第四話
そしてその夜――
ガチャン、と軽い音とともに、牢の錠が静かに外された。
「……アスヴェルト様。迎えに来ました」
現れたのは、猫耳と柔らかな尾を揺らす獣人の少女だった。背は小柄で、盗賊のような身軽な服装をしている。
「よし、待っておったぞリーネ」
「急ぎましょう、見張りの巡回が来る前に……え? 誰、その人……?」
「俺はカケル。巻き込まれた……っていうか、召喚されたけど逃げたら捕まってた」
「はぁ? なにそれ。不審者でしょ?」
リーネは明らかに警戒の色を浮かべ、すぐにアスヴェルトに顔を向けた。
「アスヴェルト様、この人、連れてくんですか? 不審者ですって、街でも話題になってたし……」
「見るのは“名”ではなく、“目”じゃよ、リーネ」
その一言に、彼女の目が揺れた。
「この男の目を見てみろ。“欲望”も“敵意”もない。あるのは――己を見失わぬ意志、だ」
リーネはしばらく黙って、俺をじっと見つめていた。
やがて――
「……信用は、まだしない。でも、様子くらいは見てあげてもいいかも」
「それで十分だ。助かる」
「変な動きしたら、すぐ蹴るからね」
「覚悟しとく」
アスヴェルトが笑みを浮かべる。
「さあ、行くぞ。世界の“可能性”を持つ者たちよ――この牢を抜け、外の世界へ」
こうして俺は、“不審者”のまま牢を脱出し、獣人の少女と元宮廷魔術師と共に、冒険の第一歩を踏み出すことになった。