(8-8)
と、その瞬間、俺の脳内モニターが強烈な光を放った。
《新しいステイタスが発動しました》
――そうか。
そういうことだったのか。
織田家に災いをなす者。
それはつまり……。
俺の思考に信長が割って入った。
「分かった。ならば、サルを利用しようではないか」
なんとか心中を隠せたらしく、さっきの話題に戻っていた。
「はい、ぜひ取り立ててやってください。藤吉郎はお館様を天下統一へ導きます」
「うむ、良かろう。織田家の禍はわし自身が回避すれば良いのだからな」
そして、信長は立ち上がった。
「その方をわしの軍師とする。藤吉郎同様、その方もわしのために尽くすのだぞ」
「はい」と、俺は再び平伏した。
顔を見られるわけにはいかない。
今のこの俺の心中を察せられたらお市様との約束は果たせない。
「面を上げよ」と、頭上から信長の声が降ってくる。
顔を上げ、信長と視線を交わす。
――逃げるな。
お市様と口づけをしたときにくらべたら、こんな緊張、どうってことはない。
「その方、名を改め、全くの別人としてこの世に生きよ」
まるで俺の決意を見透かしたかのように信長が告げた。
「かしこまりました。それでは……」
俺は新たな自分の名前を名乗った。
戦国の覇王、いや、魔王がそれを聞いて高らかに笑う。
「明智光秀か。わしの軍師にふさわしい良い名だ。気に入ったぞ」
「ありがたき幸せ」
格子戸をくぐり抜けた信長が俺に声をかけた。
「明日までには出してやる。一晩くらい、そこにおるのも一興というものよ。軍師たる者、そのくらいの胆力がなくてはな」
雨音を弾き飛ばすような笑い声と共に織田信長が去っていった。
一人になった牢屋で俺は胸に手を当て興奮を収めていた。
――これでいいんだ。
これが答えだったんだ。
握りしめた拳に力がこもる。
明智光秀として俺は戦国の世を生きていく。
織田信長が作り上げる天下を、根底から覆す反逆者として俺は歴史に名を残す。
史実を変えるためじゃない。
一五八二年のあの瞬間を再現するために俺は全力を尽くす。
俺は愛するお市様のために天下に平和をもたらすんだ。
脳内モニターにウインドウがポップアップする。
《明智光秀:統率97、武勇99、知略92、政治95》
これだけの能力があればどんな野望でも思うままだ。
《ここからは『信長のアレ・第2章』を起動します。よろしいですか?》
イエスかノーかの選択肢。
俺は迷わずイエスをクリックした。
――俺の心に本能寺。
魔王と呼ばれた男の野望を巡る旅は今始まったばかりだ。
これにて第1部完結です。
第2部の連載も始まりました。
作者リンクからご覧ください。
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