(7-10)
藤吉郎が捨て犬でも見るような目で俺を見ていた。
「おぬし、本気で言っておるのか?」
「ああ、嘘じゃない」
「で、その方法とやらは?」
「それはお館様に直接申し上げる」
「その場で首をはねられるかもしれんぞ」
「覚悟はできている。後戻りはできないと言っただろう」
「じゃあ、松平の連中と一緒にお城へ上がるか」と、藤吉郎は柴田勝家に頭を下げた。「柴田様、よろしいでしょうか」
「うむ」と、無骨な家老は立ち上がると俺を見下ろした。「わしはそなたを信用してはおらんし、見張り番殺しの疑いも晴れてはおらぬ。だが、そなたを連れて参れと御命令を受けておる以上、事の次第を申し上げてお館様に判断していただくしかなかろう」
そして、視線を遠くへそらしながらつぶやいた。
「織田家による天下統一。わしがその神輿を担ぐのも悪くはない」
「サル」と、寧々さんが藤吉郎にすがりつく。「力になってあげてよ。あんたも出世したいんでしょ」
迷惑そうな顔で藤吉郎が俺を見るので、俺は寧々さんに笑顔を向けた。
「寧々さん、ありがとうございます。俺は災いの元じゃありません。必ずいい結果をお知らせしますから」
そして、俺は柴田勝家に一つだけ依頼した。
「南蛮人のデイブ・スミッシーを探してください」
あいつだけは野放しにしてはおけない。
裏をかくなら、その裏の裏を先回りする。
それが軍師の戦略だ。
勝家が家来たちにデイブ捜索の命令を下した後、松平の影武者連中と一緒に俺は清洲城へと連れていかれた。
二度目の清洲城は前回に比べて明るい空気に包まれていた。
今川の脅威を退けた家臣団の自信、そして真・織田信長として覚醒した新たなる主君の覇気がみなぎっていたのだ。
前と同じ広間に通され、俺は松平側の一員として作兵衛元康の隣に座った。
短刀は藤吉郎に取り上げられていたが縛られてはいない。
すぐに奥から織田信長が姿を現した。
「よくぞ参った。お互い腹を割って話し合おうではないか」
堅苦しい挨拶も抜きに、いきなり本題に入る。
「織田家と同盟を組みたいということだそうだが、今川とは決別するのだな」
酒井忠次が作兵衛に変わって言上する。
「はい、こたびの戦で松平は今川のためにかなりの犠牲を払うこととなり申した。譜代の家臣も多く討ち死に。しかしながら、それに対する今川の態度は腹に据えかねるものでございました」
「うむ、その無念さ、このわしもよく理解しておるぞ」
「ありがたきお言葉。我ら、これからは織田家とともに歩んでいきたいと願っております」
「おい、そこの南蛮人」と、信長が俺を扇子で指した。「サカマキとか言ったな」
「はい」と、俺は頭を下げた。
「その方の助言により、桶狭間なる場所へ出陣したはいいものの、そこに今川の軍勢はおらず、敵の大将を討ち取ることはかなわなかった。今川に奇襲をかけろとけしかけておいて、実は我々を敵前に誘い出す罠だったとはな。もちろんそのような計略などわしは見抜いておったからこそ、二万五千もの今川軍を追い払うことができたわけであるがな」
「いえ、それは私のせいではございません」と、俺は臆することなくまっすぐ信長を見返した。「デイブ・スミッシーが今川に内通していたことが判明しております。岡崎城にて、今川家から直接聞き出しております」
「言い逃れをするつもりか。その方こそ、今川に通じておるとまさに今白状したではないか」
「いえ、私が今川方と接触したのはあくまでも桶狭間の後です。木下藤吉郎と前田利家殿が証人です」
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