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第87話 朝の部:ロイヤルワルツ

 大観衆集う会場。

 それぞれが推しグッズを身に纏い、今か今かと待ち侘びる。

 その様子は中継され、画面前に待機する者達へと熱気が伝う。

 大規模ライブ、まもなく演者が声を発す。


「それじゃっ! いつもの円陣やろっか!」

「えぇ……小っ恥ずかしいんですわよね。あれ……」

「はっはっはっ良いではないですか。ライブ前くらい恥など捨てましょうぞ」


《んー? なんか聞こえるなー?》

《音響さーんミュート忘れてますよー。グッジョブ!》

《舞台裏音声助かる!》


 ライブ開始前の勢いづけ、舞台裏で行われるであろう風景。

 それすらもパフォーマンスの一貫として聞かせる。


「……我、セレブレイト家を継ぐ者として」

「我、白の王(ヴァイスロード)を冠する者としてっ」

「我、海王の星の名を背負う者として」


《二つ名カッコ良すぎぃ!》

《確かに小っ恥ずかしい……でも素敵です》


「ロイヤルワルツ――――気高き演舞をお魅せしましょう」

「「おう!!」」


《おうっ!!!》

《来るぞ来るぞ……!》


 景気の良い掛け声。

 十分に温まった舞台。

 そしてようやく、声の主らがその姿を現す。


「ショウダウン! 俺達のバンドフェス!

 初っぱなから飛ばすぜフライアウェイ!

 先陣任され有頂天? 

 な俺達はその名もロイヤルワルツ!」


《ネプ氏!》

《俺!? バチバチに決めてんねぇ!》


 開幕の合図を出したのは真相ネプ。

 伴奏と共にラップ調のMCで次のメンバーに繋ぐ。


「ではでは初めに自己紹介っ!

 アゲアゲ天使なニオ・ヴァイスロード☆

 久々過ぎてよちよちな足取り……。

 でもでも決めるよっ! 最高のランウェイ!」


《ニオちゃん可愛いぞ!》

《ブチアゲて行けー!!》


「あらあら朝からご機嫌だこと

 セレブレイトのロカと申します

 同胞(はらから)達と共に征く舞台

 ご覧じましょう高貴の舞踏を」


《お待ちしておりましたロカ様!》

《ふつくしい……》


「最後はこの俺真繰ネプ!

 バンドの華は演奏とMC

 カッコつけたくて乱暴な口調

 いつもの『ですぞ』は封印ですぜ?」


《ライブ限定のカッコいいネプ氏!》

《ギャップエグいなぁ!》


「普段と一味違う俺達

 みんなも今日はやんちゃに行こうぜ!

 それでは早速行ってみようか

 スタートダッシュの一曲目!!」


《おぉー!!》

《よっ盛り上げ上手!》

《フェス始まったなぁ!!!》


 割れんばかりの歓声と加速するコメントの流れ。

 ネプの合図にさらに湧く観客、熱気高まる舞台で演奏が始まる。

 饒舌なスタートを打ち消すかの如く口を閉じる。


 1曲目、『不語之王(かたらずのおう)』。

 ロイヤルワルツを代表する最も特殊な曲。


《きちゃ!!》

《良い意味でライブらしくない曲よね。ダンスとバンドが映えることこの上ない》

《っぱロイヤルワルツと言えばこれよ!》


 その名の通り、この曲には歌詞がない。

 激しいロック調のメロディに踊りだけを乗せる。

 ダンス特化チームの魅力を最大限に引き出す曲。


 ゆえに、このバンドフェスに相応しい1曲目とも言える。

 声が入らない分、耳は演奏に集中する。


(良かった。ドラムの入りも安定している。ダーク氏の心配は不要ですな)


 動きながら後ろに気を配るネプ。

 杞憂だと分かればここからは自分のパフォーマンスに集中できる。


 踊りに自信はある。しかし目前の二人と一緒となると油断はできない。

 同じ曲、だが3人それぞれに出る個性。


《ダンスの表現力エッッグいなぁ!》

《同じ曲で同じ振り付けなのにバラバラで、けど一体感はある不思議。頭バグりそう》

《3Dモデルでこの滑らかさ……魅せ方お上手すぎる》


 華麗に、可憐に、そして過激に。

 少しでも手を抜けば間違いなく一人だけ見劣りしてしまう。

 これはある意味ダンスバトル、別ジャンルの表現による殴り合い。


(ああ、本当に……このチームで良かった)


 喜びを噛みしめる。

 このバンドフェスには、真繰ネプのやりたいことが詰まっている。


(音を楽しむと書いて音楽。じゃあ耳さえあれば十分か? ――――否、音楽は着飾れる)


 バンド演奏。

 楽器で奏でる姿を、弾く技量を魅せるパフォーマンス。

 それは音だけじゃ伝わらない、見て理解する奏者の魅力。


(自分は見る音楽が大好きだ。弾くことで、踊ることで、音楽と一体になれる。全身で曲を奏でられる)


 ダンス。

 音が欠かせないパフォーマンス。

 リズムに合わせた人間の動きが人々を魅了する。


(自分の動きが真繰ネプを作る部品になる。真繰ネプが、このステージを完成させる!)


 VTuberは声だけじゃない。

 ライブでこそその真価を発揮する。

 生身にない魅力。それはプレイヤーであると同時に、作品になれること。


(バンドフェスを作品として完成させるのはこの自分――――アーティスト、真繰ネプだ)


 小気味のよいアウトロに合わせポーズを決める。

 ダンス曲を締め、長らく抑えていた声帯を激しく震わせる。


「さあ! まだまだ行きますぞぉ!」


《お供します!!》

《かっけぇ……かっけぇよネプ氏!》

《これ1曲目ってマジ? もう最高なんだが?》


 1曲目を終え、次の曲へ。

 もちろん歌唱も、歌いながらの踊りも本気でやり尽くす。

 ライブを全力で楽しみつつ、心に一人の女性を思い浮かべる。


(叶うことなら、もう一度共に……見てくれていますかな? プルト氏)


 今は遠き過去に想いを馳せつつ、ネプは音に身を任せた。







「ダーク氏、良いドラムでした。おかげで最高のビートを刻めましたぞ!」

「はいっス! ダンスめっちゃよかったっス!」


 ロイヤルワルツのパフォーマンスを終えた束の間の小休止。

 朝の部はまだ終わりではない。


「ふぅ……さて。ここからの演奏は真繰が引き継ぎましょう」

「本当に大丈夫なんスか? あれだけ激しく動いたあとで……」

「ご心配なく。むしろアドレナリン全開で叩かせて欲しいくらいですぞ」


 疲労は見えるが息も整いつつある。どうやら嘘ではないらしい。

 次の曲まで時間もないため手早く入れ替わる。


「ダーク氏は同期の晴れ舞台をしっかりと見届けてくだされ」


 先輩からの気遣い、それ自体は嬉しい。

 しかしダークは素直に喜べずに居た。


「……そうっスね」


 今は彼女のパフォーマンスを見るのが少し怖い。

 遠く、深い、闇の中に沈んでしまった想い人。

 絵毘シューコのパフォーマンスが間もなく始まる。


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