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1000字短編

ソラリスの嘆き ー滅びゆくとあるサボテンの寝言ー

作者: 蘭鍾馗

気候変動のせいで滅びようとしている、とあるサボテンが群生する丘の話。

 海が見える。


 生命の源、あの輝く海から、朝、霧が立ち上る。

 霧は岩に当たり、地面に流れて水となる。

 だが、霧は昼には晴れる。雲はやって来ない。

 ここは海岸を流れる寒流のせいで、上昇気流が起きない。だから、雨雲を造る力が足りないのだ。


 朝霧が潤した土から、私の根は水を吸う。だが僅かに足りない。成長するためには、数年に一度の奇跡の様な雨が必要だ。

 その雨を待ちながら、私は眠る。

 僅かな水さえも使わなくていいように。


 だが、その奇跡の雨が降らなくなった。




 海が見える。


 ここアタカマの気候が変わりつつある。ただでさえ乾いた大地は、更に乾燥し始めている。人間達が言う地球温暖化のせいだろうか。


 霧が運ぶ水だけでは、生きてゆくのに僅かに足りない。雨が降らなければ、身を削りながら生きてゆくしかない。

 だから、私は眠る。

 僅かな水さえも使わなくていいように。




 海が見える。


 この丘は、数千年続いた、コピアボア ソラリスの楽園。

 その楽園から、命の気配が一つずつ消えてゆくのを、夢うつつの中で私は感じる。

 時折起きて咲かせる黄色いさかずきのような花は、いつの頃からか虫のおとないが絶えてしまった。


 ここは台地の端にある丘。

 朝霧は毎日やって来るわけではない。

 生きてゆくにはギリギリの水しか得られない場所。それゆえ我らの他に生きてゆける者はいない。


 我らが去れば、ここは不毛の地に戻る。




 海が見える。


 生命の源、あの耀く海が見えながら、その恵みは、ここにはほんの少ししか届かない。

 造化の神は、一体どんないたずら心でこの丘を造ったのか。

 霧が運ぶ水は、生きて成長してゆくのに僅かに足りない。僅かに足りないのだ。


 そして、それを補う奇跡の雨は、もう数十年降っていない。

 青い空は変わらないと言うのに、一体何が変わったのか。




 海が見える。


 眠りにつくと、かつての風景が見える。

 この丘に、我らソラリスは群生している。

 大きな塊となった群体が、丘のあちこちに見える。


 時折目を覚ます。

 同じ風景が見える。

 ただし、それらは皆、黒ずんだ遺骸だ。

 命の気配は、そこにはもうないのだ。


 そうして、再び眠りに落ちる。




 海が見える。


 いつまでこうして生きていられるか、もう分からなくなってきた。

 私の根は、もはや水を吸う力を失ったようだ。

 明日、もし奇跡の雨が降ったとしても、もはや私の体が潤うことはない。


 私は再び眠りに落ちる。

 もう、目を覚ますかどうかも分からない。

 目を閉じる。




 目を閉じても、


 ああ、海が見える。
























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