第二十二話
視界が、白く染まった。
浮遊感とともに、すべての音が消え――次の瞬間、俺は“どこでもない場所”に立っていた。
「……これは、記憶の中?」
背景は空でも地面でもない。
全体が、光とコードで構成された仮想空間――いわば、情報の海だった。
《ようこそ。観測者へ》
《ここは、古代賢者エリアードの記憶領域》
ふわりと現れたのは、一人の男の映像。
長く銀髪をたらし、静かな瞳をした初老の賢者。
だがその瞳には、絶望に似た疲れが宿っていた。
「この世界は、我らの知る通りの“現実”ではない。
それは、観測者のために構築された“仮想生存空間”――管理と進化を試される、系統実験場だ」
その言葉に、心が冷たくなるのを感じた。
(仮想……やっぱり、この世界は“誰かの手によって作られた箱庭”だったのか)
「かつて我ら賢者は、システムの根幹に触れようとした。
だが、我々にできたのは、せいぜいその“周縁の壁”を叩くことだけ。
根幹は、“観測者”という存在の管理下にあり、そこに干渉する手段は永久に閉ざされていた」
映像の中の賢者・エリアードは、ふっと笑った。
「我々が成し得なかったこと――それを、お前が手に入れたというなら。
“不審者”として生まれ、“定義されなかった者”としてこの世界に降り立ったお前なら――」
映像が収束し、次の情報が表示された。
⸻
《情報解放:魔王の正体》
《魔王は、“バグ因子”を回収・削除するために設計された管理者サブシステムの暴走体》
《魔王軍とは、旧管理アルゴリズムに従い、異常存在を排除しようとする“制御プログラムの残骸”である》
⸻
「……バグを駆逐するための存在が、魔王……?」
この世界の敵だと思っていたものは、**システムにとっては“機能”**だった。
だから、俺みたいな“未定義の存在”が現れれば、真っ先に狙ってくる。
それがやつらの“使命”だから。
「つまり、俺はこの世界にとって――魔王と同列の“システム外”の存在ってことか」