第95話 夜の部:アメツチ / 未来
ずっと焦がれていた。
初為ウラノ、憧れの人と共に歌う舞台。
今まで知らないところで拒まれていたらしい。
ショックだった。
でも、ウラノが辛い思いしていたことも聞いてる。
だから今は、推しが前を向けるようになったことが何より嬉しい。
念願の舞台に一歩、足を踏み入れる。
「では改めて自己紹介から。『アメツチ』改め『天泣地踏』のカチュア・ロマノフだ」
「同じく初為ウラノ」
「えと。4期生、新入り……魔霧ティア、です」
《ティアちゃん加入!?》
《アメツチ見に来たと思ったら知らないグループのライブに来てしまった……むしろ大歓迎ですけども!》
《サプライズ多すぎて心臓負担エグいんですけど!!!》
「はっはっはっ皆驚いているな。それでこそエンタメし甲斐があるというものだ」
「ティアちゃん緊張しとるん? 歌えそう?」
「案ずるなウラノ。こう見えて肝の太さだけはブイアクト随一だ」
「師匠うるさい。あの、ありがとう、ございます。ウラノさん」
「では早速1曲目、と言っても実際は3曲目だが……いくぞ!!」
「「おー」」
《ゆっるwさっきまでの重い空気はどこにw?》
《今はこのくらいの方が良い……癒やされる》
《こんなんでも歌い始めると別人なんよなぁティアちゃん含め全員》
バンドフェス夜の部の仕切り直し。
新たなメンバーを迎え、次の曲が始まる。
演奏が始まり、発声の準備を整える。
『装飾人生』。天地冥道の楽曲であり、山文プルトのパートを魔霧ティアが担う。
(やっとウラノさんと歌える。本気出さなきゃ。……スイッチ、入れなきゃ)
嬉しさのあまり高揚する気持ちを抑え、自らの力を十分に発揮するため、感情調整を始める。
「"過去を肯定したいから"
"今日で昨日を飾りつけよう"」
(……最近、みんなの辛そうな顔をよく見る。ティアもちょっと、辛い。友だちになってくれた人、みんな離れてくから)
「"無駄を成長と語るため"
"今日で昨日を飾りつけよう"」
(ムルシェは活動休止で、ツムリも付き合い悪かった。ティアと遊ぶの嫌になったのかなって、ちょっと不安になった)
「"行く先全てが行き止まりでも"
"登った過程を糧にしよう"」
(でも最近、理由が分かった。友達のために頑張ってて、忙しかっただけだった。できるなら、ティアも一緒に頑張りたい。早く解決して、みんなで遊びたい)
「"糧を成長と謳うため"
"未来を明るく見せるため"
"未来に希望を見出すために"」
(折角友達なのに、頼ってもらえない。寂しい、よ? 寂しい……寂しいから、ティアは歌える)
「"今日を昨日で飾りつけよう"――――」
《良い……良すぎる》
《プルトちゃんが居た頃とは違った良さが出るなぁ》
《相変わらずのクオリティ……これについて行けるティアちゃんも凄いわ》
称賛の声が会場と画面上に溢れる。
期待通りと言わんばかりの大絶賛。
その声をティアは意識的に目を背ける。
喜んでしまえば、気が緩みそうだった。
今はただ、全力を出すことだけに集中したかった。
(みんな、ティアを見て。頑張るから……頑張れるところ、見せるから)
ようやくライブらしい盛り上がりを見せ始める。
夜が更け、空気が冷えても、その熱気が冷めることはなかった。
………………。
「……やはり良いな。3人で歌えるというのは」
出番を終えた後の小休止。
カチュアはしみじみと言葉を漏らす。
「そら悪かったなぁ。ウチが意地張っとったせいで物足りん思いさせてたみたいで」
「そうだな。存分に反省してくれ」
「この人はホンマに……」
皮肉の応酬も楽しめる信頼関係。
割って入って良いものか、とティアは少々居心地が悪かった。
それを察したウラノが声をかける。
「ティアちゃんもやっぱ上手いなぁ。ウチはしばらく腑抜けとったせいで声量落ちとる気したし、もっと練習せんと」
「えっ、そんなことない。ウラノさんの歌、近くで聴けて、一緒に歌えて……えと、感動……です」
「そう? 嬉しいこと言ってくれるなぁ。ウチもティアちゃんの歌声好きやよ」
「……///」
「こらウラノ。あまり後輩を弄んでやるな」
「えー素直に褒めただけなんやけど」
先輩の気遣いで自然と輪に溶け込める。
同期とも友達とも違う、チームメイト。
経験したことのない関係性に新鮮味を感じる。
「ほなそろそろ……最後の曲、行ってくるわ」
「ああ。楽しんでこい」
「頑張って。見守って、ます」
舞台に戻るウラノを見送った。
ユニットパフォーマンスを終え、残るは1曲。
夜の部、そしてフェス全体を締め括る――――3期生のバンドパフォーマンス。
◇
ブイバンドフェス。
3期生が主催する最大規模のライブイベント。
これで3回目の開催となる。
肆矢美波は追憶する。
前回までは自分も主催する側だったな、と。
「いやぁバンドフェスも残すところラスト1曲となってしまいましたな」
「もっと続けば良いのに! って言いたいところだけど……さすがにヘロヘロかな☆」
「眠い……1日中歌って演奏して、ハード過ぎる……」
「今年は変にメンタル削られたから余計にやわ」
今回奇跡的に貰えた数分間の出番。
きっとこんな機会は二度とない。
舞台を降りた後は……一人静かに、配信を眺めていた。
「でも楽しかった♡ よね?」
「もちろんですぞ!」
「うん。名残惜しい」
「ま、やって良かったんは間違いないね」
舞台の上で笑い合う彼女らを見て……羨望。
どうして自分は見てるだけなんだろう、って。
「それでは最後の曲、聞いて下さい――――『Zodiac Sing』」
最後の演奏を始める元同期達。
自分の知らない歌。
それだけで感じる、見知らぬグループを見ているような疎外感。
「"星の旅路 放浪者は"
"夜空を駆け 歩み続く"」
2か月前の自分だったら、思うだけで終わってた。
もしかすると担当タレントに押し付けてしまっていたかもしれない。
この、やるせない気持ちを。
「"煌めき続く 星のどれかに 住まう想い人"
"見上げ歌おう 君に"」
今は違う。変えられた。
自分じゃ変えられなかった、千切れかけの繋がり。
「"ポロポロと 光り堕つ"
"流れる星は 塩の味"」
カチュアさんに出会って説得された。
ウラノさんと話し合う機会を貰った。
ずっと会えてなかった友達とも再開して、謝らせてもらった。
「"忘れてと 君は言う"
"会えない縁は呪いだって"」
配信できなくなったからって、全部無くなったわけじゃない。
みんな変わらず求めてくれた。
だから私も、私にできることを。
「"ああそうだ ストレスだ"
"でも離さない 絶対に"
"譲れない 僕だけの"
"――――見えない消えない宝物"」
山文プルトにできること、歌とギターは難しいけど……イラストなら。
姿を見せることが叶わなくても、絵なら自分を表現できる。
「"星の旅路 帰りを待つ"
"空を挟み 縁を紡ぐ"」
2年以上停止していたアカウント、とある条件付きで利用許可を貰った。
文字を入れない、ハッシュタグもつけない、画像だけの投稿。
ファンアートという形で、みんなを応援できる。
「"零さぬよう 上を向くとき そこに僕も居るから"
"歌い合おう 共に"」
ただ推される側から推す側になっただけ。
何も終わっちゃいない。
「"忘れないよ 永遠に"」
フェスの最後を見届け、投稿ボタンを押す。
ここからが――――山文プルトの第二の人生。




