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それに、信長は俺を生かしたまま連れてこいと命じている。
それはつまり、皮肉なことだが、清洲に着いて会見するまで俺の命は藤吉郎の手によって守られるということだ。
まだまだいくらでも進展――または逆転――の可能性はある。
どちらにしろ、歴史を動かす主導権を握っていればゲームオーバーにはならないのだ。
俺は藤吉郎の目を見つめて言った。
「殺さず、生かしたまま俺を連れていけばいい。自分で弁明する。それで駄目なら、その時はあきらめよう」
「もとよりそのつもりじゃ。いくぞ、又左」
「俺も行っていいのか」と、利家が目を見開きながら自分を指さす。
「当たり前だ。おぬしも自分で申し上げるしかなかろう」
「書状でも納得してくださらなかったお館様が、俺の話を聞いてくださるとは思えぬが」
愚痴をこぼしつつも六尺の背中を丸めながら前田利家が俺と並んで歩き出す。
「そなたとは、縛られておるかどうかの違いだけだな」
自虐的な笑みを浮かべる利家は、年上なのにまるで俺の同級生みたいだった。
松平使節一行は桶狭間に立ち寄り、戦死者に念仏を唱えた。
「若殿、松平家を絶やさぬために影武者を立てまするゆえ、なにとぞお許しくだされ」
酒井忠次の横顔は孫を亡くした祖父のようにやつれていた。
俺たちは丹下砦で休憩を挟み、清洲へ向かった。
明るいうちは晴れていたが、夕方頃にまた雨雲がわいてきて、降り出すことはなかったものの、南からのぬめりけのある風が頬を撫でていく。
後ろ手に縛られたままだが、歩きにくいだけであまり悲壮感はない。
もし織田信長が俺への疑いを解かず、今後の戦略も受け入れなかった場合はどうすればいいのか。
第二、第三のシナリオは頭の中にある。
なんといったって、俺は『信長のアレ』を千回クリアした最強の軍師なんだからな。
ただ、その場で斬り殺されてしまったら、そんなものは霧となって、歴史の彼方へ消えてしまう。
清洲を脱出する手段を確保しておく必要があるわけだが、それがさっぱり思いつかない。
だが、俺は保険をかけておくことにした。
「藤吉郎、清洲城へ行く前に寄りたいところがある」
「逃げようとしても無駄だぞ」
「前田利家の無事を知らせるためにまつさんの実家へ寄ってからでも遅くはならないだろう」
「それならば又左だけ行ってくればよいであろう。使節一行皆が行く必要はない」
「使節団もいったん休憩して身なりを整えてから登城するのにも都合が良いだろう」
「おぬし、何を企んでおる?」
さすが、後に天下を取る男だけあって、勘が鋭い。
弱点の女性を味方にしようとしていることを感づいてしまったようだ。
「藤吉郎は、まだ寧々さんに無事を知らせてはいないんだろう」
「まあ、それはそうだな。丹下砦から引き返してきたのでな」
「なら、まつさんから寧々さんへ伝言を頼んでおけば喜ぶんじゃないか」
「わしのことは後回しで良い。今はお館様の御用が優先だ」
頑なな藤吉郎ですら説得できないようでは、詰みだ。
だが、ここでまた思いがけない展開が待ち構えていた。
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