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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

いつかきみに、またあえたら。

作者: 仲達餅

はじめまして。

初めて小説書きました。


不遇な少年が、ひとりの少年に救われ、初めての感情を知っていく、そんな物語です!

優しい目で読んで頂けると嬉しいです!

少々暴力表現、家庭問題、痛みの描写があります。

苦手な方は注意してください....!

いつかきみに、またあえたら。





 ぼくは、


お母さんにも、お父さんにも、

学校のクラスメイトにも

いじめられて、叩かれて、

 

喧嘩を毎日聞かされて育った。


ゴミ袋の山の中。腐りきった匂いが鼻を突く。

 母親の叫び声がまだ耳を打っている。



 路地裏で、ぼくはひとり。逃げ回る日々────


「……っ、は、は、は……」


 

荒れる呼吸音、部屋から漏れ続ける罵声。

親に拳を打たれるのが嫌で、涙が止まらない。



「やだ、やだよ....っ........」








 でも、ある時。ぼくと同い年くらいの子が

ぼくの手をぎゅっと、強く引いてくれた。

 



 ボロボロのぼくを、

誰にも頼れなかった自分を引きずるように歩いて。



痛みと涙でなにも見えなかった僕の視界が

少し晴れる気がした。




 

 ぼくと同い年くらいの子が

 口を開いてこう言った。

 

「......お前、名前は。」


「........え?」


「名前だよ名前、無いのか?」


 その子は落ち着いた声でそう言った。

 そういえばお母さん以外に、

名前なんて呼ばれたこと無かった。

 

 少し怖い。怖い、けど。

 怒っている表情の奥に、

 ぼくは優しさが眠っているような気がした。

 

「、七瀬...悠...、(ななせ はる)」


「ふーん、俺は柊 優璃。(ひいらぎ ゆうり)」

 「七瀬...いや、悠。なんで周りに助けを求めなかった?」


「僕...ずっと、周りに迷惑かけると思って、言えなかった...」

 

とっさに涙ぐんだ。

胸の中の痛みが溢れ出てしまった。

 

「ぼく...っ、ぼく.....、」


 もう、何も言葉が出てこない。

 ぼくの口が、思ったように開かない。


 

「...あっそ。」


 柊君は未開封の缶を片手に、

 優しく、強く抱きしめてくれた。


なぜだろう。柊くんは、ぼくと同じくらいの体なのに、

誰よりも、あたたかかった。



 

「ん、これ。飲め。引くほど美味いぞ」


 

 片手に持っていた飲み物を差し出してきた。

 

「知らないのか? コーラってやつで……」

「コーラ……」

 

飲んだこともなかった。


「……んなことどうでもいいんだよ、とりあえず飲め」


 

────カシュッ。


 

「.....開けてくれるんだ」


柊くんは、変なところで優しい。


しゅわしゅわという音とともに、ゴクリと喉を通る。


「っわ……!」


舌先と喉が、ほんのりヒリヒリする。

体験したことのない感覚に、なんだか楽しくなった。


「おいしい……!」


思わず、声が漏れてしまった。



「……お前も、いい反応すんのな」

「へっ!?!?」


柊くんは、ふっと微笑んだ。

さっきのクールな顔より、ずっと綺麗だった。


ぼくの人生の中で、今が一番、幸せな気がした。

初めて喉を通ったコーラが、

 

一番の思い出になりそうだった。




 

───隣のマンションから、

 激しく殴り合うような音が響いてくる。




 

「……っ……!」


また、思い出してしまった。

 もう、

 此処になんか居たくないとそう思ったその瞬間。



柊くんが、そっと手を引いてくれた。


「……ここはもう、お前の居場所じゃない。」


 

静かだけど、あたたかなぬくもりに満ちた声だった。


 

「えっ、ど、どこ行くの……!!」

「ああ? 俺んちだけど?」

「……え……」


「親に話す。色々。しばらくお前んちのことは、俺がなんとかするし。」


 

里親が見つかるまで、泊めてくれるらしい。

柊くんは、いったいどこまで優しいんだろう。


同い年のはずなのに、包容力がまるで大人みたいで。


 

ぼくは安心して胸をなで下ろした。

 

 


「ちょっと待ってろ。」

「うん……」


柊くんの親が許してくれるか、

 ぼくは少し心配だった。


 


「いいってさ。入っていいぞ」


ぼくはホッとして、胸を撫で下ろした。

お家の奥へ入っていくと、柊くんのお母さんがいた。


 


「悠くん、大変だったね。

 里親が見つかるまで、ここにいていいよ。

 ほら、傷の手当てと、あと、お風呂も入っちゃおう?」


 


「…っはい……!」


さすが柊くんのお母さん。

優しすぎて、涙がこぼれそうだった。



柊くんのお母さんの言葉に甘えて、

ぼくは湯船に浸かった。


お風呂なんて、何ヶ月ぶりだろう。


ぼくは一週間に一度、

 シャワーを浴びさせてもらえるだけだった。



傷にお湯がしみて、少しだけ痛む。

でも、それすら気にならないくらい。



ぼくは、心地よかった。








「……っ、いてて……」

「おい、あんま動くな。」

「ごめん……」


傷の手当てをしてもらうことになった。

消毒液が、ピリピリと傷に染みる。


「……よし、終わった。」

「ありがとう、柊くん。」


「……柊って呼ぶな。...優璃でいい。」


「っ……!! うん、優璃、くん……!!」


 

───下の名前で呼ぶなんて

 

ぼくは初めてだった。

すごく、嬉しかったんだ。



 

柊くんはゲームが好きらしい。

 ぼくは一度もやったことがない。

 せっかくだし、一緒にやってみることにした。


 


「……これ、すっごい……!」

「...あぁ、?まだチュートリアルだぞ」

「えっ!? うそ!?!?!?」


 敵をサクサク倒していく柊くんの横顔に、

 ぼくは思わず、見とれてしまった。


 


「……優璃くん、かっこいいなあ……」

 つい、声が漏れてしまった。


 


「……お前、今、笑ってるな」

「えっ??」


 ふいに言われ、空気が止まった気がした。


「……その、笑った顔、初めて見た」



 優璃くんは、少し恥ずかしそうにそう言った。


 

 初めてのゲーム、初めての友達...



ぼくはつい、心が跳ねてしまった。

 



 その後、少しゲームを続けた。


 

 「はー、つかれた〜」

「…そうか?」

「画面をずーっと見ながら、手動かしてるのって、意外と疲れるんだよ〜」

「...俺は慣れてるし。毎日やってるからな」

「そっかあ…」


僕は、ため息をひとつついた。


すると、優璃くんが冷蔵庫から缶を二本取り出して、無言で一本を差し出してくる。

受け取った缶を見て、ぼくはようやく気づいた。


「これ…コーラ?」

「お前、好きだろ?」

「……! うん!」


優璃くんがプシュ、と音を立てて缶を開けてくれた。

僕はその音を聞いた瞬間、つられるように喉が鳴る。


しゅわしゅわと、

 炭酸が喉を通っていく音が心地いい。

やっぱり、美味しい。


でも、それ以上に。

優璃くんと一緒に飲めるのが、ぼくは何より嬉しかった。


「俺、好きなんだ」



 ぼくは一瞬、

 頭の時が止まったように回らなくなった。


「...コーラのことだぞ」

「あっ、ち、違う! 勘違いしてないよ!

 美味しすぎて、びっくりしただけで…!」


「……ふうん」


ぼくは思わず、そう言ってしまった。


少しだけ。

優璃くんが、悲しそうな顔をしたような気がした。


でもきっと、それは気のせい─────





 楽しい時間があっという間に過ぎ、

気づくと夜になっていた。



 

「……俺、床でいい」

「、!何言ってるの、優璃君の家じゃん……」

「じゃあ、あの、半分こにしよう。ベッド狭いけどな……」

「……うん」



 照明が落ち、

暗闇にふたり分の呼吸だけが、静かに響く。


胸の辺りが少し、どきどきする。

 

けれど

 

 不思議と、落ち着いた。


 

隣にいるのが、優璃くんだから。


 

「……優璃くん、あったかいね」

「……うるせえ」


常夜灯だけの、ぼんやりとした灯り。

暗くてよく見えないけれど

優璃くんの頬が、少し赤らんだ気がした。


 

 暖かい夜が終わり、

 綺麗な日の出が見えた。


 


「優璃〜、悠く〜ん!起きて〜!

朝ごはんできてるよ〜♪」


優璃くんのお母さんの声が、階下から響いた。


ぼくは、優璃くんの体をゆすって起こそうとした。


「......ん、んん...」

「...起きない。」

 

 優璃くんは、意外と朝に弱い。


「優璃くん〜、朝ごはんだよ〜。起きて〜っ」

「ん"、んん……」



 起きた...そう思った瞬間、

 優璃くんが急にぼくの腕をきゅっと掴んできた。



「……ぎゅーして」


ぼくは唖然とした。

 少し寝ぼけているのか、

 いつもはクールでそっけない優璃君が、

 今はまるで別人みたいだった。


「……ぎゅーしねぇと...起きねえ……」

「う、うーん...」



 いざ抱きしめてなんて言われると、思ったよりずっと恥ずかしい。


「……よし!」


 思いきって、

 ぼくは優璃くんをぎゅっと抱きしめた。

 一瞬だけだったけど。


 

───やっぱり、すごくあったかかった。


 


「まあ…ふたりとも、朝から仲良しね♪」


 ぼくは驚いて、



 

「ふふ、見なかったことにしてあげてもいいよ♪」


ぼくは恥ずかしくて、目を逸らした。

 

優璃くんのお母さんはとてもお茶目で、

どこか優璃くんに似ていて、ちょっぴり意地悪だ。




朝食を終えたあと、ぼくは部屋へ戻った。

するとそこに、布団をかぶってうずくまっている優璃くんの姿があった。


「優璃くん……?」

「俺……朝から一体、何を……っ……」


優璃くん、相当焦ってる。


 

「優璃くん、大丈夫だよ。ぼく、ちょっと。嬉しかったよ」

「………は?」


また、優璃くんの頬が赤くなった気がした。


「ちょっとね、優璃くんは強がりで、そっけなくて。

 ぼくのこと、嫌いなんじゃないかなって思ってた」

「……だから、さっきぎゅーしてって言われて……

 その、ちょっと安心した。嬉しかった。」

 


「ばっ…….!き、嫌いじゃないけど、

 好きでもない…!だ、だからっ、だから……!

 勘違いすんなよ!!!!!」


そう言って、優璃くんはすぐに立ち上がり、

勢いよく部屋を出ていってしまった。


だけど、

そんな素直に口を開かない優璃くんを

ぼくは、許してしまうのかもしれない。




 

少し時間が経ったあと、

ぼくは優璃くんのゲームを借りて、手こずりながら進めていた。

優璃くんは少し落ち着いたのか、いつの間にか部屋に戻ってきていた。


「……ひとりでできんの?」



急に耳元で囁かれて、ぼくは肩を跳ねさせる。

 内心、難しくてなかなか進んでいなかった。


「……貸して」


「わ、う、うん……」


コントローラーを渡すと、

優璃くんは淡々と、敵を倒していった。

やっぱり、優璃くんには敵わないなって思う。


その横顔は、いつもよりずっと真剣で、かっこいい。








 

ぼくは、つい願ってしまう。

このまま時間が止まればいいのに、って。



 



 

 ―でも、そんな都合のいい夢、叶うのかな。

 ぼくは不意に、そう思った。


 



 

「優璃〜!悠く〜ん! 里親、見つかったって〜!」


ドアの隙間からひょこっと顔を出して、優璃くんのお母さんがそう告げた。


「えっ、...?!」


「……!」



嬉しいはずなのに、胸がぎゅっと苦しくなる。

嬉しいようで、悲しい。寂しい。

感情が、こぼれそうだった。



「急だった?ごめんね〜。ウチも一人増えると食費とかが厳しくなっちゃうんだよねえ...

 明日迎えに来てくれるってさ。……寂しくなるね」


「そう……ですね」


「……」


優璃くんはそれきり、口を開かなかった。

うつむいていて、顔がよく見えない。


優璃くんの中の気持ちが、今だけ、わからなかった。








 

 その夜、優璃くんは黙って家を出て、

 何処かへいってしまった。



 

 優璃くんのお母さんと協力して、

 でも、見つからなくて。



 

 優璃くんの気持ちも、分からない儘。

離れるのが悲しくて、寂しくて。

探して、捜して。

前が見えなくなるくらい涙が溢れて。


 

 

近くの海の横で、うずくまって。

思わず、涙とともに零れてしまった。

ぼくも、明日になるのが怖い。

今更、ぼくは気づいた。



 

 

いやだ、離れたくない。

 ぼくは優璃くんの事が、好き。大好き。

伝えられないまま、終わっちゃう。


 


そんなの、いやだ。

足がふらふらで、もう動けない。探しに行くことさえできない。

 

もうすぐ、朝になる。

────ぼくはただ、泣くことしかできなかった。

 


その時

風に吹かれる海の音に紛れて、

 誰かの足音と、息遣いが近づいてくる気がした。


 


「っは、は、……い、いた……は、悠……!」


「……っ、優璃くん……!!」

 


ふたりとも、不意に、同じくらいの強さで抱きしめあった。


 


「っ、は、悠……! お前、家にいなかっただろ……! 心配したんだぞ……!!」


「優璃、くん、...ぼくの気持ち、なんにもわかってないよ...!!」



「……あ、……は、る……」


思わず、声を荒らげてしまった。




「ぼくだって……優璃くんが何も言わずに出ていったから、すごく心配だったんだよ……!!」



「……っ、それは、その...ご、めん……」


 苦しそうに言葉を探しながら、優璃くんはうつむいてるような気がした。



「...あの、本当、ごめん...それで、あの...俺...本当、は...」

「お前がいなくなったら俺……ほんとは、怖いんだ、

...だから、だから...!」

 

 

「......俺は、俺は、...悠のことが好きだ。大好きだ……っ......大好きだ!!」

「ずっと、離れたくないくらい、悠のことが……!っ...大好きだ!!」



 いつも不器用な、優璃くんは唇を震わながら

 そう言う。

 



「......っ、優璃くん、ぼくも、だよ...言ってくれて...ありがとう......ぼくも、大好きだよ...」

 

「っ、...うる、さい...」

「あはは...優璃くん、素直じゃないんだから。」


 

 もう、心配する必要はない。

 ぼくはそう、確信した─────




 

 そのあと、ふたりでゆっくり家まで歩いて帰った。

 


 玄関の前まで来たとき、

 優璃くんは、足を止めた。


「……怒ってるよな、母さん」


「ううん、きっと大丈夫。心配してただけだから、多分...


 ドアを開け、家の中に入った。


 


「もうっ!優璃〜!悠く〜ん!! 二人とも……無事だった、よかったぁ...優璃?もう勝手に出ていっちゃ駄目よ〜....?」


「......ごめん。」


「あら、やけに素直ね?悠くんとなんかあったのかな〜?」

 

 優璃くんのお母さんは雰囲気を茶化すようにニヤリと笑った。


「うるさいってば!!」


そう言いぼくの腕を掴んで、部屋に駆け込んだ。


「っは、...みんなして俺を侮辱しやがって...」


「優璃くんのお母さんも、素直じゃない優璃くんが可愛くてしょうがないんじゃないかなあ?」


「ばっ、...ざけんな...」

「あははっ!」


 そう言葉を落として耳を赤くする、

 優璃くんがかわいい。ぼくはそう思う。

 


「優璃くん!あの...迎え来るまでゲームしない?」


「......いいけど。」

「...!やった!」



 その後、ぼくは優璃くんとコントローラーを握りながらゲームをした。


 もう少し、もう少しだけそばに居たい。

 



 時が来るまで────

 



 




 ピンポーン





 「....あ...」




 優璃くんは、玄関まで黙ってぼくの背中を押した。



「心配すんな、いつか...また会える」


 優璃くんは、そう言いながら俯いた。




「ほ、ほんと...?じゃあ……また、一緒に、コーラ、飲んでくれる?」


 優璃くんは頷いた。


「ゲームも……ぼく、下手だけど。一緒にしてくれる……?」


「……ああ。」


 

声が震えて、うまく言えなかったけど。


 

「また会えたら……寂しいときも、嬉しいときも、悲しいときも……一緒にいてくれる?」


「……うん……っ。」


「絶対、絶対だよ……!」


「ああ、絶対。」


優璃くんは、いつもより優しい目で、

 微笑みながらそう言った。


 ぼくも、思い切ってドアを開ける。

風か、ふわりと僕を迎えるように。


 

 ぼくは

また、いつか君に会いたい。

 

 

「また、ね...!!」



 言わなくてもわかるだろ、と言わんばかりに優璃くんは俯きながら、頷いた。


 

 



ぼくたちは、さよならを言わなかった。

 またきみと会えることを信じている。


──────いつか、きみに。

また、会えたら──────

 






最後まで読んで頂き、ありがとうございます!

少し短めでしたが、楽しんで頂けましたか?

悠くん、優璃くん。

皆さんの心のどこかに残ってくれたら嬉しいです。

2人がまた会えることを願って...


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― 新着の感想 ―
初々しい二人の関係、いいですね。
一気に読み終えてました 二人の感情が手に取るように伝わってきて、タイトルに込められた「いつかきみに、また会えたら」を願わずにはいられませんね…… ☆とブクマもさせていただきました! 素敵な物語をありが…
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