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第114話 向出センカの生誕逆凸配信


 家には2人。でも1人ぼっち。

 部屋から楽しそうな声が聞こえる。

 画面の中で楽しそうにお喋りしてる。

 私は、1人でご飯食べてる。


 料理してるときは危ないから近づかないでって。

 料理が終わったら先に食べててって。

 部屋にいるときは仕事だから入ってこないでって。

 そんなに私と一緒に居たくない?

 

 遠くの見えない人とばっかり話して。

 こっち見てくれないのは近くにいるから?

 じゃあ、遠くに行ってみようかな。

 そうすれば、私ともお喋りしてくれるかな?


 ……離れてみても変わんなかった。

 私のことなんか忘れたみたいに、画面の中で楽しそうにしてる。

 どうしたら見てくれるんだろう。

 私はこんなに見てるのに。


 ……そっか。

 私が見てるのはお母さんだけどお母さんじゃない、画面の中の人。

 なら、同じことすれば見てくれるかな。

 私も画面の中に入れば……。

 

 見てもらえたらどうしようかな。

 ずっと話したかった。私がどれだけ寂しかったか。

 ううん。話すだけじゃ足りない。

 まずは同じ気持ちになってもらわないと。


 喋りかけられても無視して。

 同じ寂しいを体験してもらって。

 そしたらきっと、これからずっと――――目を離さないでくれるかな?







 7月21日、向出センカの誕生日。

 その記念日という名目で配信を開始した。


「ヤーヤーヤー皆ノ者。センカの生誕逆凸配信にようこそだヨ」


《誕生日おめでとう!!》

《何歳になった?》


「ン? センカは電脳世界の住人だから歳取らねーヨ? 敢えて言うなら17.1歳だナ」


《小数点w》

《足せばわかるけど意味あるのかそれw》


「そこは様式美だヨ」


 お祝いコメントに返答しながら配信を開始する。

 逆凸配信、配信中に仲の良い人間に連絡を募集する『凸待ち』の逆。自分から連絡し出演してもらう配信形式のこと。

 そんな生誕企画の配信。


「サテ。今日は逆凸ってことで色んな人に声かけてあるケド、それとは別で一人特別オーディエンスが居るヨ」


《オーディエンス? ゲストではなく?》

《どういう意味だろ?》


「オイ。コメントしロ」


(科楽サイコ)《ハイ! センカ様の従順なる下僕、科楽サイコデース!》

《なんか来たw》

《サイさんなにやってんのww》


「今日は生誕逆凸配信であると同時に、科楽サイコの試練の時間にするヨ。ちょっとした罰ゲームでナ、コイツには今日一瞬でもこの配信から目反らしたら一生口利かねーって言ってあるカラ」


《一生!?》

《それまた微妙にキツそうな試練をw》


「センカが不定期に生存確認するカラそのときにコメントすれば良いだけダ。簡単ダロ? 逆にこの程度できないヤツなら絶交でいいんだヨ」


(科楽サイコ)《絶対に乗り越えて見せマス!!》

《まあ本人たちが納得してるならええかw》

《サイコさんがんばえー》


「ま、ゲスト結構呼んでるし4時間くらい張り付く必要あるけどナ」


《え、今日そんな長いの?》

《割と俺らにとっても試練だなww》

《だが折角の生誕配信、最後まで付き合わせていただきますとも》


 配信の流れをあらかた説明できたところで、逆凸企画をスタートする。


「じゃー早速、記念すべき一人目はセンカのママだったかもしれねー人だヨ。カモン」

「誕生日おめでとうなのじゃ。よくわからんがママだったかもしれない? らしい狡噛リリじゃよ」


《リリママ!》

(科楽サイコ)《そこをどくのデスリリ! センカちゃんのママの座は譲りマセンよ!!》


「えーセンカはリリママの方が良いヨ。下僕ならペットで充分ダロ?」

「とのことなのじゃサイコ殿。すまんのう」


(科楽サイコ)《(´・ω・`)》

《あっけなく撃沈w》

《どんなNTRだよw》


 オーディエンスの横槍流しつつ、ゲストとの会話を楽しむ。


「リリちゃん先輩来てくれてありがとナー。ま、明日もお祝いしてもらうんだけどサ」

「もちろん。ケーキ作って待っておるよ。ではまた明日なのじゃ」


《これは確かにママ》

《リリ殿のお誕生日ケーキ羨ましすぎる》


 20分ほど経った頃に1人目のゲストを見送り、次のゲストを迎える。


「よし次行くかー。待機してくれてるっぽいし、入っていいゾー」

「はーいエルですー。お姉さん枠いただきに来ましたよー」

「ん? コレ家系図作る配信だっけカ?」


《家系図埋まってきたw》

《姉を自称する不審者》


「お誕生日おめでとうですよー。プレゼント届きましたー?」

「オーあの分厚いアルゴリズムの本ナ。最初の方目通したけど結構面白そうだったヨ」

「ホントですかー? 迷惑かなーと思ったんですけど、喜んでもらえてよかったですー」

「好きなことの勉強は苦じゃないからナー。時間あればガッツリ触ってみたいところダ」

「嬉しいですねープログラムの話できる人中々いないのでー。この勢いで今度一緒にゲーム作ってみませんかー?」

「教えてくれるならいいヨ。まだまだ覚えたての初心者だからナー」


《意外なところで趣味合うの良いね》

《ホントに仲良し姉妹っぽい》


 好きなことで話していると時間はあっという間に過ぎる。

 そんなこんなで2人目を迎えて20分が経過。


「エルちゃん先輩せんきゅーだヨ。さて次の人に行く前に……オイ下僕。ちゃんと見てるカ?」


(科楽サイコ)《もちろんデス!》

《リプはっやw》


「チッまだ居るか……マーまだ序盤だしナ。ガンガン不意打ちしてくから覚悟しろヨ」


《舌打ちするほどかw》

《そんなに絶交したいのか……?w》


 忘れかけた頃に呼び出す。

 配信企画としてエンタメに昇華しつつも、しっかりと科楽サイコに圧をかけていた。

 しかしサイコからすればこの程度プレッシャーにも思わない。


「オイ。見てるカ?」

(科楽サイコ)《見てマスよー》


 娘の誕生日という晴れ舞台を見届ける。

 その中で自分を呼んでくれる。

 至福の時間以外の何物でもなかった。


 そうして配信を進行させ、10人の逆凸が終了した。


「さて、これで予定してたゲスト全員終わったガ……達成しちまったカーつまんねーナー。けどしゃーない。これからは多少優しくしてやるカ」


(科楽サイコ)《余裕デシタね! 自分まだ行けマス!》


「腹立つナ……勘違いすんなヨ。あくまで同じ事務所の仲間としてダ。それ以上の関係になるつもりはネーから」


 改めてセンカは釘を刺す。

 これで親子の関係が修復されるわけではないと。


(科楽サイコ)《十分デス。仲良くお話できるだけで嬉しいのデスよ》

 

 サイコもそれ以上求めることはしない。

 自分が至らなさが招いた結果。

 贖罪の意味を込めて、一定の距離を保つべきだと自戒していたから。


「分かってんなら良いヨ。……一応、これからヨロシク」


(科楽サイコ)《ハイ! 改めてよろしくお願いしマス!》

《てぇてぇ……ともちょっと違うか》

《ええ話やん》

《二人のこれからに期待!》


 科楽サイコとのやり取りも終え、改めて逆凸企画は終わりを告げた。


「これで逆凸は終わり。だがセンカの誕生日はまだ終わらんヨ。――――告知の時間ダ」 


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