第72話 暇人達の集会
ブイバンドフェスの話題で賑わう今日この頃。
忙しそうなメンバーを横目に、誘われなかった3人がその日配信上で集まっていた。
「マジクラで成金ハウス作るゾー」
「わーぱちぱち」
「どんどんぱふぱふぅ」
向出センカ、魔霧ティア、異迷ツムリ3名による緩めのコールで開始した配信。
二人を呼び出したセンカが進行役を担った。
「地獄企画へようこそだヨ。二人にはセンカと一緒に純金のお寺を建てて貰う。パクりだっテ? デモ本家は金メッキだからこっちの方が豪華だナ!」
「パクリって、金閣寺の?」
「あれ金メッキだったんですかぁ」
「当たりめーだロ。ツムリってホントに年上なのカ? たまに心配になるんダガ」
「うぐぅ……ぎ、義務教育の敗北ですかねぇ……」
《義務教育に責任押し付けんなww》
《地獄企画? 一体どれだけ大きいものを作るおつもりで……?》
《今日は長丁場になりそうね》
「へっ、どうせセンカは暇だからナ。どっかの誰かと違って時間だけは有り余ってるんだヨ」
「不貞腐れてますねぇ。それでぇ? 唐突にこの企画立てた経緯は何でしたっけぇ?」
「エーそれ言うのカ……?」
《ほう経緯とな》
《自虐珍しいw最近他メンバーがフェス準備で忙しそうだからかな?》
「そうソレ。バンドフェスとやらでシューコとダーク全然遊んでくれないんだヨ。なんかハブられてるみたいで面白くないしナー。んで誘って断られるくらいならこっちから仲間外れにしてやんヨって思ってナ」
「ようするに、寂しい?」
「……ちょっとだけナ。だから代わりに構ってクレ」
「あ゛っ照れ顔可愛ぃ゛……いくらでも構わせていただきますぅ!」
《素直に言えたじゃねえか》
《こんなん地獄企画もOKするわ》
「余裕で話してられるのも今だけだヨ。社畜もビックリの仕事量用意してるからナ。設計書は作ったから金鉱石集めて建てるだけだケド」
「流石センカさん! 頭使わない作業ならいくらでも任せてもらって良いですよぉ!」
「それで、何個必要? 金」
「大体5000個だナ」
「よぅしごせんこぉ……へぁ? あのぅ……金って確か採掘1時間で20個集まれば良い方って聞いたことあるようなぁ……」
「単純計算、250時間?」
「ひぇ……」
《多い多い多いw》
《ホントに3人でやるの?w》
《あっ地獄……》
「安心しナ。採掘より効率良い方法あるからサ」
「ほんと? 方法って、どんな?」
「ゴールデンゴーレム倒せば50個落とすヨ」
「ボスモンスターじゃないですかぁ! 勝ったことないですよぉ……」
「大丈夫だっテ。センカ一人で30分かからなかったシ」
「ほんとですかぁ? ならキャリーお願いしますぅ」
《それでも100体周回なんですがw》
《GゴーレムってソロRTA記録26分だっけ? もうプロじゃん》
《これホントにお荷物キャリーになるのでは……?》
「準備できたナ? じゃさくっと一狩り行くカー」
単純ながら途方もない企画にセンカが号を発する。
「動き遅くて、当てやすい。えい、えい」
「んーこれダメージ入ってますぅ? ゲージ減ってるように見えないんですけどぉ」
「普通の属性魔法は無駄だヨ。弱点属性ないしアーマー貫通しなきゃダメージ1になるからナ。黒魔法しか通らん」
「うわぁ鬼畜仕様ぉ……えと、黒魔法に切り替えて、あっ回避間に合わなぃ」
「おーその掴み攻撃即死の奴だナ」
「え? ちょっあ゛ぁ゛ぁ゛ーーー!!」
苦戦しながら金鉱石集めのためにしばらく周回。
そうして3体目のゴーレム討伐が完了した。
「うーム。一人でやってもあんま変わらんナこれ」
「申し訳ないですぅ……」
「ごーれむ、むずい」
《まあしゃーない》
《一緒にやると余計ゲームスキルの差が……》
「ティアは大分死ななくなってきたナー。おかげで次は20分切れそうだヨ」
「慣れてきた。ふんす」
「ツムリは……すぐ死ぬしずっと採掘してた方が効率良いカ?」
「そんなぁコラボなのに一人は嫌ですよぅ……」
「ならはよ成長してクレ。練習はいくらでもできるからナ」
《なんだかんだで採掘は堅実》
《ハブられ組の中でもハブが生まれかけてるw》
効率を求めて試行錯誤するものの、やはり同じ作業の繰り返しであることには変わりない。
「んーただ狩り続けるのも飽きてきたナ。ツムリ、一発芸」
「あっはぁい。誰の声が良いですかぁ?」
「一発芸の選択肢、声真似しかない?」
「別に誰でも良いケド安価で決めるか。視聴者ーリクエストプリーズ」
「安価の矢印コメントに入れますねぇ」
安価、視聴者にコメント欄で希望を募り、募集主が矢印コメントを投稿することで抽選する風習。
素早く流れていくコメントの中にツムリも矢印を投げる。
「結果、誰かな。あ、師匠」
「待たせたな! カチュアが来たからにはゴーレムなんぞイチコロだイチコロ!」
「切り替えはえーナ」
《おっ今日は4人コラボだったか。え? 3人で間違いない?》
《違和感仕事してwマジでどこから声出してるん?》
雑談や茶番を交えながら楽しく遊ぶ。
「なに!? こんな動きするなんて聞いてないぞ! バ、バカなぁぁ!!」
「その雑魚っぽい断末魔は本人に怒られないカ?」
「くっ……ま、まあ今のは油断しただけだし。カチュアが本気出せばあんな金ピカに負けるわけないからな!」
「あ、今の負け惜しみは、師匠っぽい」
《マジで言いそうw》
《本人なら流石にもうちょい戦えるかな?》
「ホント器用に真似るナー。なんかプレイもちょっと上手くなってないカ?」
「あー……性格も似せようとしてるんで自己暗示的なのはあるかもですねぇ」
少々鼓動を早めながら言い濁すツムリ。
本当は操作性のコピーも精度を上げることはできるが、余計な詮索をされないよう声真似レベルに留めている。
「うーん。強くなるならツラたん先輩真似して欲しいケド、あの人の声で情けない負けボイス言って欲しくないナ」
「ツララさんのファンですかぁ?」
「ファン? かは知らんけど普通に尊敬してるナ、ゲームめちゃめちゃ上手いシ。推しとかいうのは今のところ作るつもりないヨ」
「そうなの? 勿体ない。推しが居ると、人生ちょっと楽しくなる」
「分かってますねぇティアさん! ウラノさん好きって言ってましたからねぇ」
「うん。フェスも楽しみ」
《最近ティアちゃんもオタク化進行してる?》
《成長してますなぁ! 成長……で良いんですよね……?》
《一体どこのカタツムリに感化されたのやら……》
「オシ50個ー。これ何個目だっケ?」
「600個ですねぇ」
「4時間くらい? 眠くなってきた」
「そだナー。今日は集まった分で建てれるとこまで建てて終わるカー」
「「はぁい」」
長時間の作業に区切りをつけ、締めの作業へと移行する。
金鉱石を集めていたのも企画趣旨の建築のため。
「水の上に建てるの、初めて。オシャレ」
「建築がここまで楽しいと思えるの初めてですねぇ。3時間の成果が報われるようなぁ」
「良かったナ。まだまだ楽しめるゾ」
「わぁ楽しみぃ……って言うにはちょっと苦しすぎますねぇ……」
《ちゃんと地獄企画だったね……》
《討伐慣れればもうちょいペース早くなるかな?》
「ひょっとして続けたくないカ? もうセンカと一緒に遊んでくれナイ?」
「うっ……そんなわけないじゃないですかぁ! 最後までやりますよぅ!」
「うんうん。ツムリのそういうとこ好きだヨ。ノリも付き合い良いし、センカのこといっぱい褒めてくれるしナ」
「おほっ……ふへへぇ。そんな喜ばせても褒め言葉しか出ませんよぉ?」
「へっチョロいゼ」
《オホるなw流石にちょっとキモイw》
《センカちゃん悪い子だなぁ》
建築も終え、配信は終盤に差し掛かる。
配信主のセンカは締めの作業に取り掛かりつつ、思いを巡らす。
「並べてみると600個って大したことないですねぇ」
「看板建てとくカ。4期生成金ハウス建築中っと」
「やっと1割くらい。これ毎日やる?」
「流石に飽きられそうだナ。週1くらいの雑談枠って感じで良いんじゃネ?」
「良いですねぇ。予定合わなかったらごめんなさいですけどぉ」
《週1コラボ良いね!》
《段々予定合わなくなって某ファミリアみたいに建築予定のまま残り続けそうw》
《長時間配信お疲れ様!》
自己満足でしかない目標。時間の浪費にしかならない作業量。
どれだけ無駄に思えることも、友達とやるからこそ意味が生まれる。
「すまんナー勝手に長期企画にしちゃっテ。寂しさの余り構って欲しい欲が爆発しちまったヨ」
「ううん。また遊ぶ口実できて、ティアも嬉しい」
「ですですぅ。あ、もちろん完成した後も遊んで欲しいんですけどぉ、フェスが終わったら4期生全員でも集まりましょうねぇ」
フェスのようなやりがいあるイベントに参加できるのは羨ましい。
けどそれは仲間が居てこそ得られる達成感でもある。
「オウ。これからもガンガン誘うからナ。覚悟しろヨ」
ただ集まれるだけで嬉しい。
友達で居続けられるビジネス関係。
この強固な繋がりにセンカは心の中で感謝した。




