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第65話 クリエイター 鳴主サタニャ

 良い作品ってなんだ?


 どれだけ面白い作品も人の目に届かなければ意味がない。

 個人として発信すれば誰でも見ることはできる。でも見てくれるかは運次第。

 だからサムネイルやタイトル映えを意識した作品ばかり生まれる。

 売れるために個性を潰し中身スカスカな量産型凡作が生まれ、それを駄作と吐き捨てるボクみたいな人間が生まれる。


 ……良い作品ってなんだ?







 クリエイター同好会(改)の初回配信から何度目かの集まり。

 最早いつも通りと言える喧嘩風景を見せられていた。


「サーターちゃーん。なーんでこんだけしか進んでないのかなー?」

「やる気出なかったから。Q.E.D」

「なんも証明しとらんが。ジュビア今日までっつったよねー? ちゃんとお耳ついてる?」

「? 見れば分かるでしょ。ジューさん耳無いと思ってる人に作曲頼んでるの? ぷーくすくす」

「皮肉って分かっててマジレス煽りすんのやめなー。本気で怒るよ?」


 進捗は未だMV制作第一段階、ジュビアのプロットはほぼ完成しているがサタニャのベースメロディ作成が難航している様子。

 二人が完成させたら4人で意見を出し合ってテーマを確定させよう、そう言って集まっているのだが……。


「またやってるんですか?」

「うんうん仲良いよねっ」

「ある意味ですね……ジュビアさんが怒るのも分かりますけど」


 サタニャの自室に集められた二人は慣れたようにその光景を眺めている。

 すると部屋主はびっしりと書き込みされた用紙に指差して物申した。


「そいえばジューさん。ここつまんないから直して」

「はぁ!? 禄に作ってないやつが一丁前に文句言うとか正気!?」

「文句だけ言う視聴者なんてこの世に五万といる」

「屁理屈言ってんじゃねぇっ……言わないでね♡」

「良い感じにエンジンかかってきたねジューさん」

「こーのやろう誰のせいだと思って……!」

「やる気ないときは何作っても駄作にしかならない。面白くしてくれたらボクのやる気にも繋がる」

「はぁ……ホント口だけは達者だよねサタちゃん……」

「それは聞き捨てならない。作曲センスも達者だが?」

「使わないセンス誇示されてもなぁ。生まないクリエイターに価値なんてないよね☆」

「む……」


 何を言っても自分を曲げない屁理屈クリエイターと疲れ果てた様子のプロジェクトリーダー、そろそろ満足した頃かと判断しシューコは話しかける。


「時間もないですし、そろそろ真面目に話しませんか?」

「あーあ。ジューさんのせいで後輩に怒られた」

「時間無駄にしてる元凶が何いってるのかなー? ほんとシューコちゃんもニオちゃんもごめんね♡」

「てかお二人ならこうなるの事前に分かってたのでは? もっと余裕あるスケジュール組めばよかったのに」

「いやぁどれだけ時間あっても変わんないというか……」

「時間があったらその分ボクらの喧嘩する時間が増えるだけ」

「えぇ……」


 お互いを理解しあっている、その上で今の体たらくだと。

 そんなストレスの溜まる関係を何故続けられるのだろうか。


「にしたってよく飽きずに喧嘩してられますね。組むのやめようとか思わないんですか?」

「そりゃ何回も思ったよー☆」

「作るだけなら一人の方が楽」


 ある意味予想通りの回答。

 しかし、と彼女らは続ける。


「けど……喧嘩するほどクオリティが上がるのは確か」

「厄介なことにねー……ま、サタちゃんの意見は素直に参考になるよ。表現方法は無限にあるし、けど人の好みも無限にあるからね☆」

「取捨選択。何を捨てて何を拾うかはクリエイターの勝手。二人いれば身勝手の衝突が起こるのも必然」

「普通はどちらか遠慮するものじゃ?」

「「こいつに譲るとかありえないから」」

「仲良いのに仲悪い……」


 お互いに同じスタンス、だからこそ衝突する。

 相性が良いのか悪いのか……それで本人らが納得しているのなら口出しすることでもないが。


「宣言通りちゃんと配信で報告しますからね?」

「初回配信が喧嘩報告だけで終わりそうな勢いだなー。先が思いやられるねっ」

「反省してまーす♡」

「これからもガンガン迷惑かけてくからよろしく」

「あ、ダメだ。先輩じゃなかったら張っ倒してたわこれ」


 進捗ははっきり言って悪い。

 自分の活動が始まってもいないのに既に後悔し始めている。

 それでも……この人達のセンスだけは間違いない。


「次いつだっけ、クリエイター同好会(改)配信……言いにくいから同好改で良い?」

「字にしないと伝わんないからダメかなっ。略すならカッコ改の方にしよー」

「いやカッコ仮ですって、略称まで決めたら定着しちゃうじゃないですか」

「もう諦めたほうが楽じゃないかなー☆」

「いーえ認めません。シューコが手伝うのは今回だけです」

「意外と強情だねシューコ」


 この人達と共に創れば、自分もクリエイターとして少しは上の域に到達することができるのだろうか?

 なんて、少しだけ高揚感も覚えた。







 4人の意見を集めつつ、次までに完成させると約束してその日は解散となった。

 

「なんとか形になった……」

「お疲れさまサタちゃん。早速聞いてみて良い?」

「ん……いいよ」

 

 サタニャの作業が終わったのはミーティングから2日後。

 後輩を待たせている手前最後の締め切りくらいは守らねば、とようやくやる気に火がついて勢いで作りきった。

 その成果物をプロジェクトの進捗管理者に聞かせる。


「……相変わらずクオリティは高いね。文句なし、とまでは言わないけどベースメロディなら十分かな☆」

「ありがと。文句とやらについては議論の余地がありそうだけど、今はちょっと休みたいから……」


 喧嘩する余裕が無いほど集中していたようだ。

 普段根を詰めないせいで体力がないだけかもしれないが。


「まだまだ完成には程遠いけど、とりあえず一区切り」

「だね。これで作風統一しつつみんな着手できる。特にシューコちゃんは初めての共同作業だし、お手並み拝見ってとこかな」


 MV制作は第1段階が終了、下地が完成しイメージを共有したところで本格的な作詞、作曲、イラスト作成が始まる。


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