表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
62/108

第62話 3期生の相談

 平日お昼どき。

 今日は同期の助言通り先輩の話を聞きに来た。

 その相談を持ち掛けると、直接会って話そうと提案された。

 場所は同期全員でシェアハウスしているという3期生の御宅。


「お帰りなさいませお嬢様」


 部屋に通され見知った人間の執事姿に面食らった。


「サタニャさんなにやってんですか? コスプレ? 普段ダラけてんのに今日はそんなビシッとして」

「……ボクも不本意。けどオモテナシだからちゃんとしないと」

「オモテナシ?」


 とりわけ深い関係というわけでもない、たまにコラボ配信する程度の先輩後輩関係。

 こうしてお宅訪問するのも初めてのことだが、何故か来賓待遇のような畏まった対応。


「こちらにお座りください。アフタヌーンティーのご用意をしております」

「アフタヌーンティーって……確かに午後だけどどう見ても湯呑みの緑茶と和菓子ですし」


 意図も分からず促されるままに席に座り、出された茶菓子に手をつける。


「あ、おいし……」

「そりゃー高級玉露だからねー。ウラノちゃんにお願いして分けてもらったんだー♪」

「あっジュビアさん。まさかジュビアさんまでオモテナシとか言い出すんですか?」

「ん? ジュビアは居るだけで存在が癒やし♡みたいな?」

「えー……」

「ウソウソ冗談だってー☆ 真面目に言うとその……和菓子はジュビアのお手製だったり? 一応お菓子作りだけは得意だからさ」

「えっすごいですね。てっきりお店のものかと」

「あははー照れちゃうなぁ♪」


 現れたもう一人の先輩はいつもの調子だが、オモテナシとやらのスタンスは同じらしい。

 鳴主サタニャと麻豆ジュビア、ブイアクト公式からも強く押し出されているペア。

 特に彼女らは二人で作詞作曲活動をしており、よくメンバーのオリジナル曲として起用されている。

 そんな二人が今日の相談相手だった。


「で? なんなんですかこの謎高待遇?」

「んーその話はあとにしよっか☆ 先にシューコちゃんの相談からどーぞ!」

「? まあわかりましたけど……」


 先を譲られて渋々今日の本題に移る。

 話したのは同期メンバーとの同棲が世間に知れ渡った件について。


「うーん同棲話をどこまで広げるか、かー」

「はい。幸か不幸か話題になっちゃったんで。この機は逃すべきじゃないのかなと」

「サタちゃんはどう思う?」

「ふむ……その前にもう力抜いていい?」

「あっそーだったごめんごめん☆ オモテナシモードはもう良いよ」

「ふう。疲れた……眠い……」

「あ、いつものサタニャさんだ」


 椅子にダランともたれ掛かる先輩。

 普段の配信の雰囲気と合致し最早安心すら覚えた。


「同棲の話だっけ。別に好きにすれば良いと思う」

「わー投げやりー……」

「もー言葉たらずだっていつも言ってるでしょ! でもジュビアも同意見かな」


 端的に言葉を投げた同期にジュビアは同調し、説明を加えてくれる。


「事故でバレちゃったわけだけどさ。前の謝罪会見?で説明責任は果たしたと思うよ。あとはシューコちゃん次第。今まで通りが良いならそれで良いし、ダークちゃんとベタベタしてるとこ見せつけたいならそれもまた良し!」

「いやそれはあり得ないですけど……先輩達はどうしてますか? シェアハウスしてるんですよね?」

「んージュビア達は四人だからなー。二人の同棲とはちょっと違うかもだけど。言ってもオフコラボの頻度が多めなのと、ソロ雑談でちょっと触れるくらいかな」

「うん。ジューさんの間抜けな姿とか教えてあげると喜ばれる」

「サタちゃんあれ良い加減やめてくれないかなー☆ ちょっとやらかすと次の配信で既にバレてるんですけど?」

「やらかす方が悪い。ネタ提供さんくす」


 イチャイチャと喧嘩し始める先輩二人。

 仲良いなーと遠い目で眺めていると、二人は思い出したようにこちらを振り返った。


「なんにせよ自然体が一番だよ☆ 不自然見せつけられるのが一番萎えるからねー」

「ファンが本当にそれを求めてるなら、奴らは勝手に二次創作(もうそう)し始める」

「なるほど……勉強になります」


 具体的な解決策ではないが、納得はした。

 下手な小芝居では簡単にボロが出るのも分かる。

 自然体が一番、それはまさに目の前の二人が体現してくれていた。


 シューコの相談事に一区切りつき、今度はサタニャが切り出した。


「そろそろこっちの番?」

「え? ああ。オモテナシの件ですか?」

「そうそう! ちょうどシューコちゃんに話があったんだよね♡」

「……なんか嫌な予感するんですけど」

「そんな身構えなくていい。ただの仕事の依頼」

「仕事の?」


 自分達で仕事依頼といえばコラボ配信のお誘いか? と予想しながら続きを聞く。


「もうすぐ3期生の音楽フェスがあるのは知ってる?」

「まあ一応、バンドやるやつですよね?」

「そう。ボクらが演奏して他メンバーが歌うバーチャルバンドのライブ。通称ブイバンドフェス」

「それがどうかしたんですか?」


 過去に開催したことのあるフェス、当事見た記憶からどんなものかは想像できていた。

 しかし自分との関連が思いつかなかった。


「実はね。それに向けてPR用のMV作りたいの♪」

「ボクとジューさんはフェスでも歌う楽曲、動画編集はニオ先輩にお願いしてある。だから残りはイラストだけ」

「そのイラストをシューコちゃんにお願いできないかなー☆って、ダメかな?」


 MVの作成。

 普通なら外注するものだが、目の前の二人が言うのであれば特に驚きもない。

 Vtuberのタレントであり、作詞と作曲をこなすクリエイター。

 配信企画として創作活動したいと提案してくるのも納得はできる。できるのだが……。


「ダメですね」

「え、即答?」

「判断が早い」

「だってそれ、クリエイター同好会復活させようって話ですよね?」

「あー……バレちゃってるね☆」

「流石に知ってたか」


 クリエイター同好会。

 ブイアクトメンバーのクリエイター趣味4人が集まって創作活動する集い。

 作曲担当の鳴主サタニャ、作詞担当の麻豆ジュビア、動画編集担当のニオ・ヴァイスロード。

 そして最後に――――。


「イラスト担当の元3期生山文プルトさん。その役目を引き継いで欲しいと」


 幻の3期生、ブイアクト唯一の引退者の名を口にする。


「うん。プルトが引退してからずっと活動できてなかった。他にイラストガチ勢いなかったし」

「正直言うとね。デビュー配信でシューコちゃんがイラスト描いてるの見たときから狙ってたんだけど……ホントにダメ?」

「ダメですね」

「ふむ……イラスト描きたくない理由でも?」


 確かにイラストは自分の武器だ。

 他に分かりやすい長所もない、絵毘シューコのアイデンティティ。

 しかしそれは趣味レベルの話。


「イラストは配信でもやってますけど、同好会はダメです。プルトさんの後釜は……シューコなんかには荷が重すぎます」

「えーシューコちゃんの絵も全然上手いと思うけどなー」

「上手いのレベルが違うんですよ。あの人は……イラストレーター界隈でも別格だったから」


 自分がデビューする前に消えた過去のメンバー。

 それでも同じ立ち位置になれば嫌でも比較される。

 あの頃の方が良かった、なんて言われるのを想像するだけでも惨めになる。


 断固たる意思で断ろう、そう決めているのに対し二人も簡単には諦めてはくれない。


「じゃあ交換条件を出そう!」

「交換条件?」

「元々断られると思ってなかったからさ、協力してもらうお返し☆くらいに考えてたんだけどね」


 答えを変えるつもりもないが、お返しとやらが気になったので一応聞いてみる。


「シューコ。オリジナル曲もらった?」

「オリ曲? ああ、あれですか……。まだレコーディングはしてないですけどね……」

「その反応、あんまり納得いってない?」

「ははーん♡ さては電波曲渡されたね?」

「……正解。初オリ曲があれって、運営はシューコにどんなイメージ持ってんですかね?」

「まーまー。VTuberなら誰もが通る道だからさ☆」


 渋い記憶を思いだし少しだけ憂鬱になる。

 しかしなぜそんな話になったのか。


「それで交換条件の話だけど、そのオリ曲披露の場所を提供するよ」

「披露の場所?」

「そ。さっきも言ったけどもうすぐ音楽フェスがあるんだよね♪」

「舞台は朝昼夕の3部構成、その内のどこかで歌って良いよ」

「と言っても、さっきの感じだとあんまり嬉しくないかなー……?」


 望み薄か、と不安そうに顔を覗き込んでくるジュビア。

 対してシューコは……。


「んー……でも……うーーーーーー…………」


 滅茶苦茶揺らいでいた。


「ん? なんか悩んでくれてる?」

「押せば行けそう? 今なら特典もつけよう。ジューさんのASMRボイスCD」

「あ、それは別にいらないです」

「ちょっとー? 勝手に特典にするのもいらないとか言うのも失礼じゃないかなー☆」


 笑顔で額に青筋を浮かべるジュビアをスルーし、シューコは悩みの種を打ち明ける。


「……あの。その披露の場ってシューコじゃなくても良いですか?」

「他の同期に譲りたいってこと? 誰に?」

「その……ダークに……」

「「あら~」」

「いやそういうのじゃないんで。意味深笑いやめてください先輩だろうと殴りますよ」


 顔に熱が集まるのを阻止するため、冷静に振る舞おうと辛辣な言葉で返す。

 続けて言い訳するように説明を始めた。


「……予定ではシューコの後にダークがオリ曲公開する予定だったんです。トップバッターのティアがハードル上げすぎたっていうのもあるけど、ダークは同期で一番歌下手だから。シューコで一旦ハードル下げた後にすぐ公開するスケジュールで。下手に目立たせないよう終わらせる気満々なんですよね……」

「そうなんだ?」

「もちろん4期生全体のこと考えたら企業戦略的に正しいんだろうけど……それじゃダークは納得しない。あいつもみんなと同じ土俵で正々堂々実力勝負したいと思うから。例えそれが失敗に終わるとしても、最高に目立つ舞台用意してやりたい」


 真剣な眼差しを見て、二人は温かく見守る。

 今度は茶化すことなく真面目に回答する。


「ボクは良いと思う」

「可愛い後輩のためだしね。二人分枠作ったげる♡」

「シューコのはどっちでも良いんですけど……じゃあその交換条件と、今回だけってことなら……」


 希望を叶えてくれる二人の先輩に、恩を返す気持ちでシューコも応える。


「協力します。MV制作」


 取引は成立した。

 来たる音楽祭『ブイバンドフェス』に向け、各々が準備を始める。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ