(7-8)
「サル、何してんの!」
手紙で要請した通り、寧々さんが来てくれた。
「な、なんで寧々殿がここへ?」
うろたえる藤吉郎に寧々さんが詰め寄る。
「サルがここにいるって、手紙をもらったからよ」
「じゃあ、サカマキの言ってた手紙の相手というのは……」
ようやく藤吉郎が俺を放してくれた。
寧々さんの隣にもう一人中学生くらいの女の子がいる。
前田利家の妻になるまつさんだ。
お市様と同じ歳に生まれて寧々さんよりも二歳年上だが、華奢な体つきで逆に後輩みたいに見える。
史実では利家との間に十一人もの子供を産んだそうだけど、いくら戦国時代でも異例のことだ。
「寧々さん、まつさん、よく来てくれました」
俺は縁側から二人に頭を下げた。
「寧々さん、藤吉郎は必ず出世する。ただし、それは織田家の発展という土台があってこそなんです。織田家が潰れたらその夢も消える。だから、俺の言うとおりにするように口添えしてほしいんですよ」
「えー、このサルが出世?」と、寧々さんは笑い出す。「まともにおつとめできるかも不安なのに」
俺の言葉も藤吉郎の人柄も、どちらも全然信用していないようだ。
中学生くらいの年頃なのに聡明すぎる。
藤吉郎が出世して部下ができたときも、主人よりはむしろ奥方の気配りでみなが懐いていたそうだからな。
と、そこへ前田利家もやってきた。
「おおっ、まつ殿ではないか。いかがした?」
「もう、会いたかったの」と、まっすぐに胸に飛び込んでいく。
「なんじゃ、こちらから会いに行くつもりだったんじゃがな。まだお館様に帰参のお許しを頂いておらぬのでな」
利家の腕に抱かれたまままつさんが俺に顔を向ける。
「利家様は帰参がかないますか」
「ああ、それはもちろん大丈夫です。織田家の家臣として、一国一城の主になります」
「わあ、本当ですか。よかった。ひと安心ね」
利家の方は素直に受け入れられないようだが、まつさんは素直に喜んでいる。
史実では桶狭間の前に二人は結婚して一人目の子供も生まれていたはずなのだが、どうも順番が前後してしまったらしい。
だからまつさんにとって利家の帰参と出世は大事なことで、俺の言葉を信じようとしてくれているんだろう。
「ただ、そのためにも、織田家による全国統一を推し進めなければなりません。家臣団が手柄を立てることで織田家を盛り上げていく。それが自分たちの出世につながるのです」
女性を味方に付ければ男は動く。
俺も少しずつ人を動かす知恵を覚えていかなければならないんだ。
柴田勝家が縁側にあぐらをかいて俺を見つめる。
「そなたはなぜ、そこまで織田家に肩入れするのだ?」
表情は僧侶のように穏やかだが、鋭い目をした柴田勝家の問いかけに、俺は一瞬詰まってしまった。
――なぜ?
そういえば、なぜなんだ?
たまたま桶狭間直前の尾張国に来てしまったからか?
織田信長が桶狭間で勝って天下布武へと乗り出す史実を知っているから疑いもしなかっただけなのか?
すでに桶狭間自体が消えているのだから、織田家以外が天下を取るシナリオを検討するべきなんじゃないか。
『信長のアレ』でも、桶狭間イベントで今川が滅びないパターンが発生する。
その場合はたいてい織田家は今川に倒される。
ならば、俺がつくべきなのは今川なんじゃないのか。
氏真とのつながりもあるし、そうなると、疑われている織田家に今さら肩入れする理由はたしかに薄い。
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