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第109話 FPS大会④:淘汰される知略者

 時は少し遡る。

 救援物資降下の全体メッセージを見て、みなが動き始めた頃。


「……先客居るナ?」


 向出センカも同様に、3つの内1つの救援物資の元に向かっていた。

 そして現物を目視すると同時に、そこへ駆けつける人影も見えた。

 ネームタグを見ると『久茂ダーク』と記載されている。


「ダークか……アイツなら問題ないナ。拾わせてからキルして奪うカ」


 ダークも比較的ゲームが苦手な部類。

 物資の周囲で戦うより、カモがネギを背負うまで待った方が堅実だろうとセンカは判断した。


 しかし中々想定通りにはいかないもので……。


「ン? エンジン音?」


 大きな音が聞こえたと思えば、視界内に入ってきたのは装甲車両。

 運転中は銃撃が出来なくなる代わりに、移動効率が格段に上がる。

 そしてそれは、攻撃できないというわけではなく。


「ア、ダーク轢かれた」


 何者かが操縦する装甲車に跳ね飛ばされる久茂ダーク。

 突然のことで混乱している様子のダークが立ち上がろうとするも、装甲車は往復してダークを跳ね飛ばす。

 そして3回目の衝突で、ダークの動きは完全に停止した。


「エゲつネー。誰が乗ってんダ? ……アー、カチュたん先輩カ」


 戦利品回収のため車から出てきたのは、1期生カチュア・ロマノフだった。

 彼女はダークの遺体を探った後、その足で救援物資に接近する。


「今ならやれそうだナー……ちょうど良いし、ダークのカタキ討ちでもしてやるカ」


 センカはガラ空きの背中に向けて射撃を開始する。

 しかしカチュアはダークのように取り乱してくれず、慣れた様子で俊敏に動く。

 2発的中したものの、彼女は救援物資を速やかに回収し車に乗り込んだ。


「逃がさねーヨー」


 対するセンカも、冷静に照準を定めて射撃し続ける。

 狙う先はカチュア本人ではなく車体下部。

 銃弾を受け続けた一つのタイヤはやがてバースト、装甲車は直進不能に陥り速度も落ちる。


「カチュたん先パーイ。諦めて出てこいヨー」


 性能の落ちた装甲車に追いつき、センカは呼びかける。

 

「よく追いついたな……だがまだだ。戦いはここからだろう?」


 言いながら出てきた彼女は見慣れない装備を身に着けていた。

 片手で掲げ、センカから身を隠すように突き出された障壁。


「うわシールド……さっきの物資の中身それかヨ。メンドイナー……」

「センカ、貴殿は強い。まともに撃ち合えば充分負け得るだろう……ゆえに、ここは退散して体制を整える! さらばだ!」

「ア? だから逃さねーっテ!」


 片や追いかけて銃撃し、片や逃げつつシールドで弾丸を防ぐ。

 そんな逃避行がしばらく続いた。


「耐久高すぎだろアレ……撃ち続けんのも不毛だナー」


 互いに走行速度は同じ。

 シールドにも限界はあるだろうが、このまま街中に逃げ込まれれば折角の優位を失うかもしれない。

 そう思ったセンカは、タイミングを見て銃身を下ろし、別の攻撃手段を試みる。


「じゃーこれでも喰らえ、ヨ!」


 投擲モーション、カチュアの走る斜め前当たりに投げ込む。


「グレネード!? くっ!!」


 カチュアはシールドの向きを変え、何とか爆発の直撃を免れる。

 ただしグレネードは広範囲、爆風による少量のダメージとノックバックを受ける。


「っ……! だがこの程度のダメージどうってことは……あ?」


 足を地に着けて体勢を整えようとした。

 しかし身体は浮いたまま、一向に留まる気配がない。

 それもそのはず、いつの間にか大地は遥か彼方下にある。


「うおぉぉぉぁぁぁ!?!?」

「落下ダメはさすがにシールドじゃ防げねーダロ」


 爆風によって吹き飛んだ身体は、崖から投げ出されていた。

 為すすべもなく地面に激突、同時にカチュアのHPはゼロに。

 最早センカの声も届かぬ場所でリタイアとなった。


「負け、か……まあ良い。ギリギリだが……約束は果たしたぞ。ロカ」


 惜敗に悔やみつつも、頼み事の完遂を一人確認する。

 そして、何も知らないセンカが戦利品を獲得しに来た。


「あー、シールドの耐久値半分になっちったカ。けど逆に半分も残ってたなら撃ち合い諦めて良かったナ」


 救援物資からドロップしたアイテムを取得しつつ、武器を整理したのちに立ち上がる。


「さて次は……あっちの方で明らかにドンパチやってんナ。あれは……ツラたん先輩とアルちゃん先輩? 知らんうちに面白そうなことやってんナー」


 戦闘音に気づき、その中心に居る者達のネームタグも確認する。

 おそらく今大会の中でも最大級の激戦。


「そういやアルちゃん先輩倒したら報酬あるんだったカ? ……ヨシ、センカも混ざるカ」


 臆することなくセンカは戦地に立ち入る。

 たかがゲームと、軽く楽しむ気持ちで。







 膠着状態の激戦地。

 新たに手に入れた大きな武器をチラつかせながら、"導化師アルマ"は現状を再認識する。


「実質2対1。ツラたんはミニガン持ち。ロカちんのプレッシャーも地味に嫌だなー。対してこっちは武器各種に加えてロケラン入手……」


 敵と己の戦力状況を把握、次の作戦を考えていた。

 しかし、不幸にもそれまでの思考を台無しにするかのように、明後日の方向から銃撃を受ける。


「おっわ危なっ!?」

「オウオウ先輩共ー、楽しそうなことしてんジャン。後輩も混ぜろヨー」

「うっそセンカちゃんも? も~人気者過ぎて流石に困っちゃうなー……いやガチで」


 更なる乱入者に本気で困惑する。

 センカについてはツララやロカほど露骨ではないものの、視線はこちらに向けられることが多い。

 やはり最初に宣言した『導化師アルマをキルできた人への景品』がチラつくのだろう。


「とりあえず……一旦落ち着かせてね!」

「おお、ロケランかヨ。面白い武器使ってんナー」 


 挨拶がてら一発センカに撃ち込み、彼女も回避のため退避してくれた。

 しかし3方向からの射線を切りつつ逃げ続けるのもいつか限界が来る。


「うーん……よし。ちょっと博打に出るか」


 短時間で次の策を練り、即時実行に移る。

 最初に標的として選んだのは……。


「喰らえツラたんー!」

「む、僕か。しかし闇雲に放っても当たるはずないのは分かっているだろうに」


 ロケット弾を射出し、ツララは悠々とそれ回避する。

 対してアルマは既に別の方向を向いていた。


「と見せかけて本命はこっち! ロカちーん。遊ぼーぜー!」

「やはりワタクシですのね。確かに潰しやすい狙い目……しかしそうも近づかれたら流石のワタクシでも当てられますわよ」

「背中もガラ空きだ。無鉄砲すぎやしないかい? アルマ先輩」


 リロードしながら一直線にロカへと突っ込むアルマ。

 その間もロカに撃たれ続け、近づくほどに被弾率は増える。

 ツララにも狙われ絶体絶命……のように思われた。


「オイオイツラたん先輩。油断してっと寝首掻かせてもらうゾ?」

「センカか……君はアルマ先輩を狙いに来たんじゃないのかい?」

「誰狙いとかねーヨ。全員のキルチャンス狙うのは当然ダロ?」

「なるほど。では僕も……無差別に狙わせてもらおうか!」

「おっト、退散退散〜」

「む。そのシールド、厄介だな」


 センカも接近、参入し混戦を極める。

 3人の視界内に収まるアルマ。


「まだ……もうちょっと……」


 しかしアルマの視点から見ても、その内二人は射程内に入っていた。

 ギリギリまで引きつけ……。


「はいココ! どーん!!!」

「なっ!?」

「マジかヨッ……!!」


 アルマは真下にロケットランチャーを放った。

 当然彼女を中心に爆発が起こり、巻き込まれたロカとセンカもダメージとノックバックを受ける。


「痛っテー……あのヤロ、アルちゃん先輩ドコ行った?」

「自爆だなんて、一体何を考えてますの……?」

「あっはっは。死ななければ安いもんよってねー」


 爆発のエフェクトで姿を眩ますアルマ、起き上がりながら周囲を見回すロカ。

 最早アルマのHPは風前の灯火、一発でも当てれば勝てると踏んだ。


「で、ロカちんそこに居て大丈夫?」

「? どういう……」


 しかしアルマに指摘されたのは配置。

 彼女は爆風で大きくズレた位置に移動していた。

 ロカも少々移動させられたが、この配置が何を意味するのか。

 一瞬考えて、理解した頃にはもう遅かった。


「あー……間に合わないか。すまないロカ先輩」

「っ……!?」


 ロカの居た位置は、アルマを狙っていたツララの射線上。

 既にトリガーを引いていたツララの弾幕がロカを襲った。


(また、届かない……。偽物相手でも……)


 入念に準備し、どれだけ策を弄しても、勝てない存在。

 残ったHPも全損したロカはそのままリタイア。


「さてと、あと二人。次は……センカちゃんかな!」

「後ろかヨっ!? 回復間に合わねーっテ……!」


 同じく爆発に巻き込まれたセンカも同様に消耗している。

 リロードの完了した大筒を構え、アルマは照準を合わせる。


(距離近っ、シールド……も意味ないナ。このHP残量じゃ爆発の余波も耐えきれン。……詰んだカ)


 一瞬の思考、諦めがよぎると同時に、アルマは射出した。

 目に見える速度で接近するロケット弾。

 最後の足掻きとばかりにシールドを構え、着弾を待つ。


 そして…………想定よりも早く、衝撃が届く。


 遠方から聞こえた射撃の重低音。

 その1秒後、アルマの放った大弾は空中で爆発した。


「うっそぉ……流石にそれは想定外かも。もう一人居たのかー……」


 目の前の出来事に驚愕しながらも、アルマの反応ですぐに理解した。

 狙撃されたのだ。宙を走るロケット弾を、この場の3人以外の何者かに。


SR(スナイパーライフル)……やっぱオメーかよ。クソ」


 センカだけが何者か察しつつ、今は目の前のチャンスに意識を向ける。

 武器に持ち替え、無防備の導化師アルマに照準を合わせる。


「ちょっとズルだが、お疲れ様だヨ。アルちゃん先輩」

「うーん……ま、仕方ないね。FPSってそういうもんだし」


 アルマはあっけらかんと受け入れる。

 無慈悲に放たれた弾丸は、彼女の僅かに残ったHPバーを消し飛ばした。

 

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