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第108話 FPS大会③:集う強者


「次のFPS大会、二人に協力を要請しますわ。サイコさん、カチュアさん」


 大会開始前、ロカ・セレブレイトは同期の二人を持ち掛けていた。

 相談内容は残る一人の同期について。


「標的は導化師アルマ、彼女の優勝を妨害します。ご存知の通りワタクシはゲームが不得手ですので、サポートをお願いしたいんですの」


 目的を話すと、二人は難色を示した。

 あまり前向きな理由ではないので当然の反応かもしれない。


「ふむ。お遊びレベルの大会で一人を陥れようというのはあまり気が進まんのだが……」

「何か理由があるのデスね? ロカ」

「理由は……当日になれば分かりますわ。ワタクシの知っている『導化師アルマ』なら、きっとそうするので」

「?」


 ロカは予想していた。

 カチュアの言う通り今回は小規模なゲーム大会、そんなとき『導化師アルマ』ならどうするか。

 彼女なら大会を盛り上げるために何かしら企画を提案する。

 導化師アルマを演じる彼女もまた、同じことをするだろうという確信があった。


「ともかく、お二人はこのままで良いと思ってますの? 仮にも同期の不始末、尻拭いは我々ですべきかと」

「それは……そうかもしれんな」

「では、ご協力いただけますか?」

「わかった。アルマの件でカチュアにできることは思いつかん。貴殿に考えがあるというのならそれに乗ろう」


 なんとか一人の説得に成功し安堵する。

 しかし隣で聞いていたもう一人は良い返事を返してくれなかった。


「……申し訳ないのデスが、次の大会はやるべきことがあるノデ厳しいかもしれまセン」

「そうですの……いえ、謝る必要はありませんわサイコさん。こちらも無理を承知でお願いしていますので。けれどお互い邪魔立てしないよう、話だけでも聞いて欲しいですわ」

「もちろんデス!」


 協力できなくとも、敵対しないと約束するだけでも意味がある。

 本当なら自分以外の全員が敵なのだから。


「さて、作戦ですが……シンプルにいきましょう。とにかく強い人を集めて彼女にぶつけます」

「貴殿にしては随分雑だな。宛はあるのか?」

「ええ。ひとまずツララさんはワタクシの方で説得して協力してもらいますわ。カチュアさんも、自分より強いと思う人間を指定の位置まで連れてきて欲しいんですの」

「む……はて、カチュアより強い人間なんて居ただろうか?」

「めんどくさいので変なプライド出さないでくださいます? ……どうしても気になるなら、カチュアさんと同等の力を持つ人を探してください。そして可能なら、標的を巻き込んで乱戦に参加してください」


 むくれるカチュアを宥めつつ、作戦の意図を伝える。


「導化師アルマの本領は人読みによる予測、敵が増えれば増えるほどイレギュラーが発生し、予測の精度は落ちるので」

「なるほど……理にかなっている」

「ええ。ワタクシも微力ながら彼女を狙い撃つつもりですの。最悪刺し違えることになっても、個人的には大金星ですわね」


 端から優勝など目指していない人間の、一人に対する妨害工作。

 普段ならゲームは専門外と言って軽くこなすだけの自分が、優勝候補の格上を相手に立ち向かおうとしている。

 ロカはそんな意識で入念に準備を進めた。


「サイコさんも、やるべきこととやらが終えたら助力いただけると助かりますわ」

「ハイ――――お互い、幸運を祈りマショウ」


 それぞれが意図を隠し持ち、大会へと臨む。







 周期的に撃ち込まれる弾丸。

 家屋の壁を盾にそれを凌ぐ導化師アルマ。


「んー……この圧の掛け方もロカちんらしいなぁ」


 まだ姿は見てないが、最早襲撃者の正体は確信していた。

 だからこそ、既に対策も考え始めている。


 彼女はお世辞にもゲームが上手いとは言えない。

 特にアクション動作、動く標的にエイムを合わせられないタイプだ。


「うん。強行突破で良いかな」


 射撃音のする方向に勢いよく飛び出す。

 未だ撃たれ続けているが当たらなければどうということはない。

 そう思い込んで、動いてしまった。


「やはり出てきましたわね。舐められたものですわ……相手の行動予測が、自分の専売特許だとでも?」


 飛び出した先には、確かにロカ・セレブレイトの姿はある。

 しかしもう一人、ロカ以上に接近している人影があった。

 ネームタグには『†銀世界の支配者†』と表記されている。


「まさに天啓――――待っていたよアルマ先輩」

「ツラたん!? しかもその武器……ヤッバ……!!」


 アルマが注目したのは、ツララが重そうに抱えていたレア武器、ミニガン。


「おや、何故逃げるんだい?」

「逃げるに決まってるよ! エッグい武器で連射してきて、止まったら速攻ハチの巣じゃん!」

「はっはっは。もちろん逃がすつもりはない!」


 高速で大量の弾丸を射出し続ける機関銃。

 どこでも拾えるSMG(サブマシンガン)との違いは射程と連射時間の長さ。

 射出開始までの遅さと使用後のクールタイムが少々ネックだが、それを差し引いても余りある強力な武器。

 そのミニガンを幽姫ツララが持っている。その事実だけで退却以外の選択肢は消え失せた。


「ちょっとー。ツラたんいつの間にロカちんと手組んだの? それチーミングじゃなーい?」

「人聞きが悪いな。僕はただ救援物資を巡って強敵を探していただけさ。そして2つ目の物資の近くにアルマ先輩が居た。ロカ先輩と交戦中だったみたいだが、より脅威となりえる方を標的に選んだ。それだけさ」


 言い訳するように饒舌に語るツララ。

 実際、試合開始前にツララはロカから相談を受けていた。

 相談内容は打倒導化師アルマ、彼女と引き合わせるから戦ってくれないかと。


(僕だって、相談を受けた時点では躊躇ったさ。偽物のアルマ先輩と勝負して意味はあるのかって)


 いつものツララなら二つ返事で容認していた。

 複雑な心中、しばらくの迷いを経て……それでもツララの答えは変わらなかった。


(けど思い出した。マジクラウォーの決勝戦、あのとき熱い戦いをした相手は間違いなく君だ。君は――――僕のライバルに相応しい強者だよ)


 本物に並ぶ強者、好敵手と呼べる存在が増えるのなら、それを拒む理由なんてなかった。


「さあこの窮地、アルマ先輩はどう回避する?」


 圧倒的優位の立ち位置、もちろん手を抜くつもりはない。

 それでもこのまま終わる程容易い相手ではないと、ツララは期待していた。


 その期待に答えるように、逃げ惑うアルマがアイテムを投げ捨てた。

 その地点を中心に、フィールドが煙に包まれ始める。


「スモーク、そんなもの持っていたのか」


 無駄撃ちを減らすため攻撃の手を緩め、ツララは耳を済ませる。

 視界を封じられたのなら今度は耳で、足音からおおよその位置を割り出す。


「そっちは……救援物資が狙いか!」


 走りゆく方向から目的を察し、攻撃の再開を試みる。

 しかしミニガンはスロースターター、その遅れの内にアルマは到達してしまう。

 

「ここで逆転狙えるような武器拾えたらさ、最高に激アツじゃない?」


 言いながら物資を開封し、新たな武器を持ってスモークを抜け出す。

 ツララの視界に入ったとき、その手に握られていたのは……。


「ロケットランチャー!? それはまた……なんともアルマ先輩らしい!!」


 ツララは歓喜に震えながら気を引き締めた。

 ロケットランチャー、その名の通り着弾時に爆発するロケット弾を撃ち込む武器。

 弾速は遅いがダメージ範囲と破壊力に秀でている。


 普通の対面であれば射出を確認してから避けるだけの取るに足らない武器。

 しかし相手はあの導化師アルマ、動きを読まれ回避不能のタイミングで撃たれれば一溜まりもない。

 ツララも距離を取らざるを得なくなり、優勢と思われた盤面が一点、膠着状態となった。


「なるほど。やはり1対1では五分五分ですわね」


 その様子を監視していたロカは再び思考する。

 このままツララが負けてしまえば目的達成は遠のく。

 そうなる前に、次の手を打つ必要があると。


「ワタクシが混ざっても軽くあしらわれるだけ……けれど、ようやく次善策が到着しましたわね」


 ロカが見たのは二人とは真逆の方向。

 別プレイヤーの接近を確認した。


「カチュアさんが居ないのは想定外ですが、ちゃんと仕事は果たしてくれたようで何より」


 大会前に交わしたカチュアへの依頼、彼女と同等以上の力を持つプレイヤーを連れてくること。

 カチュアは己を犠牲にしてその依頼を達してくれた。

 そのカチュアをキルした人間、ロカも文句なしの人選だった。


「あれは……ツラたん先輩とアルちゃん先輩? 知らんうちに面白そうなことやってんナー。そういやアルちゃん先輩倒したら報酬あるんだったカ? ……ヨシ、センカも混ざるカ」


 3人目の強者の乱入。

 求めていた通りの展開に、ロカは喜びつつも心の中で謝罪する。


「……センカさん。申し訳ありませんが今だけ、ワタクシ達の都合に利用されてくださいませ」

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