第5話 洞窟探索? 行きたくありません
ガインド公爵からお茶会の後も手紙が届けられていたが、使用人には悪かったが、目の前で破り捨てるのを繰り返していた。
立場的に困るのは、兄だったがガインド公爵とは友人だったはずだから大丈夫だろう。
「エラ、レングとソフィアとパーティーでこの依頼を頼みたい」
珍しく母に呼び出されたた。ギルド長としての呼び出しのため、仕事の内容だとわかっていたが、その内容はすぐに頷けるものではなかった。
「騎士団と合同のチームで、エーデ洞窟の調査? 何で騎士団と?」
エーデ洞窟はノースガインド領に位置している。宝石の発掘で造られたものだったが、モンスターが棲みつき、宝石産業は廃れ素材発掘などのために使われている。危険性は少ない。
「騎士団が出てくる理由は知らん。アウグラウスに聞け。私は関わりたくない。洞窟については、トラブルを聞いている」
「兄さんには聞きたくない。というか話をしたくない」
アウグラウスも立場があるから話はしてやれ。と呆れる母にエレノアは、王族関係者になったら母さんだって、社交界に全く顔を出さないは無理なんじゃない? とじっと見る。娘のためなら、どうにかするさ。とにっと笑う母に何も言えなくなり、疑問を口にする。
「トラブル? ヴィーヴルがまた現れたとか? それともこの頃、変異が多いからそれ?」
ヴィーヴルは蝙蝠の翼とガーネットの瞳を持つドラゴンで、ギルド長たちが討伐したはずだ。
「まだそれの方がおかしくないから良いんだが……。カトブレパスが現れたらしい」
「カトブレパス!? 遭遇したパーティーは大丈夫だったの?」
水牛に似ているが豚の頭で顎が腸のようにぐちゃぐちゃしているモンスターだ。毒が主の攻撃で、狭い洞窟で受けたら一瞬で壊滅で生きては帰れないだろう。
「たまたま、ローザがいた」
ローザは確かSランクで風魔法が得意だったはずだ。
「風魔法で毒を避けたの?」
「ああ。あの狭い洞窟でそれができるのはローザくらい風魔法の使い手ではないと無理だ」
「あの洞窟はランク高い人はあまり行かないものね」
カトブレパスは毒は怖いが、他はそこまでではない。接近してしまえば怖くないが、その接近が難しいところがある。
「またカトブレパスが出ないとは限らないからな。エラは適任だろう。まあ、貴族とのやり取りもできるしな」
まあ、確かにと任務の資料に目を通していると一番に会いたくない人の名前がある。
「待って何で、ガインド公爵の名前があるの!?」
「知らん。だから、アウグラウスに聞けと言っているだろう」
「今、兄さんのところに行ったらガインド公爵も来そうだから嫌。そのガインド公爵がいるなら私はこの任務は参加しないわ」
「エラで会うから問題ないだろう」
顔でバレるじゃないと、口を尖らしながら伝えると目のガードでもしろ。と投げやりに母に返される。
「そういう問題じゃないの!! 母さんだったらカトブレパスは余裕じゃない。それにあっちは何故か騎士団副団長が出てくるのよ。こっちだってギルド長が行くべきじゃないの?」
「ギルド長の中で貴族と付き合いたい奴がいると思うか?」
ギルド長たちの顔を思い浮かべるが、全員が首を横に振るだろう。
「仮に私が行っても、毒にやられた際に処置ができん。全体に回復や毒の解除ができ戦力にもなるのはエラだけだろ。レングとソフィアは、エラが了承すれば参加すると言っている」
先にレングとソフィアの了承を得ていることに、じっと睨みつけても母は気にせず笑うだけだった。
参加したくない。だが、洞窟の狭い場所で毒を使われたら一気に全員が毒を浴びるだろう。退避しようにも、通路が狭くどうにか一人を回復してもすぐにやられてしまう可能性が高い。
エレノアが適任だ。だが、それでも頷きたくない。
「父さんよ。父さんなら一瞬で回復できるじゃない」
苦し紛れに父のことを提案するが、母にはため息をつかれる。
「あいつが戦力になるわけないだろ」
エレノアも父の剣技の腕前は知っている。それに、戦闘経験がなくギルドに所属していない父が行く可能性はないのは提案しておいてわかっていたが、どうしても行きたくない。エレノアは返事をしたくないが、他に案が思いつかず項垂れるしかなかった。
「そんなに貴族との結婚が嫌なのか?」
母の声に顔を挙げると先ほどの揶揄う様子とは違い、優しい瞳でエレノアを見ている。幼い時から、その瞳で母は見守ってくれていた。周りの貴族たちに何を言われても挫けなかったのは家族が見守ってくれていたからだ。
「自由がなくなるわ。今のようにギルドに所属は出来なくなるだろうし……」
「自由か……。話をすればギルドには所属できるままかもしれないぞ」
「王弟がそれを許すとは思えないわ。それに、たまたま条件のあった私に対しての結婚だし、父さんと母さんみたいに愛はないから私の願いなんて聞いてくれないわ」
愛と言った際に母は苦い顔をしたが、実際は夫婦仲は良好だ。
「条件って何だ? あいつや家督を継いだアウグラウスには悪いが、得になる家系ではないだろ。英雄とは程遠い、自分たちのための行動だったからな」
世間では父や母、ガインド公爵の母の聖女ココは英雄とされているが実際は違う。嫌でも一部の貴族たちから、嫌味のように言われていたが両親から説明を聞いたのは学園を卒業してからだ。
「確かに……。回復魔法の血筋が欲しいなら、メディエンの本家の令嬢を迎えるものね」
「まあ、愛らしさと言えば一番の得だがな」
また揶揄わないでと口を開こうとしたが、母のふわりと弧を描く瞳と皺の寄った口元を見て否定できなかった。ガインド公爵の母親が母さんの友人だから? と照れ隠しに言うと母は無表情に戻ってしまった。
「友人か……。13年も会っていないがそう呼べるか」
「母さんは交流があると思ってたわ」
「ココには感謝している。あの日々の際は、私の寄り処だった。だが、王とのことは許せることではないよ」
何と声を掛けようと悩んでいると目の前に紙が出される。これは了承ということで。と依頼済みと記入されパーティーのメンバーにエレノアの名前が記入されている。
「ココの息子には幸せになって欲しい。私の娘を愛するのも見る目があるしな」
「愛なんてないよ!!」
叫ぶエレノアに母は笑うだけだった。