第十六話
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《進化条件達成》
《職業進化:覚醒者 → 賢者》
《新ジョブ:バグ賢者〈Glitch Sage〉》
《固有スキル開放:「コード展開式魔法(Code Casting)」》
《称号付与:「世界を越えし者」》
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「……来たか」
右手に宿っていた紋章が、新たな形へと変化していく。
それは“賢者”の象徴――だが、あくまで“バグとして生まれた賢者”。
この世界の理に適合しない“越境者”としての刻印だった。
「ステータス、更新された。……やっと、“賢者”になれたみたいだ」
「ほんとに……おめでとう、カケル!」
隣にいたリーネが、心からの笑顔で言った。
エリスもまた、わずかに口元を緩め、頷いた。
「あなたのその存在は、もはや例外ではありません。
この国にとって……いえ、“この世界にとって”の希望です」
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夜の王都。塔の上から見下ろす街並みは、静かで穏やかだった。
遠くには修理中の防衛結界。
地下から復旧中の魔導ライン。
戦いの爪痕が、確かにそこにはある。
それでも、街は息をしていた。
「不審者として始まった俺が、“賢者”になったか……」
それは、ただのクラス進化じゃない。
世界の理を上書きし、定義を乗り越えた者の証。
「行こう、リーネ。まだ“本番”はこれからだ」
「うん!」
風が吹いた。
コードのように複雑で、それでいて柔らかな風が、俺たちを包んだ。
この世界の“正しさ”が、ゆっくりと塗り替えられていく音がした。