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第五話
「……で、本当にここ、新人向けのダンジョンなんですか?」
その洞窟の前に立った俺は、思わず口に出していた。
薄暗くうねる岩壁、口を開いたような黒い穴。そして微かに漂う血と鉄の匂い。
どう見ても、“初心者歓迎”の空気じゃない。
「新人向けだったのは、ずっと昔の話だよ。今は、魔物の巣窟になってる」
そう言ったのはリーネ。俺の右手には、アスヴェルトの手描きの地図。今朝早く、彼と別れてからリーネに案内されるまま、ここまで来た。
「こんな場所、何のために……」
「自分の力、試してみたいんでしょ?」
図星だった。
俺は“バグ”という異常な状態にある。
だがそれが“可能性”であるならば、試さなければ意味がない。
「……行こう。死なない程度に、ね」
「フフ、言ったね? 後で泣いても助けないよ?」