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第107話 FPS大会②:物資を巡る謀略

「さあゲームも中盤に差し掛かってきましたっ!」


 司会者、ニオ・ヴァイスロードの視点。

 全参加者の視点を眺めながら、視聴者向けに解説をする。


「残り生存者は10名。新たに墓場組の仲間入りを果たした二人に、早速インタビューして行きましょうかっ。エル姉ー! ウラノちゃーん!」

「はいー。敗北者のエルですー」

「あかんかったわー」

 

《エルさんウラノさんおつかれさまー》

《墓場も賑わってきましたなぁ》


「あれは運が悪かったとしか言いようがないかもねっ。二人で撃ち合ってるところに横槍入ってきちゃったし」

「そうですよー。エル達は仲良くきゃっきゃしてただけなのにー。ツララちゃん来るなんて思わないじゃないですかー」

「漁夫の利とられてもうたなぁ。ゲーマーなら正々堂々勝負しいやー」

「うーんウラノちゃんが求めてる正々堂々はFPSじゃありえないかもっ」


《それはそうwエイム以上に立ち回りの方が重要だったりするし》

《ツラたんの視点から見てたけど、やっぱ上手いんだよなぁあの人》


「じゃーニオは司会に戻るので、墓場の皆様は仲良く観戦しててくださーいっ」

「「「はーい」」」

「元気でよろしい! ではでは試合の方ですが、ちょうど試合時間残り半分くらいだねっ」


《もう半分か。時間が経つのは早い》

《その割に生存者結構多いね》


「確かにかなり生き残ってるねー。でもでも安全地帯の収縮も結構進んだし、マップが狭くなればエンカウントも増えてくるかな? それに、残り45分ってことはあれが来るしねっ」


《来るぞ来るぞ》

《救援物資! ガチャの時間だ!》


 次に来るイベントに期待が高まる中、大会は残り時間半分を切った。









 ゲームシステムからの全体メッセージが表示される。

 『救援物資が3つ投下されました。戦闘にお役立てください』と。


「救援物資ナー。確か今回のマッチだと1回しか落ちてこないって言ってたカ。どうすっかナー……」


 救援物資、フィールド内のランダムな位置に上空からゆっくりと落ちてくる、武器やアイテムを内包したボックス。

 その中には希少なレア武器が入っている可能性が高い。

 取りに行くメリットは大きい。それを取りに行かない理由があるとすれば……。


「リスキーなんだよナ。3つにバラけるとは言え何人か群がりそうだシ。別にレア武器なくても勝てんわけじゃないシ」


《レア武器って言っても大味なのばっかだしね》

《普通に拾える武器のほうが小回り効いて便利だったりする》

《リスクリターンで考えるとリスクのほうが大きいかも……》


「ウン……様子だけ見に行くカ。取りに来た人キルできるかもしれんしナー」


《慎重にねー》

《拾った人倒せば武器もドロップするし、一石二鳥ではある》


 センカはマップを見て、次の目標地点を決める。

 全体アナウンスに導かれ、参加者たちは急行する。

 3つの救援物資、どこに何人集うかは運次第……。







「物資、物資、救援物資~。エッホエッホ♪」


 時は同じくして導化師アルマの視点。

 彼女もまた救援物資に群がる一人となった。


《迷いなく取りに行くなぁ》

《狙われてる自覚あるのかこの人w》


「あっ、今コメント欄笑ってるでしょ? 狙われてる癖に物資取りに行くのかって。見てなくても分かるからなー?」


《なぜバレた!?》

《そら笑うさw》


 FPSの試合中、他配信枠の状況が投稿される可能性のあるコメント欄は見ないように、という暗黙の了解がある。

 その中でアルマは見えないコメント欄と会話するように思考を開示した。


「狙われてるからこそ行くのさ。リスク大きいほどもスリルあるし、戦闘中の皆の苦しむ表情を拝みに行けるってことだからね。一緒に過酷を楽しもうぜ♪」


《また癖出してる……》

《マゾとサドを併せ持つ過酷厨……この人無敵か?》


「おっ物資見えたー。まだ落ちてない……けど、もう戦ってる?」


 遠目に見える降下中の救援物資。

 その方向から響く銃声、既に集まった人達で撃ち合っているらしい。


「このせっかちな感じ、アタシの予想だとジュビサタ辺り……あ、やっぱり。こんなとこでもイチャイチャしてるよあの二人」


《イチャイチャてw》

《ジュビサタ供給助かるb》


「うーん……流石にあの二人同時に相手するのは無謀かな。物資降りてくるの待ちつつ、キルチャンス伺いますよー」


《はーい》

《てぇてぇの間に挟まらないオタクの鏡》


 視聴者たちに宣言して、戦闘中の二人を観察しやすい物陰へと移動する。

 麻豆ジュビアと鳴主サタニャのじゃれ合いを見守りながら待つことしばらく。

 

 そして決着、軍配はサタニャに上がった。

 彼女が討ち倒したジュビアの持ち物を物色し始めたところを容赦なく襲撃、あっけなく沈んだ。

 おそらく回復アイテムを使い果たしていたのだろう。彼女もギリギリだったらしい。


「やらかした……ジューさんなんかに構ってたせいだ」

「それこっちのセリフなんですけどー?」

「はいはい相変わらず仲良いですなぁ。続きは墓場でよろしくやっててくださーい。後でアーカイブ見にいくからね」

「「よろしくしません」」


 倒れ伏す二人はなお言い合っており、軽く横槍を入れながら接近する。


「さて、サクッと二人の装備見てから救援物資の方を……」


 こちらに銃口を向ける輩が居ないか、周囲を警戒しながら二人の装備に手を伸ばす。

 油断したつもりはなかった。敵は見つからなかったのだから。

 しかし甘かった。


 次の瞬間、視界は光に包まれ、爆音が耳に響く。

 煙に包まれながらHPの減少に気づき、ようやく爆発に巻き込まれたと認識した。


「!?!? なんで爆発……!? いやそれより、体力ヤッバい!!」


 大きく体力が削られ、急ぎその場を離れる。

 案の定、背後から銃声が聞こえ、自分の元に弾丸が飛んできた。

 必死に走って遮蔽物の裏に身を隠し、襲撃者からの射線を切ったところで一息つく。


「はぁーーー……あっぶなかったぁ……。とりあえず回復回復」


 最優先事項の体力管理だけ済ませ、現状を整理する。


「さっきのは……二人の遺体が爆発したように見えたし、ダメージ量的にもC4(リモート爆弾)つけられてた感じかな……でそれを起爆した人と、さっき追撃してきた人は同一人物。小賢しいやり口に加えて、あの絶好のチャンスで仕留めきれないエイムの悪さは多分……」


 C4は人や物に接着させ、遠隔で起爆することができる爆弾。

 爆発の正体を推察、状況分析をし襲撃者を予想する。

 そして身を隠した導化師アルマを見て、射撃を中止した襲撃者もまた一人呟く。 


「ふむ……やはりエイムだけは永遠の課題ですわね。まあ良いでしょう。プランはまだまだありますので」


 その人物は己の不得手を理解していた。

 それを考慮した上で、勝利するための策を用意した。


「ここで引きずり下ろさせて貰いますわ――――"導化師アルマ"さん」


 全ては導化師アルマを討つためだけの策。

 ロカ・セレブレイトは静かに闘志を燃やしていた。


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