(6-2)
俺たち一行はすぐに本丸御殿に上げられ、本多忠真は今川家臣の並ぶ広間へ通された。
従者である俺たちはその隣の控えの間で待つように指示されていたが、脳内ディスプレイには次々に武将のステイタスが表示されていた。
《松井宗信:遠江二俣城主:統率45、武勇78、知略40、政治56》
《由比正信:今川家臣:統率36、武勇28、知略36、政治37》
《井伊直盛:井伊谷城主:井伊直虎の父:統率78、武勇62、知略70、政治37》
この武将たちはみな史実では桶狭間の戦いで戦死しているはずだ。
それがこうして生きてこの場にいるのは、俺が歴史を変えたからなんだろうか。
いや、俺は弱気な織田信長を引っ張り出したわけで、むしろ史実に忠実なシナリオを描いたはずだったんだ。
それを変えたのはデイブだ。
あいつの密告が今川軍団を救ったんだ。
「大殿のお成りである。みなの者控えよ」
伝奏役の声と共に、隣室のみなが一斉に平伏する衣擦れの音が聞こえた。
襖を隔てたこちら側の前田利家も頭を下げるので、俺と六太郎忠勝も慌てて礼儀に習った。
と、同時にもう一つ画面がポップアップした。
《今川義元:海道一の弓取り:統率113、武勇105、知略80、政治104》
うおっ、なんだこの数値は。
上杉謙信や武田信玄と並ぶチートじゃねえかよ。
脳内モニターに襖を隔てた隣室の様子が中継される。
今川義元と言えば貴族階級の麻呂眉っていうイメージだったけど、引き締まった顔に髭を生やし、鴨居に頭をぶつけそうなほど背が高く、肩幅が広く筋肉質の肉体はまるでアメフト選手みたいに逆三角形だ。
史実のように桶狭間で無様に討ち取られる武将にはまったく見えない。
ていうか、織田信長よりもこっちの方が『戦国の風雲児』にふさわしいくらいだ。
真・織田信長として覚醒した姿ですら、この迫力にくらべたら挑戦者にしか見えない。
それでも本多忠真は物怖じすることなく今川義元へ口上を述べた。
「織田方は追撃の手を緩めてはおりませぬ。若殿自ら殿を務め、沓掛城にて今川家のために時間を稼いでおりますが、落城は時間の問題。ゆえに速やかに岡崎を退去していただきたい」
「うむ、分かった。元康殿の働き、この義元しかと感じ入った。今宵は兵を休ませ、明朝日の出と共に曳馬城へ向かおうではないか」
堂々とした態度のよく通る声が控えの間まで聞こえてくる。
俺は脳内モニターに流れる音声を聞いているが、前田利家と六太郎忠勝の耳にもちゃんと届いているようだ。
「猪侍は前へ進むことしか考えぬが、名将はためらうことなく兵を引かせる。事実、今川の兵は一人たりとも減ってはおらぬ。今頃織田のうつけは歯ぎしりしておることであろうよ」
松平の犠牲者のことなど眼中にない言い方に本多忠真はただ拳を握りしめてこらえていた。
「賢明なご判断、痛み入りまする」と、忠真が本心を隠して平伏した。「逃げることなく懸命に戦った我らも報われまする」
「うむ、今川の松平に対する信頼は今後も揺るがぬものであるぞ」
感想・ブクマ・評価ありがとうございます。




