目にガードを付けてきた。伸縮性のある素材のものを手首、足首まで多い胸当て、タイトな半ズボンはいつもの服装だ。寒い地域ならこれに、ガウンを着用するが、エーデ洞窟はなくて十分だ。太ももに相棒の短剣も忘れていない。

 エラです。と挨拶した際にバレるかとドキドキしたが、ガインド公爵は笑顔で胸に手を当て挨拶をしてきた。

「ガインド王国騎士団の副団長のエクリプリス・ガインドと申します。あなたが、ギルドのリーダーですね。我々、騎士団はエーデの洞窟に不慣れですので、ご指導をよろしくお願いします」

 お辞儀をするガインド公爵に驚いたが、表情には出さないように注意をした。もっとギルドに対しては、威圧的だと思っていたのだ。

「ガインド公爵は、どこの者かわからない者にも優しいですね。おい、お前たちのような者が会うことができないような方だ。ありがたく思え」

 想像していた通りの態度をケニールス・ハリス公爵子息が言い、今度は我慢できずに口元に弧を描いてしまう。笑うとは、失礼だぞ!! とケニールス公爵子息の従者に注意されるが、ありがたい注意だと思い、嬉しくて笑ってしまいました。その通りですね。とそのまま笑みを深くして返す。

 フィリップは主人に習い丁寧な挨拶を行ってくれ、レングとソフィアも続けて自己紹介をすることができた。

 ケニールス公爵子息とその従者は、挨拶することはなく見かねたガインド公爵が紹介してくれた。だが、ケニールス公爵子息はエレノアたちを一瞥するだけでガインド公爵に声を掛け始める。

 打ち合わせをしてからエーデ洞窟に入りたかったが、時間がもったいなくケニールス公爵子息を遮って会話するのも骨が折れるので、洞窟内に向かった。ガインド公爵も同じ考えだったのか特に引き留めないためそのまま歩みを進める。

 事前に書面でやり取りをしていて良かった。書面など意味ないと思っていたが、ガインド公爵はこれを見越していたのだろう。

 洞窟内に入ってもケニールス公爵子息の態度は変わらず、延々と話をしていた。

 洞窟内は一本道であるため、特に道案内も必要なかったがギルドメンバーが先行している。レング、ソフィア、エレノアの順にフィリップ、ガインド公爵、ケニールス公爵子息、ケニールス公爵子息の後ろにケニールス公爵子息の従者の順だ。

 洞窟は大人二人が通れる広さだ。二列に慣れるのだが、戦闘になった際を考え一列で進んでいる。

 ガインド公爵とフィリップは場慣れしているのか心得ていたが、ケニールス公爵子息はガインド公爵の隣に並ぼうとする。ガインド公爵がやんわりと説明するのだが、すぐに隣に並ぶ。

「貴族さんよ。一列で歩いてくださいよ。戦闘になった際にモンスターの相性で先頭に出るやつを変えたいし負傷した際に、すぐに後方に下がれるようにするためには退路が必要でしょうよ」

 レングが、声を掛けたがケニールス公爵子息は顔を顰めるだけだった。

「どのようなモンスターが出てくるかわからないですし、退路は必要なのでよろしくお願いします」

 見かねたソフィアが、頭を下げ伝える。

「どのようなモンスターに対しても対処できるためにお前たちがいるのだろう!! 私やガインド公爵の代わりの傷は名誉だろう」

 ケニールス公爵子息は鼻で笑う。

 レングの顔は怒りに満ちて、ソフィアは表情を無くした。空気が一気に変わる。このままだと、洞窟調査どころではない。エレノアは心の中でため息をつき、口を開く。

「ケニールス公爵子息はご立派ですね」

 今まで小馬鹿にしていた表情のケニールス公爵子息が、不思議そうにこちらを見てくる。

「ケニールス公爵は王太后の親類の家系のはず。物流に強い家系で他国との貿易に強い家系ですよね?そのお家の方が、わざわざ騎士団に所属し民のために命をかけるなど、とても素晴らしいことですね」

「ああ……。そうだろ!!」

 ケニールス公爵子息は一瞬は目が泳いだが、すぐに誇らしげな表情に変わる。

 ハリス・ケニールス公爵子息は長子でありながら、数字に弱く貿易に関わることを学ばせても身にならなかったと聞いている。ケニールス公爵は息子が可愛かったのか、商談の場には連れて行っていたらしい。だが、その妬みなのか元々の性格なのか相手に対して威圧的な態度を取りまくり家業に関わることがなくなったと聞いている。

 はっきり言って穀潰しだ。

 最後は騎士団に居着いたらしい。騎士としても腕はなく、籍を置いているだけになっているとのことだ。今回の探索は、ケニールス公爵子息とその従者ではなく、実力のある騎士が来る予定だったがケニールス公爵家から圧がかかり、このようになった。エーデ洞窟は、モンスターは出るが宝石は取れる。その宝石を独占したいのだろう。本人はガインド公爵に媚を売るのに徹しているので、理解していないようだが、ケニールス公爵子息としては汚名返上できる状況だ。

「傷が名誉という言葉も、私たちのようなものに手柄を与えるためってことですよね? 慈悲深さに感謝します。ですが、隊列は流石ですね。私たちが対処できるモンスターは私たちに手柄をくれるつもりで、想定外のが現れた際にすぐに前に出てくださるということですよね? 私たちも邪魔にならないようにすぐに下がりますね。その際はフィリップ様、よろしくお願いします」

 フィリップはケニールス公爵子息に表情がバレないことを良いことに笑顔で、すぐに下がります。任せてくださいと頷く。

 意味のわかったソフィアは満面の笑みだ。レングも、その際は俺がすぐに手を上げるのでそれを合図に下がってくださいとニヤニヤしている。

「そっそれは、一番の手柄を取るのは悪い。私もこちらの列に入ろう」

 ケニールス公爵子息は、すぐにガインド公爵の後ろに着く。

 ガインド公爵は、やり取りを黙って聞いていたがケニールス公爵子息の素早い動きに我慢できなくなったのか肩を震わせている。声は漏れないように腕を当てているようだ。ケニールス公爵子息は、自身が剣を抜くという可能性を認識したのか周りのことなど気にできていない様子だ。

 ガインド公爵の今までの余裕のある笑みと違い、顔をくしゃくしゃにして笑う。その意外な表情に思わず、エレノアは魅入っているとガインド公爵と眼があった。笑いすぎて涙を溜めたまま、笑う表情にどこか懐かしさを感じた。

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