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1000字短編

ソラリスの嘆き ー滅びゆくとあるサボテンの寝言ー

作者: 蘭鍾馗
掲載日:2024/12/21

気候変動のせいで滅びようとしている、とあるサボテンが群生する丘の話。

 海が見える。


 生命の源、あの輝く海から、朝、霧が立ち上る。

 霧は岩に当たり、地面に流れて水となる。

 だが、霧は昼には晴れる。雲はやって来ない。

 ここは海岸を流れる寒流のせいで、上昇気流が起きない。だから、雨雲を造る力が足りないのだ。


 朝霧が潤した土から、私の根は水を吸う。だが僅かに足りない。成長するためには、数年に一度の奇跡の様な雨が必要だ。

 その雨を待ちながら、私は眠る。

 僅かな水さえも使わなくていいように。


 だが、その奇跡の雨が降らなくなった。




 海が見える。


 ここアタカマの気候が変わりつつある。ただでさえ乾いた大地は、更に乾燥し始めている。人間達が言う地球温暖化のせいだろうか。


 霧が運ぶ水だけでは、生きてゆくのに僅かに足りない。雨が降らなければ、身を削りながら生きてゆくしかない。

 だから、私は眠る。

 僅かな水さえも使わなくていいように。




 海が見える。


 この丘は、数千年続いた、コピアボア ソラリスの楽園。

 その楽園から、命の気配が一つずつ消えてゆくのを、夢うつつの中で私は感じる。

 時折起きて咲かせる黄色い盃(さかずき)のような花は、いつの頃からか虫の訪(おとな)いが絶えてしまった。


 ここは台地の端にある丘。

 朝霧は毎日やって来るわけではない。

 生きてゆくにはギリギリの水しか得られない場所。それゆえ我らの他に生きてゆける者はいない。


 我らが去れば、ここは不毛の地に戻る。




 海が見える。


 生命の源、あの耀く海が見えながら、その恵みは、ここにはほんの少ししか届かない。

 造化の神は、一体どんないたずら心でこの丘を造ったのか。

 霧が運ぶ水は、生きて成長してゆくのに僅かに足りない。僅かに足りないのだ。


 そして、それを補う奇跡の雨は、もう数十年降っていない。

 青い空は変わらないと言うのに、一体何が変わったのか。




 海が見える。


 眠りにつくと、かつての風景が見える。

 この丘に、我らソラリスは群生している。

 大きな塊となった群体が、丘のあちこちに見える。


 時折目を覚ます。

 同じ風景が見える。

 ただし、それらは皆、黒ずんだ遺骸だ。

 命の気配は、そこにはもうないのだ。


 そうして、再び眠りに落ちる。




 海が見える。


 いつまでこうして生きていられるか、もう分からなくなってきた。

 私の根は、もはや水を吸う力を失ったようだ。

 明日、もし奇跡の雨が降ったとしても、もはや私の体が潤うことはない。


 私は再び眠りに落ちる。

 もう、目を覚ますかどうかも分からない。

 目を閉じる。




 目を閉じても、


 ああ、海が見える。
























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