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第2話 美男子? それよりスイーツです

 ガインド王国は、前王が学問は誰に対しても平等だ。というスローガンを元に身分に関係なく、試験を通過できれば入学し学ぶことができた。

 貴族の一部は籍を置きながら、平民と一緒を嫌い個別の家庭教師に習う者もいた。だが、多くの貴族や平民、他国の留学生など男女関係なく学んでいた。

 兄が卒業する年に各国の留学生も多かったためか、例年と違い全学年が出席するパーティーが開かれた。

 貴族だけではないため、制服で参加することができ、エレノアにとっては気楽なパーティーだったが、コネを作りたいものには勝負のパーティーだったのだろう。

 そのせいか、料理も豪勢だった。エレノアは、これが一番の楽しみだった。

 数少ない貴族の友人には、社交をしっかりしなさいと言われ、平民の友たちはコネを作ると放置された。だが、気にせず会場に入っても料理に一目散だ。

 お腹が膨れてきた頃に、周りを観察してみると女性たちに囲まれているところが何箇所かあった。その一箇所に兄がいた事に笑ってしまう。

 頭1つ分、女性の集団から出ている兄と目が合い、一瞬睨まれたが串に刺さった白いデザートを見せながら笑顔を返す。

 黒い四角のツルッとしたデザートを食べ終わった後に兄の方をまた見てみると、外向きの笑みを張り付けたままの兄にさすがに同情する。

「甘いものが好きなのですか?」

 声の方を見ると細みの男性に話しかけられた。

「珍しいものが多くて、つい食が進んでしまいました」

 少し気を抜いている時に話しかけられたが、すぐに笑顔を貼り付けることができた。

「私の家の方で手配しましたので、そのように言っていただいて嬉しいです」

 貴族ではないと思ったけど、商人の息子か。

 ここまでの物を集められるのは、力のある商人だと思うけど興味ないからわからない。貴族は流石に、大体わかる。

「メディエン伯爵令嬢に気に入っていただけたのなら、鼻が高いです」

「メディエンと名乗らせていただいてますけど、私たちは本家ではありませんよ」

「本家でなくても、アーロ・メディエン伯爵と婦人は、国の英雄ではないですか。素晴らしいお家ではないですか」

「英雄ですか?」

「英雄ですよ。防御壁の改善でモンスターに襲われる確率は減り、私の家は助かっていますよ」

「私ではなく、お父様とお母様の功績ですね。伝えておきますね」

「いやいや、メディエン伯爵令嬢にお手数をかけるわけにはいきません」

「話をするくらいでは、手はかかりません」

「確かに、手はかかりませんね。メディエン伯爵令嬢は愛らしいだけでなく、ユーモアもあるのですね」

 笑顔を張り付けながら話をしていたが、顔が強張り始めてきた。だが、限界を振り絞り、朗らかな笑みになるように顔面筋に力を入れる。

「女性を褒めるのが上手ですね」

「女性を褒めるのは苦手ですよ。メディエン伯爵令嬢だから褒めています。愛らしい方だと思っていましたが、話をさせていただいて好意が増しました。あなたの日常に私も加わらせていただけませんか?」

 手の甲にキスをされる。一応、令嬢であるので何回か経験はあるが慣れない。剣ダコができているため、手袋をしておりその上からのキスだが、鳥肌がたっている。

 どのように断ろうかと思案していると、視線を感じる。どこからか探ろうとしていると、どうしましたか? と返事を催促されるが殺気のようなキツい視線に変わり、そちらを反射的に向いてしまった。

 兄の隣で同じように女性に囲まれている人物からだった。兄よりさらに頭1つ分大きいため、視線が合う。目線だけが鋭く、無表情でこちらをじっと見ていた。視線が合うとこちらに向かってきてしまった。

「エクリプリス·ガインド公爵!! お話ができるとは嬉しいです」

 殺気に似た視線に気付いていないのか呑気に声をかけている男性に呆れてしまう。

 遠くでもその美貌は明らかだったが、近くは破壊力が違った。鍛え抜かれた体は制服の上からでもわかる。はっきりとした二重、筋の通った鼻、薄い唇が笑みを浮かべれば色気が増すだろう。王族特有の銀色の髪も色気がある。

 今は無表情で視線で穴が空くと言いたくなるほど見られているため、笑顔など想像できない。

「何を話されていたのですか?」

「メディエン伯爵令嬢の謙虚さと可愛らしさについて話をしていました。ガインド公爵に声をかけていただけるなど光栄です」

「……可愛らしい?」

 エレノアの方を見ながらエクリプリスは呟くと誰が見てもわかるほどの顔をし、殺気を向けてくる。

 呑気に話しかけてた商人の息子もエクリプリスの機嫌の悪さを理解したらしく、顔面蒼白になっていた。

 エレノアは2人に気づかれないようにため息をつくと、兄に瞬時に目配せし笑顔を顔に張り付ける。

「エクリプリス・ガインド公爵ほどの方にしてみれば、可愛らしく愛らしい、美しい女性を山程見ているのですから、私など足元にも及びません」

 ガインド公爵は目を見開き、口を開こうとしたがそれを笑顔で制止し言葉を続ける。

「あちらの女性は、貴族の令嬢でありながら計算とかとても上手で数字に強い方です。愛らしい方でもあるので、声をかけてみてはどうでしょうか?」

 商人の息子は、呆気に取られていたが頷くとすぐにそちらに向かった。

 殺気は減ったが、射抜くような視線のガインド公爵をどうするかと兄が、飲み物を持ってやってきた。

 透明な液体のグラスを受け取り口をつける。口の中に瑞々しいフルーツのさわやかな味が広がる。緊張していたらしく、口の中は乾いていてフルーツ水が染み入る。

「エクリプリス、先に話をしていたようだが、こちらが妹のエレノアだ」

 来るのが遅い!! と声を荒げそうになったが微笑み返し、スカートの裾が邪魔にならず足を出しすぎない程度に掴みながら、右足を斜め後ろの内側に引き、左足の膝を軽く曲げる背筋を伸ばしたまま深く礼をする。

「エレノア・メディエンと申します。ご挨拶が遅れ、申し訳ございません」

「エクリプリス・ガインドだ」

 今度は、明らかに不満げな顔をするエクリプリスにエレノアは、笑みを返すが兄に笑みのまま視線を向け、圧力をかける。

「せっかくだから、ダンスでもしてきたらどうだ」

 兄はあえて無視したのか嬉しくない提案をしてきた。エクリプリスは何故か頷いている。絶対に嫌だが、王族を無下などできない。

 どうするかと思案していると兄たちの後ろの方に取り巻きだった令嬢たちがまだいる。

「さすが、ガインド侯爵はお優しいのですね。私のような者とも踊っていただけるは光栄です。ですが、他のご令嬢達が待っていますわ。私は気持ちだけでも十分です」

 わざと大きな声で言うとご令嬢達はこちらにやってきた。

「さすが、エクリプリス様です。お優しいのですね」

 一人の令嬢が言うと他の令嬢も一斉に頷いている。その隙にエクリプリスと距離を取る。

「お兄さまもガインド公爵を見習った方がいいですわ。ねえ?」

 また大きな声で、兄の取り巻きだった令嬢の方を見ながら言うと令嬢達はやってきて、あっという間に囲んでくれた。

 兄には睨まれ、エクリプリスは何か言いたげに口を開こうとしたが令嬢達の中で順番が決まったのか一人の令嬢に腕を組まれ、ダンスフロアの方に引っ張られて行った。

 あの人数ならエレノアに順番が回ってくることはないだろうが、もう美味しいものも堪能したので、会場を後にした。

 

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