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 それにしても、俺は勝ったのか?


 令和では誰かに逆らうなんてことすらできなかったのに、野良犬相手じゃなく、戦国時代の本物の喧嘩に勝ったのか?


 なんかわけの分からないことをつぶやきながら変な感じで逃げていったし、実感がわかない。


 それでも、勝ちは勝ちか。


 そんなにカッコイイ勝ち方じゃなかったけど、実際、能力値が上がったわけだし、素直に喜んでおこう。


 何よりも、寧々さんを守り抜いたことが少しだけ自信になった。


「危ないところを助けてくださってありがとうございました」


 彼女も丁寧に頭を下げてくれた。


「とても頼もしかったですわ」


 こんなことを女子に言われるなんて、令和の俺には想像もできなかったな。


「いや、実際はかなりいっぱいいっぱいでしたよ」


 正直に答えると、寧々さんが不安そうに眉を寄せた。


「あの者たちは人(さら)いでしょうか」


「いや、まさか、さすがにそこまでの連中では」


 ステイタスも農民だったし。


「でも、銭がどうのと話していたではありませんか。戦の時には村から子供が連れ去られないように、寺や神社に隠しておくものですし。きっとわたくしたちを攫って売り飛ばすつもりだったのでしょう」


 ああ、そうなのか。


 この時代だと、実際に連れ去られて人買いに売られてしまう子供もいたんだろうな。


 領主の重税取り立てに困った農民がよその村の者に手を出すこともあったのかもしれない。


 案外、寧々さんの言うことは大げさではないのかもな。


 まあ、でも、熊男がイヤらしい目で寧々さんを見ていたのは間違いないわけで、おそらく自分たちで楽しんでから売り飛ばそうとしていたのかもしれない。


 ただ、そんな説明をしたらますます怖がらせてしまうだろうから、寧々さんには余計なことは言わないでおこう。


 男が女に言う『いいこと』の意味が分かる歳でもないんだろうし。


 ま、非モテボッチ陰キャ男子の俺にも経験はないんだけどな。


「でも、寧々さんはなんで一人でこんな人気(ひとけ)のない河原にいたんですか。こんなところにいるのなんて、ああいう連中くらいでしょうし」


「それは、その……」


 急に頬を染めてうつむいてしまった。


 その姿がまた可愛らしくて、聞いた俺まで全身の血液が沸騰しそうなほどに照れくさくなってしまった。


 女子力のパラメータは反則の百超えだろ。


 不意に顔を上げた寧々さんが土手の方に手を振った。


「あ、サル」


 ――ん?


 こんなところに猿がいるのか?


 振り向くと、小柄な男が飛び上がるように手を振りながらこちらへ向かってきていた。


「おーい、寧々殿」


 さっきの連中よりはましな格好だが、背はまるで少年のように小さく、たしかに猿のようにしわくちゃな顔だ。


 だが、腰に刀を差しているし、見開いた目には強い意志を感じる。


 下級武士だろうか。


 どちらにしろ大人の男性のようだ。



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