(6-3)
義元は近習の者へ目配せして白木の盆に載った布包みを持ってこさせた。
「その方の労に報いて、これを授ける」
開かれた布から現れたのは黒漆の鞘に金地紋が入った短刀だった。
「ありがたき幸せ。我が懐刀として戦場の守りといたします」
両手で押し戴き受け取った忠真は核心の話題を持ち出した。
「拙者、風の噂で南蛮人が織田方の動きを知らせたと聞き申したが、まことでございますかな」
「岡部五郎兵衛」と、義元は元信に目をやった。
「ははっ」
「その方が取り次いだのであったな。申してみよ」
主君に指名されて岡部元信が目を泳がせながら答えた。
「鳴海城にデイブ・スミッシーなる南蛮商人が来訪し、織田家の動きについて火急の話があると申し大殿様へのお取り次ぎを求めたのでございます。かの者は駿府にても見かけたことのある信頼できる者ゆえ、拙者、これは御家の一大事とばかり、沓掛城へ案内したしだいでございます」
――やはり、デイブだったのか。
俺の顔を見て前田利家もうなずいている。
これで疑いは晴れただろう。
「なるほど、分かり申した」と、いったん頭を下げた本多忠真は今川義元へ向かって言上した。「しかしながら、デイブ某という南蛮人が織田家の動きを伝えたのは、そもそも織田家ともつながりがあるからではございませぬか。信用のおける者かは疑問でございますな」
「め、めったなことを申すな」と、岡部が絶句している。
ざわつく場を治めるように今川義元は落ち着いた声でたずねた。
「本多殿、その話の根拠は」
「鳴海城の明け渡し交渉をした際に織田家の者がそう話しているのを聞き申した」
脳内配信ではそのような場面は見なかったし、本当は俺や前田利家の話から類推したんだろうが、松平家臣として、逃げた今川、特に岡部元信への意趣返しのはったりなのだろう。
実際、岡部元信の顔面からは滝のような汗がしたたり落ちている。
忠真はその表情を見てニヤリと口元に笑みを浮かべた。
「今川に恩を売り、織田からも利益を引き出す。南蛮人はしょせん異人。我ら和人から吸い取れるだけ生き血を吸い取る妖怪やもしれませぬな」
「なるほど、あい分かった」と、義元が深くうなずく。「南蛮人とは油断のならぬ者よ。デイブなる商人、今度来たときは捕らえておくべきかもしれんのう」
岡部元信はただひたすらに平伏し、居並ぶ家臣たちはみな大殿の言葉にうなずいている。
無実の罪を着せられるところだった俺にしてみれば、あいつが実際に捕らえられるまでは安心できないが、今川にも織田にも追われれば無事では済まないだろう。
だが、日本を出てしまえば手出しはできない。
その場合は、あいつがせっかくのスパイ活動で得られるはずだった利益をどちらも取り損ねたということで納得するしかないのかもな。
まあ、俺としては自分が生き残れるなら、どうだっていいんだ。
戦国時代に来た時から、野良犬にでも噛み殺されてゲームオーバーになっていたかもしれないんだからな。
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