第二十話
「来るぞ、気をつけろッ!」
咆哮と共に、バグ魔獣が飛びかかってくる。
黒い皮膚は断片化したエラーコードの集合体、物理攻撃も魔法も意味をなさない“コード喰い”型の異常存在。
この塔の防衛機構が暴走した末に生まれた“自我を持つエラー”だ。
「《アイススパイク》!」
リーネの魔法が命中するが、氷の槍はレプリコードに到達する寸前で霧散した。
「魔法、消されてる……!」
「それどころか、魔力構造ごと吸われてるな」
「ちょっと待ってよ! それじゃ、通常攻撃もスキルも意味ないってことじゃん!」
「だったら――こっちの番だ!」
俺は《コード展開式魔法》を発動する。
《Module.Load(“BreakField”) → Execute();》
頭の中で魔法を組み立てるのではなく、コードそのもので命令を走らせる。
この技術は、俺にしか使えない“魔法以上の力”だ。
光が弾け、空間が反転した。
レプリコードの周囲に広がっていた吸収フィールドが一時的に停止。
その隙をついて、ノアが一斉射撃を仕掛ける。
「オート・アルケミック・キャノン、起動! 《Pierceα》《Breakβ》――発射!!」
ノアの機構砲から放たれた弾丸が、空間の歪みを突き抜け、レプリコードの“核”を撃ち抜いた。
「……やったか!?」
「いや、まだ――」
叫ぶ間もなく、レプリコードの身体が膨れ上がる。
《ERROR:Host Overwrite Detected》
《外部アクセスを確認。強制上書きが進行中……》
「上書きって、誰が……!?」
そのとき、塔の壁が波打ち、“眼”が現れた。
それは建物の一部ではない。
この空間を“観測”している、何か――
《世界システム監視機構:Observer-Eye》
《状態:異常干渉により開眼》
「……これは、“世界の目”……?」