第63話 クリエイター同好会(改)
「始まりましたー! 夢中にさせちゃう劇毒尻尾のアンタレス♡ 麻豆ジュビアです☆」
「ども。惰眠ラブな眠れるレグルス、鳴主サタニャです」
「こちらデバフ系堕天使っ。2期生ニオ・ヴァイスロードでっす♪」
「……あ、はい。赤い鎧のブルーペインター。4期生絵毘シューコです」
配信主から順に自己紹介する流れで最後テンション低めの後輩一人。
その理由は……。
「4人合わせてー?」
「「「クリエイター同好会(改)です!」」」
「おい今回だけって言ったでしょうが。せめて(仮)にしてください」
「えー往生際悪いなー」
「それ認めたらシューコが過激派から睨まれるんですが?」
「と、ともかくっ。今日は告知も兼ねてこのグループの活動方針を発表するんだよねっ?」
《同好会復活嬉しい!!》
《シューコさんメンバー入りは納得するしかない》
《ほー絵上手いんだ。期待》
コメントを見てシューコは更に緊張する。
視聴者の中には過去のクリエイター同好会を知ってて、自分のことを知らない人も居るだろうから。
一人暗い雰囲気な配信、それを払拭しようと先輩らは明るく進行する。
「はいはーい活動方針ね☆ て言ってもクリエイター集団名乗るからにはやることは一つなんですけどね」
「MV制作だねっ。ニオはいつも通り動画編集担当だよーっ」
「ボクは作曲。たぶん納期守れないから先に謝っとく」
「そうならないためにも、進捗管理は作詞担当兼プロジェクトリーダーのジュビアがやりまーす♡」
《いつメン》
《ジュビアちゃんがまとめ役のおかげで安心して見てられる》
「シューコはお察しの通りイラスト担当ですねー……。まあやるって言ったからには微力ながら精一杯やらせていただきますわ」
「微力なんてとんでもない! シューコちゃんが居てくれれば百人力だよ☆」
「よっ天才芸術家」
「VTuber界のパブロ・ピカソっ!」
「持ち上げ方雑ぅ……ガチでピカソ風に描いてやろうか?」
《もはや画伯と同レベルの煽りで草》
《現代の動画にキュビズムは絶対合わんwいや逆に見てみたいかw?》
「さてこうして同好会再結成を発表したのもですね。今回のMV制作を配信企画として進めることになったからなんですよ♪」
「普段何気なく見てるMV。作るのにどれだけ時間かけててどんな苦労があるのか、気になってる人も居るんじゃないかなっ?」
「クリエイター初心者にも分かりやすいよう、逐一制作過程を配信して行きたいと思いまーす☆」
《マ? 使ってるソフトとかツールも教えてくれるってこと?》
《これは神企画の予感》
《勉強させていただきます!》
「ざっくりスケジュール感話しますねー。まずは第一段階テーマ選定、MVの目的に合わせて動画全体のプロットを決める。それと並行してベースになるメロディ作って4人でイメージ共有します♪」
「ここまではボクとジューさんの担当。けど二人も気に入らなかったら口出して良いよ」
「……シューコちゃん気をつけた方がいいよ。こう言っておきながら二人共絶対に譲らないんだからっ」
「あー……でしょうね。ジュビサタの喧嘩シーン見てれば大体想像できるし」
「? こっちも本気で作ってるんだから反論するのは当然じゃないかな?」
「むしろ喧嘩してでも良いものにしたいって気概を見せて欲しい」
《さも当然みたいな言い方から分かる強者感》
《妥協絶対許さないマン》
《普通のビジネスパートナーならどちらかが譲るんだろうね……喧嘩できる程仲良いからこそのやり方かな》
「さてイメージが共有できたら第二段階、各々着手開始! 作詞、作曲、イラスト。出来上がったものから順に共有してブラッシュアップしていこうね♡」
「意訳、『レベル低いもの提出してきたら容赦なく突き返すから覚悟しとけよごら』」
「きゃージュビアちゃん怖ーいっ」
「はいそこ風評被害やめてくださーい。こんなくだらないとこで喧嘩してたら体力持たなくなるんですけどー?」
《あれ? 喧嘩になるのって大体サタにゃんが煽るからなのでは?》
《気づいてしまったか……》
《クールっぽく見せてるだけで中身結構なクソガキなんだよなぁ》
「そして全部完成したら仕上げの動画編集。ニオちゃんだけいつも最後の工程になっちゃってごめんなさい!」
「最後だろうとガンガン口出しするんでよろしく」
「あははーショート動画職人なめんなっ☆ 一発で完璧に仕上げてあげるよ。素材さえ良ければねっ」
「こやつ煽りよる」
《ただの煽り合いやな》
《ほぼ毎日あのクオリティのショート上げてたらそりゃ自信もつくわな》
《このクリエイターガチ勢達にシューコさんはどこまでついていけるのか……》
「とそんな感じの配信企画だけど、他に言いたいこととかあるかな?」
グループの活動方針と配信企画の説明が終わり、こちらにボールを渡される。
新メンバーゆえに途中彼女らの内輪ノリについていけなかったが、これから共に活動するなら多少意見しても許されるだろうか?
「んー……シューコも1個意見いいですか?」
「もちろん! 同じクリエイターとして立場は対等だからね、先輩後輩とか気にしなくて良いよ☆」
「じゃあ……意見が衝突したらそれも全部配信で報告しません?」
「え? マジ?」
「おっとぉ……予想外の提案来ちゃったなぁ」
《ほう。素晴らしい提案じゃないか》
《喧嘩報告助かる!》
《クリエイターの苦労を見せるってよぉ、つまりそういうことだよなぁ!》
「いやまあ視聴者が喜ぶだろうってのもありますけど、際限なく喧嘩してたら進捗悪くなりそうですし。難癖つけて来たら配信で晒すってことにすればちゃんと考えてから口出しするようになるかなって」
「いいねそれっ。ニオはさんせーい!」
「まっとうな意見過ぎて反対できそうにないかなー……☆」
「ぐぬぅ……仕方ない」
《シューコさんリスク管理お上手》
《さて完成までにジュビサタが何回喧嘩することになるのか見ものですなぁ》
「他に意見はないかな? じゃあ最後に今回作るMVの題材ですが……はいここで告知!」
ジュビアの合図に合わせ、サタニャの意味深な語りの後1枚の画像が張り出される。
「――――来たる七夕、星々の集いし日。ボクらもまた舞台に集う」
「3期生主催ブイバンドフェス! 今年も開催します!!」
《おお! 超待ってた!》
《うおぉぉぉぉぉやったあぁぁぁぁぁ!!》
《二年間……待ち侘びましたよ……!》
《絶対現地参加したい!!!》
「ということでね。まだ3ヶ月以上先の話ですが、音楽フェスの告知MV制作に当たって報告する運びとなりました☆」
「去年開催しなかった分待ってた人も多いだろうし、それに相応しいMVにしなきゃねっ!」
「つまり今回のMVは3ヶ月以内に作りきらなければならない」
「結構なハードスケジュールになりそうですよねー……先輩方はフェスの準備もあるわけですし」
《あー流石に忙しくなるかぁ》
《配信ペース落ちる? って思ったけどそのための配信企画でもあるんかな》
《無理せず納期守って♡》
「はーい今回はそんな告知配信でした! ジュビア達の活動楽しみにしててね♡」
「これからしばらくよろしく」
「じゃー締めの挨拶行きますか」
「いくよーせーのっ」
「「「「おつクリエイター!!」」」」
…………。
「いやー同好会復活おめでとうっ!」
「何度も言いますけど仮ですから。今回だけですからね」
「えーシューコちゃんノリわるーい。でもまた誘ってくれてありがとねっ! ニオも自信はあるけどさ、みんな配信者だから動画編集できる人なら他にもいるし」
「やだなぁ今更ニオちゃんだけ仲間外れになんてしないよー♡」
配信終了後、この場で一番先輩のニオが子供のようにはしゃいでいた。
「ホントに嬉しいよっ。一緒に創作活動するの楽しかったからさ」
「シューコと一緒にやって楽しめるかは保証できませんよ」
「もーネガティブだなあ」
水を差すようで申し訳ないけれど、しかし過度に期待されて幻滅されたくもない。
……リスクを恐れて予防線を張る、そんないつもの自分に嫌気が差した。
それでも彼女はめげなかった。
「確かにあの頃楽しめたのはプルトちゃんのおかげでもあるよ。けどニオはシューコちゃんと接点できるのが一番嬉しいんだっ。創作物には性格が出るって言うし、これを機にお互いのこと知って仲良くなっちゃおうぜっ!」
「あー……なれると良いですねー。シューコあまのじゃくなんで結構面倒ですよ」
「あっ段々分かってきた。それ照れ隠しでしょ? シューコちゃんかーわーいーいー!」
「うわこの先輩うっざぁ……」
「わかる」
「ニオちゃんのウザ絡みはメンバー内でも随一だね☆」
「えーニオが一番? そんな褒めても何もでないぞっ照れ照れ」
「この人無敵か?」
和気あいあいと話せる良好な関係、今後の創作活動についてはひとまず安心できるようだ。
「でもニオちゃん元気そうでよかったー♡ ほら、最近2期生色々あったから……」
「ムルちゃ先輩の件とか?」
ジュビアの一言で思い出されるのは少し前の事件。
紅月ムルシェの活動休止報告だった。
「んーまあ心配だけどまたそのうち会えるでしょっ。てニオは思ってるんだけど、全然大丈夫じゃなさそうなのが一人居るんだよねー……」
「ああ、エルさん……」
「最近配信でも元気ないよね」
「心配だけどジュビアがエルちゃんにできることってあるかな……?」
現存メンバーのメンタルを心配し、場の空気は一層重くなる。
しかしそんなときでもニオ・ヴァイスロードが変わることはなかった。
「心配してくれるだけで十分だよっ。エル姉がヘラるのなんて結構あることだし、ニオ達同期がちょくちょく話聞いてあげてるからだいじょーぶっ!」
常にポジティブなムードメーカー、それが彼女の魅力なのだろう。
見習うべきだろうか……いや、自分には真似できそうにないな。
活動方針の悩みを胸に、シューコは一人で迷い続けていた。




