第30話 魔霧ティアの悩み
自由がなかった。
親の束縛の元で育ったから。
友達は危険、それが母の考え。
成長して自由を得た。
でも、自由の過ごし方は知らない。
友達の作り方も知らない。
念願の自由は、不自由より息苦しかった。
暇な時間は歌って過ごした。
歌が好き、というわけでもない。
ただ唯一の長所ってだけ。
外の世界で歌う人を見た。
楽しそうだ。きっと歌が好きなんだろう。
友達と笑い合ってる。羨ましい。
自分に無いものを全部持ってる人達。
その世界では、自分を偽れるらしい。
新たな自分を作り上げ、1からやり直せる。
ちょうどいい。誰も知らない私なら、友達作りを止める人も居ないはず。
あそこにいけば、友達ができるだろうか。
私でも、楽しく歌うことができるのだろうか。
◆
配信を終え、同期との通話を終了した。
するとすぐに携帯端末のほうから着信があった。
画面にマネージャーの名が表示されているのを確認し、通話を繋ぐ。
「マネージャー、見てた?」
「はい。5回くらいしか喋ってませんでしたね」
「うん。5回も喋れた」
「……」
「褒めて」
「えっどこを……? ええと……ティアさんにしては頑張りました……ね?」
「むふーっ」
「あ、こんなので良いんだ」
どこか満足げなティアに戸惑うマネージャー。
だがもちろん、それで満足して良いわけがなかった。
「どうして今日はダメだったのですか? 前のツムリさんとのコラボでは普通に話せてましたよね?」
「んー……二人きりなら大丈夫。けど、たくさんいると難しい。話に入る、タイミング」
「なるほど……一般論として理解はできます。けどティアさんはもっと頑張りましょう。VTuberにとってお喋りは仕事の一つです」
「むぅ……わかった。でも、ダメで元々、だから」
何を言ってもマイナス発言をする。
そんなネガティブなタレントにマネージャーは頭を押さえた。
「……ティアさんはすぐに弱音を吐きますね」
「ダメ? ティアのこと、見捨てる?」
「見捨てたいです。なので諦めたくなったらいつでも言ってください」
「諦めなければ、見捨てないでくれるんだ。マネージャーやさしい」
「仕事ですので。……一応、自己分析が正確なところは評価してますよ」
「やはりやさしい」
「うるさいです。そろそろ本題に入りますよ」
冷たい言葉を放ちつつも非情になりきれない。
そんな可愛らしい一面もあるマネージャーにティアは懐いていた。
照れ隠しに無理やり話を切り替える。
「それで、例の話はそろそろどうですか?」
その質問にティアは表情を曇らせた。
「んー、まだ無理」
「そうですか……一応今月末までにレコーディング日程を抑える必要があるのですが」
「だって、まだわかんないから。どう歌えば良いのか」
歌が得意な彼女でも、歌に悩むことがあるらしい。
それは彼女にとっても初めての試みとなる歌の仕事。
「それほど心配する必要があるのでしょうか? 4期生初のオリジナル曲。最初の一人に選んでもらえるくらいには、ティアさんの歌は信頼されてます」
「……でも、お手本のない歌は初めてだから。折角良い曲なのに、今のティアじゃつまんなくなる、よ?」
「それは……」
念願のオリジナル曲、すでに曲自体は完成しておりあとはレコーディングするのみ。
信頼されているからこそ貰えたオファー、しかしその分期待もされている。
下手なものを出せば今後の4期生全体の期待度に関わるかもしれない。
「はぁ……分かりました。じゃあせめて、ティアさんが歌えるようになるための計画を立てましょう」
後ろ向きなまま話が進まないよう、マネージャーは説得を試みる。
しかしその努力も虚しく、ティアは話に集中できていなかった。
歌とは別に、常に頭の片隅に置き続けている悩み。
先程参加した配信でも、同期の活躍を見て思わずに居られなかった。
どうしたら皆みたいに上手にお喋りできるのだろうか、と。
「やっぱり、友達作り、かな?」
「ティアさん? 聞いてますか?」
「聞いてない。考え事してた」
「少しは悪びれてください……悩み事ですか?」
「うん。減らさないとなって、歌枠」
「確かにそう……え? 今歌枠減らすって言いました? あのティアさんが?」
本気で驚いている様子のマネージャー。
それほどに歌枠配信は魔霧ティアの大部分を占めていた。
「色々したいなって、コラボとか」
「一体どんな心境の変化があってそんな……いえ、折角やる気になってくれてるのに聞くのも野暮ですね。是非頑張りましょう」
「うん。頑張る」
約半年、活動方針も安定感してきた頃。
魔霧ティアは心境の変化により、早くも転機が訪れようとしていた。
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