第102話 向出センカの内心
突然明かされた事実に戸惑いながら、ツララは問いかけた。
「娘って……それなら何故あんなに嫌われてるんだい?」
「…………」
答えにくそうに黙る科楽サイコ。
それを見かねて、狡噛リリが助け舟を出す。
「ツララよ。サイコ殿がいつからVTuberをやってるか、知っておるかね?」
「ん? 確かブイアクトに入る前から活動していたらしいから……10年以上?」
「15年じゃよ。そしてセンカはブイアクト最年少の17歳。つまりセンカは物心つく前から母親がVTuberだったわけじゃな」
二人の関係性を客観的に語られ、観念したようにサイコも口を開いた。
「……デスね。子供からしたら部屋に籠もって遊び呆けてるダメな大人に映ったと思いマス」
「じゃがセンカは、自らVTuberになる道を選んだのじゃろう? それも嫌悪する母親と同じ事務所に」
「その理由は科楽にも分かりまセンが……今日あれだけ拒絶されたとなると、前向きな理由とは考えにくいデスね……」
子が自分を嫌う理由は理解できる。でも、なぜ自分と同じ道を選んだのか。
たとえ聞きたくても、会話の機会すらなければ知るすべもない。
「サイコ先輩がセンカを誘ったのは、やはり仲直りしたいからか?」
「もちろんデス。しかし少々強引すぎマシタね……焦っていたようデス。科楽達、ブイアクトメンバーに残された時間も僅かかもしれないと思ったら……」
「我々の時間?」
サイコの言葉が指す時間とは、個人的なものではなかった。
それはブイアクト全体に関わる話。
「アルマを中心に引き起こされている騒動。科楽の予想が正しければ……きっとブイアクトは無事ではすまないノデ」
「それは……否定しきれない、か」
「もちろん、科楽はブイアクトが終わっても間違いなくVTuberを続けマス。ケド、あの子と共演できる機会は……今日が最初で最後のチャンスだったのかもしれマセンね」
「「…………」」
二人はしばし沈黙した。
サイコの言葉は憶測に過ぎないが、楽観的になれないのも事実。
一瞬口を閉ざしてしまったが、これ以上空気が沈まないようにとリリは口を挟んだ。
「なら一つ一つ大事にしないとじゃな。既に次のチャンスは用意されておるようじゃし」
「既に? ……ああ、そういえばアレがもうすぐあったね」
意味深に二人が示し合わせると、察した様子のサイコも良い反応を示した。
「FPSのゲーム大会デスか! 確かに偶然遭遇してしまっても不自然ではありマセンね!」
「なんなら事前に勝負を持ち掛ければ良いのじゃ。あの負けず嫌い娘ならそうそう断らんじゃろう」
「だがセンカは強いよ。正々堂々の勝負で負かすのは僕でも至難だ」
「ハイ! 今サイコにできるのは、練習あるのみデスね!」
ようやく前向きな表情を取り戻したサイコに、二人はほっと胸をなでおろした。
「その間に、ワシは本人にそれとなく探りを入れてみるかのう。何事も下ごしらえが大事じゃからな」
「まるでギャルゲーの好感度管理だね。仕方ない、専門外だが僕も手伝おうじゃないか」
「……ツララ。お主はセンカと遊ぶ口実が欲しいだけじゃろ。素直に誘えばええのに」
「ぐぬっ……そ、そういうのはキャラじゃないんだ……。でも、良い好敵手だと思っている。ゲームを共に楽しめる相手は何物にも代えがたい」
二人にとってはセンカもサイコも同じ仲間。
みなで笑い合える平和を願って、リリとツララは協力を申し出た
◇
「あーイライラするナー……」
配信後、通話を切ったセンカはしばらく項垂れていた。
この世で唯一嫌いな人間との会話、これに勝るストレスをセンカは知らない。
「こういうときは誰かと遊んで忘れるのが一番なんだガ……」
誰か構ってくれる暇そうな人間は居ないか。
他メンバーの配信予定を眺めて見繕う。
「アイツなら……ある意味、一石二鳥カ」
ちょうど同じく配信を終えたばかりらしい人物を見つけ、連絡を送る。
『今ヒマカ? 遊ぼーゼ』
送信後、ものの数分で返信が届いた。
『ウチ来てくれるなら良いよー』
その返しはセンカも想定外だった。
通話でも繋ぎながらゲームできればと思っていただけなのだが、まさかこの夜更けに家に誘われるとは。
もしかして、遠回しに断ろうとしている?
『おっけ。1時間後ナ』
『あっホントに来るんだ』
微妙に乗り気ではなさそうな返信を無視して、センカは速攻で準備しタクシーを拾った。
以前何度か訪れたことのある家。
しかし今は同じ人物の家と言って良いものか。
到着し、少しの緊張を抱えながら呼び鈴を鳴らした。
「はーい。こんな夜遅くにご苦労さま♪」
「呼んだのオマエだけどナー。……直接会うのは久々だナ。ツムリも、アルちゃん先輩も」
何度も見たことのある同期の容姿。
ただし本人は、声を変えて別人だと言い張っている。
「あはは……あのねセンカちゃん。申し訳ないんだけど今ツムりんは……」
「わかってるヨ。今日はアルちゃん先輩と遊びに来たんダ」
「ご理解助かる♪ さ、上がって上がって」
こうして『彼女』と相対するのは初めてだ。
違和感は凄まじい。だがセンカはそれを承知の上で訪問した。
招かれるままリビングへと進み、座布団に腰を下ろす。
心なしか、部屋の雰囲気も少し変わった気がした。
「今日は誘ってくれてありがとね。実はこうなってから初めてのお客様だったりして」
「だろうナー。誘いにくいのわかるシ。けどセンカはそういうの気にならんヨ」
「ドライだねぇ。でも今はそのくらいが一番ありがたいかも」
センカは自負していた。
今、ブイアクトの中でこの『導化師アルマ』と自然に接することができるのは自分だけだろうと。
どこまで行っても他人事、相手に交流の意思さえあれば、それだけで仲間と割り切れる。
そうできる人間が多くないことも、理解していた。
「それで今日は何しに?」
「言ったダロ? 遊びに来たんだヨ。ちょっとヤなことあったから気晴らしにナ」
「ヤなことって、ひょっとしてサイさん達とのコラボ配信? なんか荒らしてたけど」
「オマエも人の配信よく見てんナ。嫌いダっつってんのに構ってくるんだヨあのオバサン」
溜まったストレスを吐き出すように愚痴る。
自分の弱みを見せるのは、相手の警戒心を解くのに都合が良いから。
今日センカがここに来た目的はもう一つあった。
「なるほどねー。つまりこの導化師めにお悩み相談というわけですな?」
「あーそんなつもりなかったケド……それも悪くないかもナ。ならいっそ配信でやるカ?」
「えっ良いの? 正直助かるかも」
「助かる?」
「誰もアタシとコラボしたがらないからさ、ソロ配信多すぎてそろそろハブられてるとか思われちゃいそうなんだよねぇ。当然っちゃ当然だけど……」
「ふーん。別にセンカは構わんヨ。友達とオフコラボするだけダロ?」
極力平静を装って返す。
相手が自然体で居られるように、自然体を演じる。
「……ふふっ。じゃーやっちゃいますか。深夜のゲリラオフコラボ♪」
これは異迷ツムリの調査の一環。
今の彼女の本音を引き出す。
そんなミッションを内心に秘めて、センカは突発オフコラボに臨んだ。




