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第103話 向出センカと深夜オフコラボ

「深夜のゲリラオフコラボだーーー!!!」

「だナー」


《だーーー!!!》

《通知来て3度見したんですけど??》

《深夜ゲリラのオフコラボ!? 相手センカちゃん!?!?》

《え、この二人なんかフラグ立ってたっけ……?(ギャルゲ脳)》


「まあまあ落ち着きたまえよ皆の者。今日はセンカちゃんから人生相談があるとのことでね、この突発コラボが成立したわけですよ!」

「違うゾ。センカはただ遊びに来ただけだヨ」

「あれー??」


《違うってよ》

《はしご外されてるw》


「ま、雑談のネタくらいに身の上話聞かせてやっても良いとは思ってるヨ」

「だよねだよね。勘違いじゃなくてよかったー……あれ? これ相談乗ってあげるというか乗らせてもらってる?」


《いつの間にか立場逆転してるようでw》

《センカちゃん中々に大物だなぁ》


「この際なんでも良いか! ではではまったりゲーム始めて行きましょー!」


 不意を突かれた視聴者らが驚く中始まった配信。

 画面に映し出されたのある種最も有名と言えるレースゲーム、キャラクターやアイテム妨害などのアクション要素が人気を後押ししている。

 そんなゲームをしながら、宣言通り雑談を始めるかと思いきや……。


「ちょっ、お話する気ある? めっちゃガチじゃん」

「ゲームなんだから勝ちに行くのは当然ダロ?」

「ほー……じゃーこっちも本気出そうかな!」

「オ。結構上手いナ」

「当然! これでも箱内のレース大会でも上位常連ですから!」

「ン? あーそうだったナー」


《ゲームしながら真面目に人生相談なんてできるはずもなく……》

《二人共速すぎてCPU相手にならんw》


「ゲーム大会といえば、もうすぐFPSの大会あるらしいナ」

「あー『荒原戦場』ね。昔からよくあるソロバトルロイヤル形式のFPS。1発勝負らしいし、いつもの大会に比べたら小規模かな」


《大会! この二人もツラたんに並ぶ優勝候補ね》

《プレイスキルも大事だけど敵のエンカ率とか意外に運要素もあるからなぁ》


「そーだ。良いこと思いついた♪」

「良いこと?」

「大会盛り上げるために一肌脱ごうかなってね。何やるかは当日のお楽しみー」

「ほーん。ま、何するにしてもセンカは本気で勝ちに行くだけだナ」

「ストイックだねぇ」


《まーた何か企んでるよこの道化……》

《楽しみが増えるのは良きことです》


「やったー1位! センカちゃんもまだまだですなー」

「煽りやがって……次は絶対負けねーヨ」

「うんうん精進したまえ♪ それで、身の上話は?」

「あっ忘れてたヨ」

「あらら。ま、次のレース始めてから聞きましょうかね」


 一頻りゲームに夢中になったところで配信主旨を思い出す。

 次のレースでは少しだけ肩の力を抜き、センカはゆっくり話しだした。


「さてどう話したもんカ……。とりあえず子供の頃の話だナ」

「今も子供じゃない?」

「チャチャ入れんなヨ。小学生の頃の話ダ」

「あははごめんて」


《確かに成人はしてないけどw》

《言葉狩りの導化師》


「センカはサ、昔から母親が大嫌いだったんだヨ」

「ほー。それまたどして?」

「料理とか掃除とか家のことはしてくれてたヨ。ケドそれ以外はなんにも。朝起きても、学校から帰っても、夕飯のときも、アイツずっと部屋に籠もってンダ。全然センカに構ってくれなかった」

「ふむふむ……寂しかったんだ?」

「……平たく言えばナ。だからセンカは家を出たんダ。海外転勤族のパパに着いてってナ」

「あっそれでマルチリンガル?」

「だナ。言語覚えるのも最初は苦労したケド、あの家に帰るくらいなら勉強してる方が暇しなくて数倍マシだったヨ」


《家庭環境orz》

《幼少期から海外飛び回ってるの凄いって思ってたけど、そりゃ苦労ししてるよなぁ》


 語られた過去だけ聞けば、センカの母親は酷い人間に映るだろう。

 それが同じ事務所のタレントだとは誰も思わずに。


「今は配信すれば話し相手は5万と居るし。一人暮らしでも充実してんだけどナ」

「けどって、なにかあった?」

「それナ……最近母親が頻繁に連絡してくるようになってガチで鬱陶しいんだヨ……」

「あーそういう……でも構ってくれるようになったなら良いことなんじゃ?」

「いや今更虫が良すぎんダロ。こちとらとっくに見限ってんだヨ」

「うん。それはそう」


 相談相手も察しているようだが、あくまで身内の事情として名前は伏せて話す。

 嫌いな人物の、嫌いな理由を。


「それに……アイツが見てんのは向出センカであって娘じゃない。センカに構いたいだけのヤツは蛇足共(センカのファン)だけで十分だってノ」

「なるほどねぇ」


《だってよ蛇足さん。愛されてんね》

《へへっ。よせやい///》


 こちらが話し終えるまで無難に相槌を打つ導化師アルマ。

 彼女が本物ならセンカの母親の正体に気づいていても不思議ではないが、彼女はどうだろうか。


「で、導化師様はセンカにどんなアドバイスをくれるんダ? 母親との上手い付き合い方カ? それとも我慢して仲良くしろって説教するカ?」

「え、アドバイスいるの?」

「エェ……これお悩み相談だったよナ?」

「だってセンカちゃん頭良いし、もう答えでてるじゃん。自分の幸せに母親は要らないって」

「まあナ」

「じゃー何もいうことないよ。導化師が導けるのは迷ってる人だけ、迷いなく決断できるセンカちゃんにしてあげられるのは背中を押すことくらいかな」


 導化師らしい口当たりの良い言葉。

 その声で言われると本当にそう思えるのだから不思議だ。


「嫌なことからは逃げて良いよ。人生に必要ないことなら特にね」

「……オマエがそれ言うのかヨ」

「? ごめん聞き取れなかったや」

「別に、導化師様のありがたーいお言葉に感謝感激ですーって言っただけだヨ」

「わーそれ絶対言ってないやつー」

「オラ次のレース行くゾ。次負けた方がコンビニまでパシりナ」

「おっ罰ゲーム! 良いねーやろやろー」


《嘘つくにしても口調違いすぎるw》

《センカちゃん強いなぁ。導化師のお墨付き》

《対等な雰囲気良いね。最年少と大先輩だと思えんほどにw》


 相談し終えたところで再びゲームに集中し、夜は更けてゆく。


 深夜のゲリラ配信は3時間を超えたところでお開きになった。

 配信終了後、充実感と疲れを感じながら伸びをする。


「はーっ楽しかった! 笑いすぎて涙出ちゃいそう」


 画面から目を離し、改めて彼女の姿を認識する。

 声に違和感を覚えながらも、それ以上に注目したのは表情。


「ン? ホントに泣いてないカ?」

「あっ……ごめん止まんないや。最近よくあるから気にしないでね」


 本人も無意識だったらしく、笑顔のまま静かに涙を流していた。

 演技で隠しきれない、本物の感情が溢れてしまったのか。


「――――シューコに聞いたんだけどサ。導化師アルマは人前で泣かないらしいナ」

「っ……!?」


 センカは指摘する。

 嫌味のつもりはない、客観的な指摘。


「どうせ破綻したんなら、一旦ボロ出しとけバ? 別にセンカはどっちのオマエも否定する気ねーヨ」


 心配しすぎることなく、楽にしろと伝えるつもりで。

 その自然体の接し方が今の彼女にはちょうど良かったのかもしれない。


「…………ちょっとだけ、良いですかねぇ」

「オウ。久しぶりだナ、ツムリ」

「ズズッ。はぁい。お久しぶりでずぅ……」


 ようやく顔を見せた同期の素顔。

 センカはそれを平然と受け入れた。


「今、辛いカ?」

「……正直言うと、少しだけぇ」


 シンプルな質問に、恐る恐る答える。

 それをきっかけに、今まで秘めてきた想いが決壊する。


「頑張っても、誰も私のこと必要ないみたいなんでぇ。むしろ邪魔者でしかないって言うかぁ……へへっ……」


 心配させまいと自虐的に笑ってみせる。

 どちらにせよそんな気遣い、センカは不要だと思った。


「センカはツムリと喋るの好きだけどナ。やたらと褒めてくれるから自己肯定感上がるシ」

「え? そ、そうですか……?」

「ウン。無理にツムリで居続けろとは言わんケド」


 センカが伝えたのはあくまで自分の感想。


「センカは人の気持ちとかわからんからサ。話は聞くケド、否定しない代わりに共感もできン」


 どこまで行っても他人事。

 人に強制されるより、本人が一番楽なやり方で生きるべきだと思うから。


「そんなんでよければ、キツくなったらいつでも呼べヨ。遊び相手はいつでも募集中だかんナ」


 いつでも気楽に遊べる存在。

 ツムリに戻ってほしいという皆の望みとは反するものかもしれない。


「すぅーっ…………おっけ。ありがとねセンカちゃん」

「オウヨ」


 再び声を変え、導化師アルマに戻る。

 今を楽に生きるための、逃げの選択。

 そんな二人だけの関係性。


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