(7-2)
藤吉郎はそんな利家を横目に、俺の後ろに回り込んだ。
「それと、おぬしだが」と、いきなり縄をかけやがる。
「何をするんだ」
「お館様が生きたまま連れてこいとおっしゃっていたのでな。殺してしまう方が手間が省けていいのだが、ご命令とあれば仕方がなかろう」
藤吉郎は半笑いで事もなげに言い切る。
女関係だけでなく、あらゆる点で信用のならない男だ。
「そっちがその気なら、寧々さんに、おまえが結婚する気がないと教えてもいいのか」
「それは困るが、他の女子に堂々と手が出せると思えば悪くもないかのう。お市様とか……」
うっとりと鼻の下を伸ばしかけた藤吉郎が首を振って真顔になる。
「おっと、話をそらそうとしても無駄だ。おぬしも、お館様に疑われておると分かってるのなら、戻ってこずに今川の客将にでもなっておれば良かったものを、馬鹿正直に濡れ衣を晴らそうなどと甘いことを考えておるからいかんのだ」
そして、松平の武将二人に向かって牽制した。
「酒井殿と本多殿は手出し無用でござるぞ。これは織田家の意向じゃ。松平家との会談をおこなう条件と思ってくだされ」
酒井忠次も本多忠真も顔を見合わせながら言葉に詰まっている。
真顔のクズが一番始末に負えない。
「お二人とも、俺は大丈夫ですから、予定通り清洲の会見にのぞんでください。今はとにかく織田家と同盟を結ぶことが最善の選択です」
結局のところ、松平を東の防壁にするシナリオに変更はない。
織田信長を説得できなければ、どちらにしろ『俺の野望もこれまで』なのだ。
「そなたがそう言うのなら、我らはそうするしかない」と、酒井忠次が本多忠真に目配せしながらうなずく。
「作兵衛も覚悟を決めろよ」と、俺は影武者三人組に向かって言った。
「分かってるよ」
「影武者がバレたら世良田村の連中もただではすまないからな」
「村は関係ねえだろ」
「尾張のうつけと言われた殿様だぞ。やるなら徹底的に根絶やしだ。村ごと焼き払われる」
俺の言葉に三人とも黙り込む。
脅しじゃない。
信長とはそういう男だ。
史実を知らない連中には通じないが、一向一揆の弾圧や比叡山の焼き討ちなど、まさかということをやってのけた男なのだ。
だからこそ、俺だって今こうして藤吉郎に縛られてるんだし。
「だが、逆にうまくいけば家族にもいい思いをさせてやれる。おまえたちしだいだ」
三人はお互いに目配せをしながらうなずきあっていた。
巻き込まれた作兵衛、久作、六太郎の三人組には気の毒だが、こうなった以上、シナリオ通りになりきってもらうしかないのだ。
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