第68話 過去:麻豆ジュビア / 鳴主サタニャ②
あんたの才能が羨ましい。
適当にやるだけであんたは傑作を生み続ける。
ゴミしか生まないクリエイターに価値はない。
だからなけなしのセンスをカスになるまで搾り続けてる。
私の傑作は量産したゴミの中から探し出さなければならない。
その傑作もあんたの作品のいくつに勝てることか。
あんたの最高傑作にいつまでも敵う気がしない。
/
君のやる気が羨ましい。
ボクが一を生む間に君は百を生む。
何も生まないクリエイターに価値はない。
だからなけなしのやる気をやりくりしている。
新しい作品ほど洗練されている。
ボクより多くの経験を積み、ボクより早く成長する君が怖い。
いつ置いてかれてしまうのかと気が気じゃない。
焦っても、やる気は出てくれない。
◆
3期生がデビューして1年が経とうとしていた頃。
二人が手掛けた曲は2曲、話題性も相まって人気は上々だった。
(人気は出てる……けどなんかな……)
(このままで良いのかな?)
その二人の関係はというと、絡みが多いだけで特別仲が良いわけでもない。
(人気作曲家の力に頼ってるだけ。これジュビア要るのか?)
(歌詞のセンスだけは良いから続けて欲しいけど……それ以外の相性が悪すぎてなぁ)
本音も言えない、壁一枚隔てたクリエイター同士の営利関係。それが二人の付き合い方だった。
そんな折、その壁を壊すきっかけをくれたのはあの人だった。
「こんあーるま♪ 道化を導く道化こと導化師アルマです! 今日は格ゲー講師として二人を導いてやんよー!」
二人を呼び出したのはブイアクトの大先輩、導化師アルマだった。
配信者なのだから作曲だけでなく当然ゲーム配信やコラボ配信もする。
しかし……。
((なんで格ゲー?))
やろうとしていたのは比較的ポピュラーな対戦型格闘ゲーム。
しかし練度が物を言う格ゲーは単発のライブ配信では終わらない、触り始めれば配信スタイルの一つに組み込まれることが多い。
格ゲー経験皆無の二人が誘われた理由は本当に不明だった。
「二人共今日は来てくれてありがとね♪ 格ゲーって誘ってもやってくれる人全然居ないからさ、仲間が増えて嬉しいよ!」
「そうなの? じゃあ断ってもよかったのか」
「アルマちゃんに誘われたから来ちゃったけど、難しそうだからジュビアには合わない気がするなー☆」
「えー絶対二人は格ゲー向きの性格だと思うけどなぁ。百聞は一見にしかずって言うしさ、とりあえずやってみよ? ね?」
異様に押しの強い先輩に進められるままコラボ配信はスタートした。
最初は1時間くらい付き合えば諦めてくれるか? と適当に触っていた。
「はいボクの勝ち。ジュビアさん弱くなってない?」
「カッチーン☆ 今のは流石のジュビアもムカついちゃったなぁ。アルマちゃん! あの子ボコボコにできるハメ技とかないの!?」
「いやーすっかりハマってますなぁ。善きかな善きかな」
2時間後、二人はドハマリしていた。
今までの余所余所しいビジネス関係など忘れて、今はただゲーム友達として楽しく遊んで。
二人だけでゲーム配信することもあるが、普段ならこうはならない。
場の雰囲気を温め、自然に本音を引き出すように誘導をしてくる先輩の影響。
二人は初めて導化師アルマの「導き」を肌身に実感していた。
「それでは今日の配信はここまで! 二人が上達してきたら今度はアタシとも対戦してもらおっかな」
「コツは掴んだ。もうちょい練習すればアルマ先輩にも勝てると思う」
「今日は色々教えてくれてありがとねアルマちゃん♡」
「いえいえこちらこそ二人と遊べて楽しかったよ♪ それでは乙アルマー!」
配信が終わり、画面の共有が終了する。
しかし興奮冷めやらぬ二人はこのままゲームを止められる気がしなかった。
そこで通話中の先輩から声をかけられる。
「じゃ、アタシもこの辺で失礼するよ。ハマってくれるのは嬉しいけど練習は程々にねー。体調崩したら元も子もないからさ」
「「うっ……」」
心を見透かしたように注意喚起するアルマ。
負けず嫌いな二人の思考を読むのは容易かったらしい。
さらに彼女は続ける。
「あ、そうそう。1個だけアドバイスしとくけど――――もっと本気で殴り合っていいんだよ? 拳隠したままじゃ何も響かないからさ」
そう言ってアルマは通話を切った。
意味深な言葉、ゲームの中で殴り合っていた二人はその意味を考える。
「……あれってたぶん、格ゲーの話じゃないよね?」
「だろうね。……折角だし、今やる?」
「ノリノリだねー☆ サタニャちゃんがやりたいならいいけど?」
何も言われなければ通話を切ってコソ練を始めるつもりだった二人。
対戦の熱が再燃し、延長戦に突入した。
最初は無言で対戦開始し、キーボードを叩く音だけが響き渡った。
お互い引けを取らない攻防を繰り広げる。
そんな中、先に切り出したのはサタニャだった。
「……この際だから正直に言うけど、普通に喋ってほしい。媚びた話し方は苦手」
直球の言葉。いつもと言っていることは大して変わらないが、煽る様子もなく真剣に言っているように聞こえた。
「……分かった。今だけやめたげる」
「今だけじゃなくていいよ?」
「今だけだよ。今はジュビアもあんたに言いたいことあるから」
口調と声色を変えるジュビア。
放つ言葉を思考したのち、息を大きく吸う。
「あんたは毎っ回! 言葉足らずなんだよっ!!」
突然の怒鳴り声。それに怯み操作が止まったサタニャは追撃を喰らう。
「喋るのめんどいからって適当に話すな! フィーディングで察しろって? 付き合って間もないやつのフィーディングなんか知るか! 解らせたかったら言語化しろ!!」
畳み掛けるジュビア。
しかしコンボが途切れた瞬間、我に返ったサタニャも反撃した。
「やだめんどい。ジュビアさんの方が日本語上手いんだから代わりに言語化して」
「頭の中読めと? ジュビア人間だから無理かなー☆」
「媚びるのやめてってば」
「やめないってば。こっちは考えてキャラ作ってんの」
「こっちも考えて言ってる。脳無しみたいに言わないで」
「天才にジュビアの悩みなんか分かんねぇだろ!!」
「努力できる人にボクの悩みなんか分かんないよ!!」
熱い攻防、ゲーム画面で倒れていたのはジュビアだった。
戦いを制したサタニャに1ポイント入り、そのまま2戦目に突入する。
「バチクソ声荒げるじゃん。意外」
「……ノド痛くなるから今だけ」
一度冷静になり、落ち着いた状態で攻防を再開する。
「ボクは頑張り続けられるジュビアさんが羨ましい。けど、折角凄いのにそれを気持ち悪い喋り方で全部隠すのは勿体ない」
「気持ち悪いって言うな! カワイイやろが!」
「そのセンスだけはほんっとにない! 今の砕けた喋り方の方がよっぽどカッコいい!」
「っ……知るか! 人の営業方針にケチつけんじゃねぇ!」
何戦も拳を交わし、同時に言葉を交わす。
4戦、お互いに2回ずつダウンし5戦目が始まる。
しかし二人はゲームの操作を中断していた。
「はー……本気で喧嘩しても解決しないね。お互い譲んないし」
「そうだね」
「もうやめる? 作曲コンビ」
「うーん……やめたいの?」
「やめたいっていうか……続けても喧嘩ばっかだと思うけど?」
「それで良いんじゃない? 言いたいこと言えない相手よりは」
「それは確かに。けどファンが悲しまないかな」
「大丈夫。むしろ普段と違うジュビアさん見れて喜ぶと思う」
「それはない……とも言い切れないのか?」
お互い続けたいとは言わない。言ったら負けのような気がしたから。
けど辞めたいわけじゃない。
だから辞めない理由を探して、妥協点を提案する。
「じゃーこれからは遠慮するのやめよっか☆ 嫌になったらコンビ解消すればいいし」
「それで良いよ。あ、あともう1個。ジュビアさんって言いにくいからジューさんでいい?」
「えーなにその可愛くない呼び方……」
「ジューさんの可愛い基準よく分かんない。センスヤバいんじゃない?」
「お、やんのかこら。ラウンド2始めちゃう?」
「望むところ。対よろ」
話してるうちに先程の試合は時間切れで引き分け。
再戦のコマンドを実行し、再び拳を突きつけ合う。
その拳の硬さは今も衰えない。




