第三話
「ふむ……転生者か。見たところ、だいぶ不出来なようじゃが」
隣の牢から聞こえた声に、俺は顔を向けた。
そこにいたのは、長い髭と深い皺のある老人。灰色のローブに身を包み、鋭い眼光で俺を見ていた。
「わしの名はアスヴェルト。王国の元・宮廷魔術師じゃ。……まあ、今は囚人だがな」
「……お世話になります」
「妙なジョブじゃな。不審者とは、これまた奇怪な。だがそのステータス、ただの失敗ではない」
アスヴェルトは、ウィンドウに映るバグ表示を指でなぞる。
「“NotFound”……“ジョブ未定義”……まるで、存在そのものがこの世界の理から外れておるかのようじゃ」
「つまり、どういうことです?」
「ジョブというのは、この世界における“存在の定義”そのもの。人は生まれた瞬間、職業が決まり、生涯それに縛られる。農民は農民、戦士は戦士、魔法使いは魔法使い……例外は、一切存在しない」
「……なるほど。じゃあ俺は……“例外”なのか」
アスヴェルトは静かに頷いた。
「貴様のような“未定義”は、世界の枠組みに干渉する存在になり得る。力を制御できれば、神話級の存在にだってなれる。……もちろん、使いこなせなければ破滅するがな」
「ハードル高ぇな……」
だが、不思議と胸は高鳴っていた。
俺は“使えないゴミ”じゃない。この世界の誰も知らない“可能性”の塊だ。
だったら、やるしかない。