パン屋
三題噺もどき―ごひゃくにじゅうはち。
窓から入り込む風が、心地よく肌を撫でる。
ようやく、冷房がなくても窓を開けて居れば、多少は涼しくなるようになってきた。
一時期上がりまくっていた頃に比べればマシにはなりつつあるが、ガソリン代も馬鹿にはならないからな……つけなくていいなら冷房はつけたくない。
「……」
隣に妹を乗せながら、車を運転している。
運転中は、ラジオではなく音楽を聴きたい派なのでそれなりのお気に入りの歌手の曲を流している。中古車なので、ブルートゥースとかいう便利機能はない。まぁ、CDはそれなりに買う方なので、何も困りはしないけど。
「……次の信号右~」
「ん~」
信号を右に曲がり、慎重に進んでいく。車通りはたいして多くもないが、どこで曲がるか分からないので慎重に、だ。
この辺りに、新しくできたパン屋さんがあるとかで、今日は来ているのだけど。行きたいと言った本人がナビゲートをしてくれている。この妹はしょっちゅうこうして、人のことを足として使うことがある。まぁおかげでいろんなところに行けるのはいいのだけど。運転技術も上がるし。望んではいないけどな。
「そこの角ひだり」
「ここ?」
「そこ」
指示通りに曲がると、少し遠くに、それらしい看板が見えてきた。
「あそこ?」
「そうあそこ」
その店の目の前まで来ると、まぁ、狭い駐車場が用意されていた。
二台分しかないのかこれ……一台はすでにとまっていたのでその横にとめる。
バック駐車は正直言うと苦手なのだが、前から突っ込むと出るのが大変そうなので、何とかとめる。こう、真っすぐとめたりするのがあまりうまくいかないんだよなぁこういう駐車場。
「……っし」
「ど~も~」
ナビを終え、車を降りる準備をし始める妹。
こちらも窓を閉じ、車の鍵を抜いておく。
鞄はすぐそこに置いてあるので、それを肩にかけて、念の為のマスクをしておく。
「……」
車を降り、ドアを閉めると。
パン屋さん独特のいい香りが鼻をくすぐる。焼き立ての暖かなパンがたくさん並んでいるのが容易に目に浮かぶ。これだけでも、十分満足できそうなほどにいいにおいだった。
「……」
店のドアをこちら側に引くと、更にいい香りがしてくる。
小さな、狭い店内には、所狭しといろんな種類のパンが並んでいた。
定番のモノから、この店のオリジナルらしいもの、菓子パン系が多いように見えるけれど、総菜系もそれなりにある。少し端の方にはクッキーやフィナンシェも置かれているようだ。あれもあれでおいしそうだ。
「何食べる?」
「ん~」
既にとレートトングを持った妹の横に並びながら、何を食べようかと眺めていく。
変わり種に挑戦する勇気はあまりないので、定番物を選んでいく。
パン屋さんに来ていつも買うものは、クロワッサンとメロンパン。
「クロワッサンと、チョコクロワッサン一個ずつ」
横に並んでいたクロワッサン二種類を選ぶ。あと一個何か食べたいが。
ちなみに妹は、ハード系のパンを好んで食べる。すでに一個明、太フランスみたいなのを取っている。あとベーコンエピだよな君は。
「……」
キョロと、メロンパンはないのかなと探してみると。
星のようにチョコチップの散りばめられた、チョコチップメロンパンが一つだけ残っていた。普通のメロンパンはすでに売り切れているようだ。他に……クリームパンやアンパンでもいいんだけど……でもやっぱりこれにしよう。
「あと、チョコチップメロンパン……」
「あとはいいの」
トレーにパンを乗せながら、聞いてくる。
まぁ、あまりとっても食べられないので三個くらいがちょうどいいだろう。妹自身はもう既に三個とっていて、箸に並んでいるクッキーを買おうかどうか悩んでいる。
両親やもう1人の妹には一個ずつ、好きそうなものを買っておく。
「おっけー」
結局ココアのクッキーをひとつだけ手に取り、パン九個の乗ったとレートそれをレジに持っていく。
それなりに値段が張りそうな気もしたが、まぁ、今時どこのパン屋さんもこれくらいの値段はするよな。百円パンとかもあるらしいけど、近場にないので行ったことがない。そのうち機械があればいきたいものだ。
「ありがとうございます」
料金を支払い、袋に詰められたパンを受け取り、店を出る。
車に乗り込むと、パンの香りが車内を満たし、思わず腹が鳴った。
「飲み物だけどっかで買って外で食べよ」
妹のその提案に乗り、近場のコンビニを探しながら車を発進させる。
何と合わせて食べようかなぁ……。
お題:浮かぶ・クロワッサン・星