第66話 クリエイター 麻豆ジュビア
良い作品ってなんだ?
有名作家や大企業の作品はそれだけで注目される。でも創作の自由は奪われる。
それは自分の生み出す作品は自分だけのものではないから。
ビッグネームにかけられた信用を保つために、言いたいことも言えなくなる。
自由を奪われた天才が安定志向の凡作生んで、それを駄作と嘆くジュビアみたいな人間が生まれる。
……良い作品ってなんだ?
◇
鳴主サタニャがベースメロディを完成させたことでクリエイター同好会の活動が本格化した。
ここからは第二段階。各自で作詞、作曲、作画を進め、完成した部分から順次動画にしていく。
絵毘シューコの担当は作画、4人で決めたMVのプロットを元にイラストを描く。
今日は別件の予定でニオ・ヴァイスロードは欠席、出来上がった数枚のイラストを2人に見せるため集まっていた。
「うーん。悪くないけどもっと良くできるんじゃない?」
麻豆ジュビアによる曖昧ながらも明らかなダメ出し。
不愉快に感じ、つい語気を強めて返答してしまう。
「無理です」
「わぁ即答☆ ちょっとサタちゃーん? あんたの諦めグセ後輩が真似しちゃってるんですけどー?」
「ボクは悪くない」
茶化して和やかにしてくれているが、シューコは拒絶を止めるつもりもない。
先輩相手に失礼かもしれないが、そもそもこちらはお願いされている立場。
ある程度の修正を聞くつもりはある。しかし単純なクオリティアップのために時間を費やすつもりはない。
「シューコの限界はここです。自分のスキル以上の品質を求められても困ります」
「えー勿体ないなぁ。これを機にスキルアップ目指してみようよー」
「お断りです。そもそもイラストはただの趣味、お二人と違ってプロ目指してVTuberになったわけじゃないんで」
きっぱりと冷たく言い放つ。言わないと分からないと思ったから。
目の前にいる二人は元小説家と元作曲家のプロ。
完全アマチュアの自分とはスタンスが違う。
対してジュビアは反論するように質問する。
「プロ目指してないって言うけど、シューコちゃんさ。漫画描いてたでしょ?」
思いがけない指摘に言葉を詰まらせる。
「……なんでそう思ったんですか?」
「絵のタッチで分かるよ。筆の速さといい、イラストレーターってより漫画家っぽいもん」
絵を見ただけでそこまで見透かされるものか。
言うつもりもなかったが、指摘されては観念するしかない。
「……7作品。今までに寄稿した漫画の数で、同時に落選した数です」
「わお」
デビュー前の過去の話。
恥とも言える情けない失敗談。
「漫画だけじゃない。どれだけ頑張っても無駄なんですよ。シューコは選ばれない人間だから……」
一度話し始めてしまえばネガティブは止まらない。
「ブイアクトに入れたのは奇跡みたいなもんで、それ以外一度も選ばれたことない。今回誘われたのだってたまたまシューコしかいなかっただけ。ブイアクト唯一の存在だっただけの底辺イラストレーター……ただの妥協点なんですよ」
推しと同じ舞台にデビューしても、推しが最初に選んだのは異迷ツムリだった。
アイドルとして重要な歌唱力、オリジナル曲のトップバッターに選ばれたのは魔霧ティアだった。
ダンスではダークに敵う気がしない。知識やゲームの技量ではセンカに敵う気がしない。
どれだけ頑張っても2番手にしかなれない、器用貧乏の凡才。
「プロの天才二人にシューコの何が分かるって言うんですか?」
成功者に分かるわけがない。いや、理解られたくない。
元々断るつもりだったMV制作だ。いっそ見限ってくれ。
そんな思いで先輩を突き放した。
「うん。ボクは分からない。シューコほど頑張ったことないから」
先に口を開いたのはサタニャだった。
やる気次第で創作スピードが左右されるものの出来上がりは全て一級品の天才。
「でしょうね……見てれば分かりますよ」
「だからシューコもボクのこと分かんないでしょ? 努力できない人間のこと。慣れた作曲ですら集中力足りないのに、ボクだったら7回も挑戦できずに速攻挫折して諦めてるよ」
「…………」
否定はできない。天才の気持ちなんて分かるわけがないから。
「ボクだってもっと作品を生み出したい。シューコやジューさんみたいに頑張れる人が羨ましいよ」
その天才の口から羨ましいなどという言葉が聞けるとは思わなかった。
「シューコや……ジュビアさんみたいに?」
「だね。シューコちゃんはジュビアに似てると思うよ」
「は? どこが……」
「12作目だよ、デビューしたの。何度も悔しい思いして、次こそはって思いながら11回選ばれなかった」
元小説家の肩書を持ってブイアクト3期生としてデビューした麻豆ジュビア。
それ以前の彼女が自分と同じように……自分以上に苦労していたなんて、当然知らなかった。
「そうですか……じゃあシューコには努力が足りなかったんですね」
「それは違うと思うよ?」
「じゃあ実力ですか? センスですか? 何だっていうんですか!?」
彼女が選ばれた人間である以上、自分とは絶対に差があるはず。
感情が沸き、狭い視野でその姿を捉え、必死に問い正す。
次は一体何でマウントを取るつもりか、なんと自分を否定するつもりか、と。
「強いて足りなかったものがあるとすれば、時間じゃない?」
「……時間?」
「ジュビアは常々こう思ってるよ。誰かにできることは、同じ人間のジュビアにもできることだって。努力し続ければいつか叶う。でもね、その『いつか』を時間が待ってくれるとは限らない。シューコちゃんは間に合わなかったけどジュビアは間に合った、ただそれだけ」
才能やセンスなど曖昧な数値ではない、時間は全ての人間に平等。
何も反論できないまま、ジュビアの次の言葉を待つ。
「何かに選ばれたいだけならできるものだけ選べばいい。でもシューコちゃんは自分が選んだモノに選ばれたいんだよね? じゃあ今度は間に合わせる努力をしないと。時間は有限なんだから効率よく、使えるものは何でも使わないと。他人の力でも、それが先輩だとしても」
わがままに、酷い言葉で突き放したというのに、彼女は先輩として接してくれる。
かの導き手のように、道を指し示してくれる。
「納期までの間ならジュビアがいくらでも付き合ったげるからさ」
言い負かされた。そう思ってしまった以上従うしかない。
後輩として、彼女の示した道を辿らねばなるまい。
「……はぁ。今回は口車に乗せられてあげます。でも言ったからには最後まで付き合ってもらいますよ?」
「望むところだよ☆」
今後気まずくなる覚悟で喧嘩を売ったというのに、何故丸く収まっているんだか。
あるいは、喧嘩慣れしている二人だからこそ関係を壊さずに済んだのか。
だとすればまだまだ勝てる気がしない。
「まあそれはそれとして、喧嘩1カウントね。配信でちゃーんと報告するから♡」
「うっ……。そうですね……甘んじて受け入れます」
「分かった? いつもボク達が喧嘩してる気持ち」
「……分かりたくなかったんですけどね」
意外と悪くない、そう思える自分が嫌だった。
本気でクリエイターするつもりなんてなかったのに。
◇
「あー……よかったぁ。シューコちゃんがやる気になってくれて」
「よくやったプロジェクトリーダー」
「なんで上から目線なのかなー? ま、いいけどさ」
後輩が帰り、サタニャと二人きりになったところで一安心。
自称ではあるがプロジェクトリーダーを名乗ったからにはきっちり管理しなければならない。
自責による気疲れを休めようと数度深呼吸する。
すると思考を切り替えたことで別の懸念点を思い出してしまった。
「あれ? そいえばフェスの方どうするんだっけ? バトルマーメイドの演出プランとか」
「んー……あ、まだアルさんに出演依頼してないや」
「まだなの!? まあアルマちゃんなら大丈夫だろうけどさー」
「忘れないうちに送っとく」
『バトルマーメイド』としてブイバンドフェスに出演するにはもう一人、導化師アルマが必要。
その依頼メッセージを送って数分後、着信音が鳴り響いた。
「あ、返信きた……あれ?」
「アルマちゃんからの返事? どれどれ……おっとぉ?」
メッセージの画面を覗き込むと、そこには想定外の返信内容が表示されていた。
『7月は忙しそうだから難しいかも。ごめんね……m(_ _;)m』と。
「……どうする?」
「どうしよっか……」
特に心配していなかっただけに対策などあるはずもなく。
導化師アルマの出演拒否により舞台構成を再考を余儀なくされる。
フェスまでの期間は残り3ヶ月を切っていた。
更新頻度のお知らせです。
誠に申し訳ありません!
遂にストックが枯渇しました……2月は一旦3日に1度の更新とさせてください……。
可能な限り更新ペースと作品クオリティを維持できるよう尽力いたします……!
次回更新は2月4日です!
今後とも本作をよろしくお願いします♪




