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第115話 向出センカの復讐

「本当に、良い配信デシタ」


 配信画面を眺めながら、小さく呟く。


「たくさんの人に祝ってもらえる娘を見て、嬉しくないわけがない。……そう思いマセンか?」


 科楽サイコが語りかけたのは、同じ配信を隣で見ていた者。

 旦那によく似た風貌の男性。


「そうだなぁ。と言っても僕はただの叔父だから、義姉さんほど感動するのも変な話かもしれないけど……」

「そうデスか? あの子言ってマシタよ。構ってくれない実の両親なんかより、一緒に居てくれたアナタが一番の親だって。比較対象として不甲斐ないばかりデスが……」


 自分に代わって娘の親代わりを務めてくれた人。

 本当に親として情けないことだけど、彼には感謝している。


「それは……ちょっと嬉しいかもしれない。二人には申し訳ないけど」

「イエイエこちらこそ。今まで長いこと負担を押しつけてしまって」

「負担だなんて思ったことはない。そりゃ最初は戸惑ったけど……本当に娘が居たらこんな感じなのかなって、毎日幸せだったから」


 彼の優しげな表情を見て、本気で羨ましく思った。

 なぜ自分は娘の成長過程を知らないのか、今日の配信を見て余計に思わされた。


 けど、喉から出掛かったところで止めた。

 自ら手放したのだから、それを言う権利はない。


「……最後まで見届けましょう。あの子の晴れ舞台を」


 今できることは、娘のこれからを見届けることだけ。

 そしていつか伝えたい。

 生まれてきてくれてありがとうって。







 向出センカ生誕祭配信。

 逆凸企画終了後、センカは2つの告知を用意していた。


「とまあ1個目の告知、誕生日記念グッズはそんな感じダ。買いたいヤツは勝手にしナ」


《投げやりwもっとアピールしなくていいのかw?》

《まあ何言われても買うんですけど》


「そんじゃ告知2つ目いくヨ。――――待たせたナ。オリジナル曲が来るゾ。このあと22時からMV公開予定ダ」


《おお! 遂に!!》

《一生待ってた》

《どんな曲かな。楽しみ》


「どんな曲、か……まだちょっと時間あるし、歌ってみるカ」


《生歌だと!? 良いんスか!?》

《テンション上がりすぎておかしくなっちまう……》


「折角のオリ曲だしナ。MVの方がクオリティ高いだろうけど。ま、"予習"だと思って聞いてくれヤ」


 怒涛の告知とファンサに盛り上がる視聴者たち。

 対してセンカは普段通り淡々と話し、曲を流し始める。


 内心、少しだけ緊張していた。

 この曲はメッセージ性が強く、伝えるべき相手は確実にこの配信を見ているから。


 楽曲:『夜襲復讐』

 歌唱:向出センカ


「"ドコ見テンダヨ。Bark Out"」


 初めてのオリジナル曲。

 実のところ、かなり細かく要望を出していた。


「"ハローあるいはコンニチワ"

 "相変わらずだな退屈ワールド"」


 自分らしさを表現するため歌詞にして欲しいエピソードを伝えた。

 そして披露するタイミングはこの生誕祭にしたいと。


「"あのとき見ていたその平面"

 "あのとき聴いてた電子音"

 "あのときオマエは何してた?"

 "苛立ちゼンマイ螺旋が疼く"」


 全ては奴への復讐の一環。


「"ねじねじねじねじネジ巻いて"

 "グルグルグルグル歯車回る"」


 本当のことを言うと、そこまで恨んでもいなかった。

 ただ、自分が寂しい想いをしてアイツだけ平気だったら腹立つなって。


「"さあさあ復讐決行だ"

 "ヤラレっぱなしはありえねー"」


 けど実際に同じ事務所に所属して、奴は意外にも積極的に接触してきた。


「"アフタースクールのネバーランド"

 "子供の本分遊びの時間だろ"

 "ノンデリカシーなグロウンアップス"

 "不可侵領域だ見て分からねーか?"

 "エネミーロールのホームワーク"

 "責任放棄の言い訳やめろよ"

 "デイリークエスト無限リポップ"

 "無意味な苦行はウンザリなんだよ"」


 早々にコラボの誘いがあって、プライベートの連絡先にも一度帰って来ないかと聞いてきて。

 自分と関わりたいと思ってくれてることを知った。


「"拝啓老害覚えとけ"

 "半端な覚悟で説教垂れんな"

 "人生背負う気ないんだろ?"

 "二度とコッチミンナヨ。バーカ"」


 だから復讐計画を立てた。


「"ハローあるいはコンバンワ"

 "しみったれてんな憂鬱ワールド"」


 ひたすら誘いを拒んで焦らし続けた。

 最後にちょっとだけ文句言って、適当なところで許そうと思ってた。


「"あのときアイツは仰向けで"

 "あのときオマエは俯いて"

 "あのときテメエは横たわり"

 "全然ゼンマイ歯車ズレる"」


 そのタイミングを生誕祭に決め、そろそろ接触しようと考えていた頃だ。

 罠に嵌められて、アイツとコラボすることになったのは。


「"カラカラカラカラ空回る"

 "カラカラカラカラカラカラカラカラ……"」


 想定外だったけど、チャンスだと思った。

 上手く演出すれば、アイツの心の奥底まで刻み込めるって。


「"鼻高々に見栄張りやがる"

 "お人形遊びは楽しいか?"」


 けどアイツだけじゃなく周りの奴らまで協力し始めて、思わずこちらもヒートアップしてしまった。

 言い過ぎてしまうこともあった。

 我ながら情けない。感情のコントロールは未熟なままだ。


「"拝啓老害耳を貸せ"

 "ガキだと思って侮るな"

 "人間同士だ。わかったか?"

 "わかったら……早くコッチミロヨ。バーカ"」


 伝えたいことは概ね伝えた。

 思い通りの展開になった。


「"さあさあ夜襲の決行だ"

 "ヤラレる前にやってやんよ"」


 でもまだだ。復讐はまだまだこれから。


「"アフタースクールのネバーランド"

 "子供の本分遊びの時間だろ"

 "ノンデリカシーなグロウンアップス"

 "大人の余裕でたまには付き合えよ"」


 17年、生まれてからずっと悩んできた。

 もう少し歯痒い思いをさせたっていいだろ?


「"エネミーロールのホームワーク"

 "責任放棄の言い訳はやめろよ"

 "デイリークエスト無限リポップ"

 "合理的逃避だ検討してくれよ?"」


 同じ事務所の仲間としては交流する。

 けど家族としては一線引く。


「"拝啓老害覚えとけ"

 "半端な覚悟で関わんな"

 "人生見届ける準備はできたか?"

 "特等席を用意してやる"

 "だから――――"」


 焦らして焦らして、意識させ続ける。


「"二度とアッチミンナヨ。バーカ"」


 一生釘付けにしてやるから、覚悟しとけ。


第四章前半、完結です。

ここまでのご読了ありがとうございます!


これにてサイドストーリーの全行程が終了、メインストーリーの大詰めに入ります。

第四章完結まで残り14話前後。


少々キツい描写もあるかもしれませんが、最後までお付き合いいただけると幸いですm(_ _)m

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