第三十九話
「やっぱり来たか――!」
アスヴェルトの叫びと同時に、隠れ家の外壁が爆音と共に吹き飛んだ。
「侵入者――いや、“送り込まれた者”か」
霧の向こうから現れたのは、黒い外套に身を包み、顔を仮面で覆った者たち。
その動きは常人の域を超え、空間すら歪める異常な干渉をまとっていた。
ノアが即座に端末を展開する。
「コード反応あり……これは、“観測干渉型エージェント”よ!」
「まさか……観測者の手先だってのか?」
「そうとしか思えない! 直接行動を起こしてくるなんて……!」
敵は言葉を発することなく、ただ淡々と、殺意と干渉データを放ってくる。
「来るぞ……!」
俺は叫び、前へ踏み出す。
《Skill Bug:パラメータ指定外上書き》
《スキル“見えざる刃”を自動反転》
《結果:相手の攻撃ログを逆転・自滅誘導》
黒い仮面の一体が、自らの攻撃ログに引きずられるように転倒、爆散する。
「バグで……反転させた……!?」
「ログそのものを“改ざん”する――そんなの、世界法則を無視してるじゃない……!」
「俺にとっては、バグ技こそ“正常”なんだよ!」
一気に間合いを詰める。
カケルの拳が、観測エージェントの中心核を叩き割る。
リーネは山小屋の上から跳躍し、風のように駆け抜ける。
《固有スキル:スカイリンク・ステップ》
《連撃:雷牙三射》
三本の光矢が、残る敵を寸分違わず貫いた。
「はぁっ……これで、全部……!」
霧が静まる。
倒れたエージェントたちは黒い煙となって消え、まるで最初から存在しなかったかのように痕跡を残さなかった。
「……奴らは“この世界の住人”じゃない。
観測者の干渉によって生まれた、外部実行ファントム――“投影体”だ」
アスヴェルトが言い切る。
「つまり……あれは、“試された”ってことか」
「違う。“警告”だ」
カケルは、拳を握ったまま静かに呟いた。
「観測者は、自分たちが見られていることに気づかれたくなかった。
でも……俺たちは、もう目を逸らさない」
ノアが端末を閉じ、真顔で頷いた。
「ここまで来たら、もう戻れないよ。
この世界が“選べる”かどうか――カケル、あんた次第だね」
そして、アスヴェルトがカケルの肩に手を置いた。
「この先、“世界の選択”が待っている。
だが、選ぶ権利がある者は、選んだ責任を背負わなければならない。
――覚悟はあるか?」
「……あるさ。最初から、命がけでここに来たんだ。
“世界が選べない”なら――俺が、その自由を“作る”までだ」
夜の霧が晴れ、空が開けた。
遥か彼方、星空の奥――
確かに、まだ“誰かの視線”を感じていた。




