第111話 大会終了と約束
立ち尽くし、力を抜く。
激戦を制したセンカ。
しかし、どれだけ待っても変化が無いことに違和感を覚える。
「ン? 安地収縮止まらんのだガ。まだ生存者居んノ? ケド安地内に隠れる場所とかどこにも……」
自分で言いながら気づく。
ゲームが終わらない原因に。
「アー……そういうことかヨ……ヤられた。これはもう勝てんナ」
状況を把握した頃、フィールド全域が危険地帯に覆われた。
最後のあがきに所持している回復アイテムを全て使用してみるも、耐えきれない。
為すすべなくHPは全損。目の前が真っ赤に染まり、ゲーム大会は終了した。
………………。
「はいっ! みなさんお疲れ様でしたっ!!」
《お疲れ様ー!!》
《めっちゃ見応えある大会だった!》
《最後はギャグみたいなオチだったけどw》
「いやー一言で言い表すのは難しい大会だったねー。ひとまず準優勝のセンカちゃんからコメント貰いましょうかっ!」
「オウ。優勝逃したケドツラたん先輩に勝って大満足の向出センカだヨ」
「大満足って言う割に不貞腐れてない?」
「だってヨー……そういう戦略があるのは理解してるケドナ? さすがにあの終わり方は不完全燃焼だヨ……」
《それはそうw》
《今回の実力的な優勝者はセンカちゃんだしなぁ》
「気持ちはわかるよっ! では後輩をこんな気持ちにさせた元凶に聞いてみましょうか。一人だけ別ゲーやってた優勝者のリリ姉、一言っ!」
「天下餅、座りしままに食うは徳川ならずこの狡噛――――。最も、今回は勝って食うというより食ろうて勝ったわけじゃがな」
「わー戦ってないクセに上手いこと言おうとしてるの腹立つー」
「この司会優勝者の扱い酷くないかのう? まあ確かに、ワシは温泉入って釣った魚焼いて食ってただけじゃよ。スローライフこそ最強なのじゃ」
《FPSでスローライフ??》
《まさか回復耐久で本当に勝ち切るとはw》
今大会の優勝者、狡噛リリ。
彼女は一切武器を使わず、誰もキルすることなく勝利した。
その方法は回復耐久。ひたすら回復アイテムを集め、継続回復効果のある泉に浸かり、誰にも会うことなく安全地帯の外でスリップダメージを耐え続けていた。
回復アイテムの取得率や安全地帯収縮位置などの運が絡む成功率の低い作戦、しかしリリはその幸運を引き寄せた。
「はーいそんなゲーム大会でしたっ! 優勝賞品とかその他の結果については後日整理してからかな? それでは皆さま最後までお付き合いいただきありがとーございますっ! おつ荒原戦場~!」
《おつ荒原戦場~!!!》
《今回のゲーム大会も楽しかったー!!》
ニオの明るい号令と共にゲーム大会の配信が終了。
祭りの後の静けさ。
センカは余韻に浸る。
「ふう……終わりカ」
そんな折、一人の時間を邪魔する着信が一つ。
しかしなんとなく、そんな予感がしており驚きも無かった。
「ヨーリリちゃん先輩。優勝おめでとうだヨ」
「ありがとう。真剣勝負に水を差すような真似してすまんかったのじゃ」
「構わんヨ。あれも配信的には面白かったしナ」
本当に嫌味の意図などはなく、ただ称賛の言葉を渡す。
「センカ。ワシはセンカに勝ったと言って良いのじゃろうか?」
「別に良いんじゃネ? リリちゃん先輩が優勝したのは事実だシ」
それでもリリはどこか控えめに、何かを懇願するように聞いてくる。
「では、サイコ殿の代わりにワシからお願いしてはダメかのう?」
「……あんたもお節介だナー」
「はっはっは。ワシはみなに仲良くして欲しいだけじゃよ」
声を聞くだけで彼女の優しく微笑む表情が目に浮かぶ。
本当に、母より母らしい人だ。
「しゃーないナ。負けは負けだ。……デモ今回だけだゾ」
「! 良かった……センカは優しいのう」
「……うっせーヨ」
ぶっきらぼうに言い捨て、通話を切る。
そうしてセンカは気怠げに準備を始めた。
約束を果たすための準備を。
◇
「ハァァァ……完全に詰みマシタ……」
ゲーム大会終了後、科楽サイコは一人リビングで項垂れていた。
「何をやっているのデショウね。自分で宣言したことなのに、すべきことと真逆の行動をシテ……」
己の行動を不可解に思い、苦しむ。
しかし不思議と後悔はなかった。
大会中、彼女に付き纏った結果、彼女を守りたいという感情が勝った。
それでも目的を達せなかったやるせなさもある。
そんな感情が入り混じる中で、ふと耳に音が響く。
「……? っ!?」
ガチャリと、玄関から音がした。
何も言わずこの家に入ってくる人間なんて何年ぶりか。
むしろ不審者の可能性が最も高く、サイコは立ち上がり警戒する。
ゆっくりと歩いてくる音、そして居間に繋がる扉が開かれる。
「……オウ。ただいまだヨ」
現れたのは小柄な少女。
声は度々聞いていたが、直接会うことはなかった。
見ない間に随分と成長した娘の姿。
内側から込み上げてくる感情をグッと堪えて問う。
「センカちゃん!? どうしてここに……!」
「なんだヨ。娘が実家に帰ってきたらマズイのカ?」
「……! じ、じゃあ……!」
「あ、やっぱ今のナシ。娘として接するナ。あくまで同じ事務所のメンバーとして、一定の距離は保てヨ」
「アッ……ハイ……」
前のめりに聞こうとすると、すぐに一歩引いて拒絶される。
その姿はまるで猫のよう、今回の帰宅も気まぐれによるものなのか?
「優勝者に頼まれてナ。約束守るために仕方なくだヨ」
「優勝者って、リリが? ……私は良い友人に恵まれマシタね」
理由を聞いて、心が温かくなった。
悩みを聞いてくれるだけでなく、これほど協力してくれるとは。
「で、話ってなんだヨ」
「そうデスね……どうしても伝えておきたかったことがあるのデス。例え、これで最後になるとしても」
今まで言えなかったこと。
折角手に入れた機会だと思い、話す覚悟を決める。
「ふーん。センカは別に知りたいこととかないけどナ」
「そうデショウか? 父親のことについては教えるべきだと思ったのデスが」
「既に死んでるって話カ?」
「…………エ?」
予想外の返答にサイコは停止した。
今まさに喉まで出掛かった言葉が、相手から発せられたものだから。
何故、彼女が知っているのか。
聞くまでもなくセンカは答えた
「全部知ってるヨ。センカの本当の父親は、とっくの昔に死んでるっテ」
「え、っと……どうして……」
「今のパパに聞いたヨ。自分は叔父で、兄がセンカの本当の父親なんだって」
「ああ……そうデシタか」
納得したように脱力するサイコ。
辛そうな表情、しかしどこか安堵しているようにも見えた。
そんな彼女に容赦なく、追い打ちをかけるように聞く。
「話したきゃ話せヨ。許すつもりもないケド……言い訳くらいは聞いてやんヨ」




