(7-11)
「そういえば、又左も来ておるのか」と、信長が視線を巡らせた。
「おそれながら、ここに控えておりまする」と、織田家家臣団の末席に並んだ前田利家が大きな体を縮めながらおずおずと答えた。
「その方の帰参を認めたことはないはずだが」
「申し訳ございません。ですが、御家のために馳せ参じた次第でございます」
「まあよかろう」と、鼻を鳴らす。
「おそれながらお館様に申し上げます」と、利家が神妙な面持ちで声を上げた。
「なんだ。このサカマキとかいう南蛮人のことか?」
「いえ、今日ここにお見えの松平の御一行について、お耳に入れておきたいことがございます」
「なんじゃ、申してみよ」
「こちらにいる者は、本物の松平家の当主元康殿ではございません。真っ赤な偽物の影武者でございます」
――おいっ!
土壇場での裏切りかよ。
利家の暴露に作兵衛たちは青ざめ、酒井忠次は膝の上で拳を握りしめる。
本多忠真は武器を隠し持っているのか、懐に手を入れている。
「本物の松平元康公は拙者の助太刀により木下藤吉郎が討ち取りました。しかしながら、このサカマキという南蛮人の指示で、松平家存続のためにこのような浅はかな策をとることとなり、拙者も藤吉郎もその話に乗ったふりをしておりました。ですが、それもすべてこの場で真実を暴露せんがため。織田家への忠義の証として身の潔白を証明したくここまで隠していた次第でございます」
「なるほど」と、信長は静かにうなずいた。「それだけか?」
――ん?
それだけ……?
俺や利家を始め、家中すべての者が虚を突かれた表情でお互いを見回す。
ただ一人、藤吉郎だけが鼻の頭を掻いていた。
「又左よ、本当におぬしは馬鹿正直の律儀者だ」
サルに続いて信長が愉快そうに笑う。
「そのくらいのこと、わしが見抜けぬと思うておるのか」
――はあ?
「又左よ、わしがお館様にすでに申し上げてあるのだ」と、今度は藤吉郎が暴露した。
「なんと」
絶句する利家に向かって信長が扇子を突き出す。
「まあよい。馬鹿正直もまた忠義の証。又左よ、その方の帰参を認める。今後はより一層織田家のために槍働きに励めよ」
「ははっ、ありがたきお言葉。この利家肝に銘じまする」
床に額をこすりつける利家から俺に視線を移した信長が俺を見据えた。
「さて、サカマキとやら、この状況を踏まえてどうする?」
将棋なら詰みだが、軍師としての勝負はここからだ。
「いかにも、ここにいる松平元康、本多忠勝、榊原康政の三名は影武者にございます」
俺だって、こういう流れを予想しなかったわけではない。
藤吉郎はクズで信用ならないし、覚醒した真・織田信長の能力値を考えれば、この程度の洞察力は持っていて当然だろう。
さらにその先を読まなければ俺の出番などないのだ。
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