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第124話 アルマの後日談①

 怒涛の1日を終えた翌日。

 四条ルナと灰羽メイの両名は朝から共に行動していた。

 目的は各タレントへの挨拶回り。

 昼過ぎの訪問先は、3期生らの住む家だ。


「この度は多大なるご迷惑をおかけして、本当に申し訳ない!」

「私からも、ごめんなさい!!」


 深々と頭を下げる二人。

 その様子を見ていた4人のうち1人が口を開く。


「うん。控えめに言って大迷惑やね。今日もどのツラ下げて顔見せに来たん?って感じ」

「ウラノ氏、流石に言い過ぎでは……?」


 ウラノはいつも通り、素直な気持ちをぶつけてくれる。

 2人を案じて制止してくれたネプだったが。


「ウチはこういうときに優しくするんもちゃうと思うわ。この人達もこき下ろされるためにわざわざ来とるんやし」

「そうそうウラノンの言う通り。ネプ氏も遠慮なくボロカスに言ってくれたまえ?」

「そうですか? では……はっきり言ってクソダルイですな。配信しようにも余計なことばかり聞かれて楽しめない。公式の対応が確定するまでは口を濁すしかない。ブイアクト存続の危機とか言われても一切知らないのですが? こういうことは事前に知らせるか、我々に飛び火しない蚊帳の外でやって欲しいのですぞ」

「わお火力たっかぁ……ごもっとも過ぎて謝るしかないね……」

「アンタがそこまで言うのも珍しなぁ……」


 ムードメーカーな彼女の言動に一同が驚く。

 それほどの一大事だったのだと、改めて思い知らされた気がした。

 すると、背後からもう一人接近してくる気配を感じた。


「お客様。いい加減座られては如何ですか? お茶が入りましたよ」

「あっプルさん! じゃなくて……今は肆矢マネージャーだっけ」


 元ブイアクト3期生山文プルト。今は魔霧ティアのマネージャー。

 彼女もまたバンドフェス以降、この3期生シェアハウスの住人として暮らしているらしい。


「どちらでも構いませんよ。山文プルトは今も私の中で生きてますから」

「……そっか。前向けてるみたいでよかったよ」

「ええ。おかげさまで」


 引退してもなおタレント時代の自分は生きている。

 そう断言する彼女が少しだけ眩しかった。

 導化師アルマを捨て去ろうとした自分とは大違いだ。


「ずっと黙ってるけど、社長はなにか言いたいことないの?」

「サタニャ……社長はよしてくれ。時期に引き継ぐ身分だ。それに、謝罪以外に言えることなんてないよ。君たちもアタシの与太話なんて興味ないだろう」

「そう? ボクは色んな人の話聞いてみたいけど。黒幕の心理状態とか作曲のインスピレーションなりそう」

「く、黒幕……見方によってはそうなるのか……。まあ本当に聞きたいのならまた別の機会を用意するよ」


 申し訳なさそうに小さくなっていた灰羽だったが、緊張感のないサタニャと話して少しだけ柔らかくなったようだ。


「相変わらずサタにゃんはマイペースだねぇ」

「まあね。今回ボク関係してないし。ボクが変わらなければボクを見てくれる人もそのうち気にしなくなるでしょ」

「おおー……その強メンタルちょっと羨ましいかも?」

「でしょ? 真似して良いよ」

「あはは。ホント相変わらずだねー」


 サタニャとの会話は気楽で心地良い。

 彼女のことだから意図せず発した言葉なのだろう。

 "真似"だなんて今は誰もが避けるだろうワード、顔色変えず口にしてしまう天然なところもサタニャらしい。


 そしてようやく会話が落ち着いてきたところで、ここまでずっと黙っていた者が口を開いた。


「さてと。そろそろジュビアのターンでいいかな?」

「わー言いたいことたくさんありそー……いいよジューさん。かかってきな」


 どうやらかなり我慢していたらしい。

 誰にも口を挟ませない。そんな雰囲気を醸し出しながら話し始めた。


「ありがと♡ じゃあちょっと真面目に話すけど……まず社長、じゃなくて灰羽さんかな」

「っ……ああ」

「ジュビアからアナタに言いたいことは……特にないです。どうせファンの皆が代わりに怒ってくれるだろうし。ジュビア達が元通り活動できるよう最大限フォローすることと、ちゃんと自分のやったことの責任さえ取ってくれればそれで」

「それはもちろん……できる限りのことはさせてもらうよ。必ず」


 向けられた視線を正面から受け止め、真摯に応える灰羽。

 そうしてジュビアは次の相手に向き直る。


「じゃあ次。正直言うとジュビアはアルマちゃんへの怒りの方がおっきいです。もうピキピキです♡」

「おっとぉ……いや、当然なのかな」

「わーその理解ってる風の反応も腹立つー☆ じゃあ何に怒ってるか全部言ってみて? 足りなかったらその数だけグーパンね」

「え゛……ガチ?」

「大マジでーす」


 終始明るく笑顔で話しているのに冗談だと思わせない圧。

 本気で怒っているのを感じ取り、ルナも真面目に解答する。


「とりあえず一つは、勝手に辞めようとしたことかな」

「そうだね」

「あとは……ツムりんの件黙ってたこと?」

「他には?」

「沢山無断で休んだことかな?」

「うんうん」

「うーん……急な報告で驚かせたこと?」

「次」

「まだあるのー……?」

「まだまだ100個以上あるよ? 今日は冷静に話し合いたかったからさ。気持ちの整理するために全部書き上げてみたら、ね♡」

「ね♡って可愛く言っても数が可愛くないんですけど!? 最初からボコボコにする気満々じゃない……?」


 流石に危機感を覚え焦り始めるルナ。

 対してジュビアは表情を崩し、不満げに問う。


「でもさぁ。許そうにも一番大事なやつ答えてくれてないし。そんなにジュビアのこと怒らせたいの?」

「あー……休んでる間ずっと連絡しなかったこと、とか?」

「うん。休むより前も、一言くらい相談してくれても良かったんじゃない? 辞めたくなるくらい辛かったんならさ」

「あー……そうだねぇ……」

「ま、後輩に相談し辛いのもわかるし。気づけなかったジュビア達も悪いかな」


 呆れ半分、寂しさ半分の声色。

 罪悪感を煽られ、堪らず謝罪を口にすると……。


「……ごめん。心配かけて……」

「今更謝るなパーンチ☆」

「あ゛た゛っ!?」


 ジュビアは宣言通り拳を叩きつけ……はしなかった。

 代わりにアルマのデコめがけて指を目一杯強く弾き飛ばてやった。


「痛ぅ……どこがパンチなのさぁ。普通にデコピンじゃん……」

「そんな可愛くないことジュビアがするわけないでしょ? 別に怪我させたいわけじゃないし……それはそれとして、残り99発です。端数はおまけしといてあげるね♡」

「今のを!? 流石にそれは……ジューさんもお手々キツくないかい?」

「だねー。だから……ツケといてあげる」


 そう言って笑う彼女は、いつの間にか普段の調子に戻っていた。

 友達を誘うみたく、媚びた口調で語りかける。


「この先会う度に1発お見舞いする。全部精算するまで許さないからさ。今度勝手に居なくなったら……一生許せなくなっちゃうね☆」

「あー……じゃあたくさん会う予定作らなきゃだね。もちろん精算し終わった後も、500回でも1000回でも♪」


 許さないなんて物騒な物言いだが、何が伝えたいかなんて聞くまでもない。

 1人の友人として、ジュビアの期待に応えるべく返答した。


 そうして全員との話し合いにキリがついたところで別の質問を投げかけられた。


「ちなみに、他のメンバーにも同じように挨拶しに行くのですかな?」

「そうだね。4期生は後日集まるタイミングがあるらしいからその日に、2期生は明日事務所まで来てくれるらしい。わざわざご足労いただいて申し訳ない限りだ」

「カチュたんとサイさんはさっき会ってきたよ。メタメタに怒られてきたぜ♪」

「その割に反省の色が見えないね。二人とも可哀そう」


 迷惑をかけたタレントは当然3期生だけじゃない。

 まだまだ挨拶回りは続くが、今日のところはここで最後になる。


「ほなこの後は予定ないんやな?」

「え? あー……予定はないがやることは山積みというか……」

「予定、ないってことだね☆」

「あ、はい。ないでーす……」


 何やら嫌な予感を察知し、抵抗を試みたが逃がしてくれる気配もない。

 拒否権はないということか。


「じゃあビジネスのお話、しよっか♡ 二人とやりたいこといーっぱいあるんだよねー」

「苦行、何でもやるって言ってたよね?」

「迷惑かけられた分オモチャとして活躍して貰わないと割に合いませんなぁ?」

「は……はは……」

「お、お手柔らかにー……」


 まだ詳細の決まっていないアルマとグレイの配信チャンネル。

 形はどうあれ、彼女らは仲間として受け入れてくれるようでひとまず安心した。




 …………。




 夕方過ぎ、暗くなりつつある空の下。

 3期生のシェアハウスから出てくる二人。


「やっと解放されたー……シャバの空気が美味い!」

「流石に想定外だったよ……こんなに遅くまで拘束されるとは」


 新しい玩具を見つけたとばかりにはしゃぐ配信者達に付き合わされた二人。

 今後の活動についても根掘り葉掘り聞かれ、気づけば5時間近く滞在してしまった。


「それで、グレイはこれからどうするの?」

「アタシは会社に戻るよ。引き継ぎや業務整理なんかでやることは山積みだからね。きっと帰りの遅さに円城くんがイライラしている頃だ……」

「あはは……あの人怒ると怖いもんねー……」


 灰羽が社長を辞めるとなれば、別の者に引き継がねばならない。

 その引き継ぎ先に、灰羽は迷うことなく円城を指名した。

 本人も予想はしていたのか二つ返事で引き受けた。

 そういった責任感の強い部分も円城を選んだ理由の一つ、自分なんかよりも長に相応しいと常々考えていたくらいだ。


「ルナはこのまま帰るのか?」

「ううん。ちょっと寄りたいところあるから。なんなら今日は帰してもらえないかも?」

「ああ、彼女か。アタシは後日会う約束してるから、よろしく言っておいてもらえると助かるよ」

「おっけー。じゃここで解散ってことで。またね」

「――――ああ。また」


 行き先の違う二人はその場で解散することに。

 今後も二人はメンバー達への挨拶回りで会う約束はしている。

 しかし「またね」なんて、まるで昔に戻ったみたいで……。

 少しだけ胸の奥が温かくなるのを感じた。


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