第81話 ロカ・セレブレイトの目論見
「……いつか。こんな日が来ると思っていましたわ」
ロカ・セレブレイトは神妙な面持ちを見せた。
直接問い合わせて来た二人の訪問者、その質問に答えて。
「……マジか」
「冗談……にしてはキツすぎるかな」
麻豆ジュビアと鳴主サタニャ。
二人はアルマと同じユニットを組み、その活動提案を拒まれたと言う。
もちろん理由には察しがついていた。
そして語った。彼女達の知りたがった真実を。
「冗談ならどれだけよかったか。しかし間違いなく、10周年以降の導化師アルマは全て偽物ですわ」
敢えて言葉を選ばず告げる。
バイアスのない事実に対して何を思うのか知りたかったから。
「それで、貴女達ならどうしますの?」
聞きながら思う。真実を告げるとき、異迷ツムリもこんな気持ちだったのだろうかと。
自分のことでもないのに反応を待つ時間が怖い。まるで被告人にでもなったような……。
そして二人は判決を下す。
「……なんか、問題たくさんあるように聞こえたけどさ。要はアルマちゃんが戻ってくれば全部解決するんだよね?」
「考えるまでもない。引きずり出す、一択」
心配は杞憂に終わる。
彼女らは最初から変わることなく、アルマとの共演のみを望んだ。
「ロカちゃんも知ってたならなーんでもっと早く教えてくれないかなー? これもうブイアクト全体の問題だよ?」
「それは……受け止めるには少々重すぎるかと思いまして。タイミングを見計らっていたのですが……」
「舐めて貰っちゃ困る。後輩が一人で頑張ってるって聞いて何もしないわけにはいかない」
「……頼もしいですわね。騙された、とは思わないんですの?」
「ツムリちゃんのこと? んー……気づけなかったのは悔しいかな。それに水臭い! もっと先輩を頼らんかい! ってね」
憤りを見せても悪意は向けない。それはきっとこの二人だけじゃない。
仲間の心配を第一に考える、それこそアルマが導き作り上げたグループ。
「じゃあ貴女達は……」
「とりあえずメンバー全員に共有。みんなで解決策考える」
「これ以上誤解を増やさないためにも急がないと! 複雑に思う子もいるかもしれないけど、できる限りフォローするからね☆」
協力者が増え、それぞれが問題の解決について考える。
今までロカは一人で行動を起こすつもりで慎重に事を進めていた。
「ではメンバーへの対応は二人にお任せしますわ。ワタクシは――――ワタクシの役割を」
これでメンバーに知れ渡れば懸念材料が減る。
最初の火種はアルマかもしれない。だがそこに油を注ぎ続けている女がいる。
これ以上問題を大きくさせないためにも、釘を刺しに行かねばならない。
◇
ジュビアとサタニャ、二人の行動は早かった。
教えた日の夜には全体グループチャットで事細かに説明していた。
これで情報共有できたのはメンバーとそのマネージャー。
これだけでも十分抑止力になりえるが、更なる一手として面会のアポイントメントを取った。
その女は邂逅一番、恨めしげな目を向けて機械音声を発した。
【ロカ……やってくれたね】
「それはこちらの台詞ですわ。灰羽社長」
その反応からして、ロカが情報源であることは察しているようだった。
対して相手はブイアクトを運営する会社の社長。
彼女の数々の行いは既にツムリから聞いている。
「私欲でタレント使って横暴に活動休止を迫って、許されるとでも?」
【許されなかったら、どうなるんだ?】
否定するでも悪びれるでもなく堂々と聞き返してくる。
その態度からして、この女は放っておけばまた新たな火種を生むだろう。
だからこそ、今日牽制しに来たことに意味が生まれる。
「これでもずっと警戒していましたの。出会ったときから貴女はどこか歪んでいた。ええ、やはり……株式だけは渡さなくて正解でしたわ」
株式、投資者が会社に投資した金額に対して発行する証明書。
そして会社経営の決議をする株主総会では株式の保有数がそのまま決議票となる。
会社立ち上げ当初から出資しているロカの株式保有数は全体の半数以上、つまり実質的な経営権を握っている。
「お飾り社長の分際で、少々おいたが過ぎるのでは?」
意識的に強い言葉を使い威圧する。
社長という立場を人質に女の行動を制限するために。
【随分な物言いだね……私はただ導化師アルマの活動存続を願っているだけだ。世間のファンと同じように】
「なら世間に公表できるやり方を選びなさいな」
説き伏せるのはあくまで正論で、しかし変に反発心を刺激すれば何をしでかすか分からない。
さながら犯罪者を諭すような気持ちで接する。
【では問おう。権力者様は……導化師アルマを救ってくれるのかい?】
「貴女がこれ以上余計なことをしなければ、必ず」
迷いなく即答する。望みさえ叶えば彼女が暴走することもないはず。
灰羽メイの望みは導化師アルマの存続であり、それは皆の望みでもある。
【……分かった。しばらく静観するとしよう。これ以上権威を振りかざさないことも約束する】
「ええ。黙ってみていなさいな」
言質を取り一先ず安心する。
障害は取り除いた。残る自分の役割は唯一つ。
しかしながら相手は弁が立つ。未だ動かないところを見ても意思は堅いのだろう。
説き伏せる材料を集めつつ、最も効果的なタイミングを見計らう。
頑固な旧友を説教するために。
◇
ジュビアとサタニャの全体連絡、その直後異迷ツムリの元に2通の連絡があった。
1通は同期、この後会う約束をしていた絵毘シューコから。
『やっぱ今日無理。会ったら絶対言いすぎるから』
タイミングが良かったのか悪かったのか。
自ら真実を告げるために呼び出し、その直前で予想外の方向からネタバレ。
「優しいですねぇシューコさんは……謝りたいなぁ……そんな資格もないかぁ」
彼女が傷つくことは分かっていた。きっと直接伝えれば罵詈雑言を浴びせられたことだろう。
それでも自分の口で伝えるべきだったと今更ながら思う。
その望みすら叶わないのは今まで隠してきた罰だというのか。
そしてもう1通は麻豆ジュビアからの連絡。
『ツムリちゃん。どうしてもフェスでアルマちゃんに伝えたいことがあるの。こんなの間違ってるって分かってるけど……それでもどうか――――』
先輩からのお願いメッセージ、いつもなら喜んで快諾したことだろう。
普段絵文字だらけの彼女が送ってきた真面目な文面、それだけでも本気度が伺える。
「バレちゃったなら断る理由もないですしねぇ」
残念ながら心に余裕を持てず、カラ笑いしかできなかった。
『バトルマーメイドの出演に協力して欲しい』
「あはは……もう……どうにでもなぁれ……」




