(7-7)
翌朝、廊下の騒ぎで目が覚めた。
外れそうなほどの勢いで障子が開け放たれ、血相を変えた藤吉郎と柴田勝家が飛び込んできた。
「おぬしがやったのか?」
――は?
何を?
俺は目をこすりながら体を起こし、二人の顔を眺めた。
「おいっ、それは何だ!」
藤吉郎が俺の体をまたいで布団に手を伸ばす。
しわの寄った敷き布団に俺のポケットからこぼれ出た短刀が転がっていた。
「それは俺のだ」と、出所が今川というのは伏せて説明した。「昨日、武器を預かるというので、見張り番の人に渡したんだが……」
「それをおぬしが持っておるということは、おぬしがやったということだな」
藤吉郎が鞘から短刀を抜く。
――あっ!
俺は思わず声を上げた。
「な、なんで……」
刀身にベッタリとついた血が固まっていた。
血曇りなんてぼんやりしたものじゃない。
一目で人を刺した血と分かるかさぶたのような固まりだ。
「こ、これは……」
「しらを切るつもりか」と、藤吉郎が俺の髪の毛をつかんで縁側に引っ張り出す。「おぬしが殺したんだろうが」
――殺すって……?
縁側のすぐ下に広がる水たまりに見張り番の男が転がっていた。
首を切られ血まみれだ。
――ちょ、嘘だろ!?
鉄分の臭いに吐き気を催しながら俺は叫んだ。
「俺はやってない」
「悪人はみなそう言う」
「藤吉郎だって、寧々さんに浮気なんかしてないって言ってるだろうよ」
「ふん、わしは女子好きだが悪人ではないわっ」
ちきしょう、開き直りやがって。
「待ってくださいよ」と、俺は首をひねって柴田勝家を見上げた。「昨夜南蛮人のデイブ・スミッシーがたずねてきました。その時に、この見張り番に預けておいた短刀を俺に返したんです」
「昨夜は雷雨だった。かの南蛮人など来訪するはずがなかろう」
「来たんですよ。本当なんです」
どんなに真実を述べても二人とも俺の言うことなど信じそうになかった。
『カエサルの物は』ってジョークにだまされた俺が甘いのか。
なんてネ、じゃねえだろうがよ。
二度もあいつにはめられるなんて、何が最強の軍師だよ。
これはもう俺の責任としか言いようがない
そもそも、見張り番に預けた短剣を取り戻す正当な理由なんてないんだからな。
短刀を持っている段階で気づくべきだったんだ。
化け物みたいなやつにビビって、確かめなかったのが情けない。
「やはりおぬしは織田家に災いをもたらす間者なのであろう」
俺の髪を引っ張る藤吉郎が血の臭いがする短刀を俺の首筋に当てた。
「柴田様、この場で成敗してもよろしいでしょうか」
「是非もなしか……」と、柴田勝家が信長みたいにつぶやく。
「いいのか」と、俺は最後の抵抗を試みた。「お館様は俺を生きたまま連れてこいと命じたんじゃないのか。おまえが殺したら、責任を問われるぞ」
「逃げたからやむを得ず殺したとでも弁明するさ」
「俺が死んだら、お館様に手紙が届くことになっているんだぞ」
「悪あがきか」と、藤吉郎の手が止まる。「はったりだろ」
「昨夜俺は手紙を出した。そこに、『俺が柴田勝家の家にいて、藤吉郎に見張られている。俺の身に何かあったときはお館様に知らせてくれ』と、書いておいた」
寧々さんとまつさんに宛てた手紙の中で、保険をかけておいたのだが、藤吉郎は手紙の相手を知らないのだ。
「誰に手紙を出した。言え」
「言ったら殺すんだろう。言えるかよ」
「小細工など無意味だと思い知らせてやるぞ。お館様への説明など、いくらでもしようがあるからな」
やっぱりはったりははったり、通じないかと覚悟したときだった。
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