第77話 山文プルトの今
カラオケボックスの一室。
元後輩を座らせて見下ろす1期生カチュア・ロマノフ。
「さて、言い訳を聞こうじゃないか」
予期せぬ来訪者は魔霧ティアのマネージャーでありながら、元3期生の山文プルトを担っていた女。
久々の再開にバツが悪そうな表情で口を開く。
「言い訳も何も……全部知ってるのでは?」
「いいや知らんな。捨てる必要のないものまで捨てた大馬鹿者の考えなんぞ。貴殿こそ知っているのか? ウラノがどれだけ思い悩んでいたか」
「……」
最初こそ戸惑っていたカチュアも今は落ち着いて、逆に憤っていた。
「辞めた選択を責めるつもりはない。あれは貴殿にとっても不幸な事故だったのだろう……しかし、辞めたからといって全ての関係が切れるわけじゃないだろう」
「それは……そう言ってもらえるのは嬉しいですけど……」
「けど、なんだ?」
言い淀む女性を追い込むように圧をかける。
それを見かねた少女が割り込む。
「師匠。ティアのマネージャー、イジメないで?」
「ティア……しかしだな……」
後輩に窘められ困った顔をするカチュア。
次いでティアはもう一人を見て問う。
「マネージャーは、ウラノさん、傷つけたの?」
「……そうですね。本当に申し訳ないことをしたと思ってます」
「思ってる、だけ? ちゃんと謝った?」
「っ……」
「じゃあ、ダメだね」
小学生でも解る道徳的な問いかけに言葉を詰まらせる。
やがて、ようやく心の内を少しずつ話し始めた。
「どの面下げて会いに行けと言うのですか……自分から一方的に別れを告げておいて。折角ウラノさんも立ち直ったのに、謝りに行っても傷つけるだけじゃないですか……」
後悔が伝わってくる嘆き。
優しく臆病、それゆえに傷つける可能性から逃げてしまう。
その言葉に反応したのは、この場で一番彼女と縁のない人間だった。
「あの、部外者の自分が口出しして良いのか分かんないんスけど……立ち直れてないと思うっスよ。ウラノ先輩」
ダークは語る。
自身が対話した初為ウラノの印象を。
「恋愛の話題聞くだけで気分悪くするくらいトラウマなんスよ。今も忘れられなくて、けど一度も会いに来てくれないから……自分はその程度の存在だったんだって、傷ついてるように見えたんス」
「そんなことっ! ……いえ。どう思われても文句言えませんね……」
否定しかけて、自責するようにその口を紡ぐ。
「馬鹿か貴殿は。その態度がどれだけの人を傷つけてきたか、いい加減自覚しろ。……貴殿の文句で傷つく人間はここには居ないぞ」
カチュアは叱責する。遠慮のフリで本心を隠そうとするなと。
「マネージャー、ティアがウラノさんの話すると、いつも乗ってきてくれる。配信、見てるよね?」
ティアは寄り添う。いつもと様子の違う弱気なマネージャーに。
情緒を乱され、堅く閉じたはずの意志にヒビが入る。
「……安心したかったんです。昔みたいに笑って配信してくれてるのを見て。じゃないと、私が諦めたのも無駄になっちゃうから……」
逃げた自分に感情のまま行動する資格なんてないと。
これ以上関わって良いはずがないんだと。
己を否定し続けた過去を、否定される。
「諦められたのか?」
「……諦めきれるわけないじゃないですか。私だって好きですよ……今もずっと……」
「なら拾いにいけ。まだ間に合う」
「っ…………はい」
厳しくも優しい、仲間を想ってくれるような言葉。
俯き、溢さぬよう瞳を閉ざし、飲み込み続ける。
ようやく本音で語れるようになったところで、改めてカチュアは問いかけた。
「それでプルト。貴殿はこれからどうしたい」
「……私なんかの希望より、ウラノさんの希望を聞いてあげてください。望み通りに動きます」
「まったく……そういうところは昔から変わらんな。だがウラノも本心は言わんと思うぞ。奴もあの頃から変われていないからな」
「……でしょうね」
互いに知っている初為ウラノの人物像が一致する。
潔癖で、頑固で、面倒くさい乙女心。
素直になれない当事者達を見かね、今度は第三者に選択を委ねる。
「ではティアに問おう。貴殿はウラノと共演したいか?」
「? うん。したい」
「ふっ……貴殿らもこのくらい素直だったら可愛げがあるというのに」
「うるさいですね……言われなくても分かってますよ」
本能の赴くまま即答するティアに笑みを溢す。
そうして選択肢を絞った状態で再度問う。
「それで? 魔霧ティアのマネージャーである貴殿はどうする?」
「どうするって……」
「大丈夫。マネージャーは、なんでもしてくれる。ティアのためなら」
「何勝手なこと言ってるんですか? なんでもはしませんよ」
担当タレントのマイペースな横暴に呆れる。
しかしそのお陰で普段の自分を取り戻せた。
乱された感情を整え、冷静に判断する。
今自分がすべきことを。
「けど……責任は取らないとですね。諸々全部」
一年以上、停止していた時間がようやく動き始めた。
◇
「っくし!」
「大丈夫ウラノちゃん?」
「「ぶれすゆー」」
「っぁー……配信外までそれ言うのやめん? ちょっと悪寒しただけやから。噂でもされとるんかな?」
くしゃみするウラノと反応する同期達。
とある昼下がり、3期生の4人は自宅のテーブルを囲み話していた。
「それで、告知期限迫っとるけどどうなん? アルマさんの説得の方は」
「あーそれね……」
「依然変わらず、難航中」
「その船そろそろ停泊させないと我々諸とも沈没しますぞ」
ブイバンドフェスの告知、入場者チケットの抽選などを考慮した最終期限が迫っていた。
絵毘シューコや久茂ダークのようにシークレットゲストとして非公開にする手もあるが、メインの出演グループ3つのうちの1つをシークレットにするのは反感を買いかねない。
期限までにアルマを説得できなければ別のグループを用立てる、それは予め決めていたことだった。
「ごめん! もー少しだけ待ってくれないかな!」
「もう少しったって、あと1週間しかあらへんよ?」
誠心誠意頼んで、どれだけ手を尽くしてもアルマは曖昧に断るだけ。
今まで交流してきたアルマと少々のギャップを感じながら、ジュビアとサタニャの二人は諦めきれなかった。
「大丈夫、宛てはある。最後の頼みの綱」
「頼みの綱、というと?」
「直接聞いても取り合ってくれないから、あの人に聞こうと思って」
本人への直接交渉は諦め、協力を仰ぐことにした。
導化師アルマに一番近しい、強力な助っ人に。
「今日相談に行く予定なんだ。アルマちゃんに一番詳しい人――――ロカちゃんに☆」




